サステナビリティ

クラボウ、“ヒューマン・フレンドリー”な糸から生地を一貫生産

 大手繊維素材メーカーのクラボウは1993年、人・社会・環境に配慮した「ヒューマン・フレンドリー発想」をものづくりの基本方針として打ち出した。以来、紡績・織布を行う安城工場と染色・加工を行う徳島工場を中心に、環境への負荷を最小限に抑えながら、人々の暮らしを豊かにする素材の開発に挑んできた。「ヒューマン・フレンドリー発想」に基づく、同社の取り組みを紹介する。

「ヒューマン・フレンドリー発想」は
クラボウの企業DNA

 クラボウは岡山・倉敷の地で紡績会社として1888年に創業した。創業当時の倉敷本社工場では、工場の壁面をツタで覆い温度調節をする省エネ対策や井戸水の循環利用など、環境に負担をかけずに働く人々の労働環境を快適にするためのさまざま工夫が行われていたという。クラボウの「ヒューマン・フレンドリー発想」は、創業以来脈々と受け継がれてきた企業DNAから誕生したものなのだ。持続可能な社会への転換が求められている今、「ヒューマン・フレンドリー発想」はさらに重要性を増している。同社は業界全体の旗振り役となるべく、2020年には伊藤忠商事と環境に配慮した商品開発やビジネスモデルの創出などを目的とした戦略的パートナーシップ契約を締結。21年8月に発足した環境省が主導する企業連携プラットフォーム「ジャパンサステナブルファッションアライアンス」加盟メンバーとしても、ものづくりの視点を生かしサステナブルなファッション産業への移行を推進していく。

裁断くずを生まれ変わらせる
「ループラス」で廃棄のない未来を共に

 クラボウは「ヒューマン・フレンドリー発想」の下、裁断くずを回収して新たな糸へ生まれ変わらせるアップサイクルシステム「ループラス」を2017年に始動した。一般的な縫製過程において、使用する生地量の約15%程度の裁断くずが発生し、その多くが廃棄処分されている。同社は「ループラス」を通して、自社だけでなく業界全体で繊維廃棄物を削減する「ゼロエミッション」の達成を目指す。まず、提携する縫製工場から出た裁断くずを回収し、安城工場で反毛機にかけて綿状に戻したのち、紡績糸にする。そこから、自社工場および協力工場と連携し、糸を編立て、織布し新たな生地・製品へと生まれ変わらせる。特に反毛の工程では、反毛綿を衣料品向けの糸に生まれ変わらせるために同社が130年以上の歴史の中で培ってきた独自の技術が生かされている。「ループラス」で生まれる生地は、アップサイクルならではの色合いや柔らかな風合いも魅力だ。今後は回収衣料からの再生も視野に入れ、さらなる企業の参加を呼びかける。
 同社は「ループラス」を広く普及させるため、アパレル企業との取り組みに注力する。エドウインもクラボウの「ループラス」と連携し、自社工場で生まれる裁断くずや消費者がはかなくなったジーンズを回収して、新たなデニム生地やジーンズにリサイクルする循環型ジーンズプロジェクト「コア」を進める。クラボウの安城工場では専用ラインを設け、2022年から全ての“503”で使用するデニム生地を「ループラス」から生まれる再生デニム生地に順次切り替えていく。細川秀和エドウイン企画本部長は、「自社工場を抱えるわれわれは川上から川下までの全ての工程に責任を持つために、自社工場で年間約400トン出る裁断くずにもトレーサビリティーを担保する方法を模索していた。かねてより付き合いがあったクラボウの『ループラス』が、思い描いていた循環型のビジョンをかなえる突破口になった。われわれは循環型の商品をデフォルト化することを目指す。そのためには、これまでの商品と差が出ないような糸・生地開発が必要。クラボウはそこを一貫して責任を持ち担ってくれる心強いパートナーだ」と話す。

サステナブルな高付加価値素材を
生み出す徳島工場

 徳島工場では、人・社会・地球に配慮した思いと設備で生地の染色やさまざまな機能加工を行う。クラボウのエンジニアリング部門やエレクトロニクス部門が独自開発した高度な技術を繊維の生産現場に生かすことで、“ヒューマン・フレンドリー”なものづくりを実装する。天然ガスへの燃料転換や蒸気・排熱を回収・活用する仕組みも構築し、2020年時点では二酸化炭素排出量が1998年度比で57.4%を達成した。さらに、高度な排水・汚水処理、水の再利用を徹底し排水量は同年度比44.8%を削減した。そのほかにも、焼却灰をセメント化したり、染料缶や鉄くずなどを金属原料として再資源化したりするなどして、埋め立て廃棄処分の削減にも努めている。また、敷地内には、地元の間伐材を燃料とした木質バイオマスの発電所も完備する。

徳島で生まれたサステナブル素材

 こうした環境に配慮した生産工程を持つ徳島工場では、人々の暮らしをより豊かにし持続可能な社会へとつなげることを目指した高付加価値素材を提案する。撥水加工素材「アクアマジック」は、環境や人間の健康への害が懸念されるフッ素系撥水剤を用いずに高い撥水性を担保する。白化防止加工素材「フェバー」は、生地の中までしっかり染色し、さらに特殊な仕上げによって着用後の洗濯による生地の白化を防止する。「リンクルマジック」は綿の風合いを保ちシワの発生を抑え、ついたシワも戻るイージーケア性が特徴。

問い合わせ先
クラボウ大阪本社 事業推進部 繊維企画課
06-6266-5303