テーラーバンク(岐阜市、永井正継社長)は、服のお直し、補修、クリーニング、保管などのアフターケアを一括で提供するサービスに本腰を入れる。主要取引先のオーダースーツ店を通じて、消費者が服を買った後の課題に応える。ブランドと消費者との長い関係作りに貢献する考えだ。
「カシヤマ」のオンワードパーソナルスタイル、グローバルスタイル、ファブリック トウキョウなど主にパターンオーダー(PO)のスーツを展開する企業に向けて、ウェブシステムでアフターケアを丸ごと提供できる態勢を11月に整えた。オーダースーツ店は、顧客から注文を受けた袖や裾、ウエストなどのお直し、ほつれや穴あきなどの補修、クリーニング、保管などをオンライン上で管理できる。仕上がった服の発送日の指定も可能だ。オーダースーツ店と工場とのやりとりは、いまだにファックスや電話で行う場合が多い。デジタルを用いて効率的に運営できるようにした。
テーラーバンクは60年以上の歴史を持つ紳士服OEM(相手先)メーカー、キンググロリー(岐阜市、松久成享社長)の子会社として2019年に設立された。大手紳士服専門店のスーツを作り続けてきた経験を生かして事業領域を広げる。
目をつけたのは新規参入が増えていたPOだった。POは体形を採寸するものの、ゲージサンプルを土台にして完成品を作るため、必ずしも客にフィットするとは限らない。またタイトなシルエットを好んだり、ゆとりのある着心地を好んだり、客の求めるフィット感が異なったりもする。微修正に対する潜在的なニーズがあると判断した。オーダースーツ店にとっても微修正によって顧客満足が高まれば、リピートにつながる。
岐阜市内の社内に専門工場を設けた。永井社長は「服を作ることと、服を直すことは全く違う技術。生産性を上げるため、消費者の体形や数値データのデジタル化に同時に取り組んだ」と振り返る。データを蓄積することで、最適値を探り、多量のお直しに対応できるように改善を重ねた。スーツだけでなく、コート、シャツ、ドレス、スカートなどの幅広いアイテムも扱っている。
5人のスタッフで始まった専門工場は、現在30人体制に拡大した。19年の立ち上げ以降、お直しの数(お直しの箇所数)は倍増ベースで増えており、直近の1年間で約3万8000に達する。同社のある岐阜市は縫製業が盛んな地域だが、技術者の高齢化が懸念されている。同社ではリタイアしたベテラン技術者を採用して未経験者を育成したり、主婦層の時短雇用を積極的に行なったりしている。事業拡大に伴い、関東や関西での工場設立も視野に入れる。
現状はお直しが中心で、補修、クリーニング、保管は受け入れ態勢を整えたばかりだが、永井社長は「一着の服を長く愛用したいという需要は高まっている。アパレルが顧客とライフタイムバリュー(LTV)の関係を築く上の重要なメニューになる」と期待を寄せる。中長期的にはリサイクル、リユース、リセール、廃棄に至るまでサービス領域を広げる。