国内有力ブランドの2022年春夏の提案がほぼ出そろった。「スナイデル(SNIDEL)」「フレイ アイディー(FRAY I.D)」など、20〜30代女性に支持されるブランドを多数擁し、リアルトレンド市場をけん引する企業の一つがマッシュスタイルラボだ。同社の商品企画を統括する楠神あさみ取締役企画本部長に、22年春夏の展望を聞いた。
WWD:今秋冬(9〜11月)の店頭の動向について教えてほしい。
楠神あさみマッシュスタイルラボ取締役企画本部長(以下、楠神):当社全体の売り上げは、前年の同期間を上回って推移している。ここまで(〜11月下旬)は例年と比較して温暖な日が多く、街中ではカーディガンのような軽めの防寒着を着ている人も目立ったが、ようやく重衣料が本格的に動き出した。11月には初のブランド横断型コート販売イベント「コートラボ」を自社ECモール「ウサギオンライン(USAGI ONLINE)や商業施設のポップアップスペースで実施した。昨年よりも在庫は多めに積んだものの、完売する品番も多数出た。傾向としては、定番的で廃れないデザインよりも、心をくすぐるような色柄やディテールのある商品の動きがよかった。
WWD:緊急事態宣言の解除(10月1日)が大きな転換点となった?
楠神:そう思う。個人的な体感としても、表参道や新宿、渋谷などはコロナ禍以前を思い出すような人流が戻ってきている。旅行も海外は難しいが、国内では観光名所のホテルや温泉宿は数カ月先まで予約が取れず、驚いている。そういった服を「見せる」場が選択肢に増えてきていることは、当社だけでなくファッション産業全体にとって好材料だ。
街を歩いている女性は、「これを着たくて着ている」という意思を感じるような、パワフルな装いが目につくようになった。コロナが猛威を振るっていた時期は女性の服装がベーシックに向かった。家の中での暮らしに目が向き、安全・安心が第一という世の中のムードの影響で、ファッションにも「自分のことで精一杯」という保守的なマインドが表れていた。今はそのようなムードは残りつつも、周りの女性の格好を気にする余裕が出てきたように思う。
だから「右ならえ」をする時代ではないけれど、新たな「トレンド」と呼べるスタイルが生まれる余地はあると考えている。弊社としても、ここ数シーズンは、女性の本来持つ魅力を引き出すような商品企画を徹底してきたが、これからは「今ってどんな気分だろう?」というような、ライトな投げ掛けから生まれるユーモアや遊び心のあるデザインも大事になると考えている。
WWD:22年春夏において、21年春夏〜秋冬から継続するトレンドは?
楠神:マーメイドスカートの人気はまだまだ衰えないだろう。「スナイデル」では他ブランドに先駆け、20年春夏ごろから人気に火が付き始めた。トレンドを自ら仕掛けるには、アイテム単体ではなく、着こなしで訴求することがカギになる。「スナイデル」はブランドのインスタ投稿に加え、自社ホームページでは身長別でマーメイドスカートを使った着こなし提案も行った。こういった粘り強い発信が種まきになったと自負している。
また、「スナイデル」22年春夏の新作シャツのような鮮やかなグリーンカラーも、感度の高い層を中心に、街中で見られるようになってきた。このような強い発色は、従来日本人には敬遠されるものだった。しかし不思議ではあるが、私自身にも「着てみたい」という前向きな気持ちが芽生えている。インフルエンサーがSNSを通じ、グリーンを上手に取り入れた等身大のコーデを日常的に見せてくれているからだと思う。今後は「フレイ アイディー」の新作スカートの鮮やかなオレンジのような、彩度が高い別のカラーも売れ筋に浮上しそうだ。
WWD:22年春夏の新たなキーワードは?
楠神:デニム素材に注目したい。海外有力ブランドのランウエイでも見られたような、シャツやネイビーブレザー、ファンシーツイードジャケットといったトラッドなアイテムを着崩すスタイルがアップカミングだと感じている。また、「スナイデル」ではフェミニンなデザインのワンピースをデニム素材で企画したが、事前受注の反応がすごくいい。「リーバイス(LEVI’S)」との初のコラボジーンズも発売する予定だ。ミニ丈のスカートとブーツの組み合わせは、10〜20代の若い層以外にも広がっていくだろう。22年春夏の展示会では、30代以上の大人向け女性誌の編集者たちの関心も高かった。
WWD:例年、秋の始めごろまで厳しい暑さが続く。MD面での対策は?
楠神:端境期でもセール品かどうかに関係なく、そのときお客さまが着たい物が売れる、という傾向はますます顕著になってきている。秋色・夏素材のワンピースなど、リアルタイムで着られる商品の打ち出しは一層強化する。
「WWDJAPAN」12月6日号は国内ウィメンズアパレル市場にフォーカスした「2022年春夏リアルトレンド特集」。
近年は大きなトレンドの消滅や「無駄な服を買わない」というサステナブル意識の高まりで、一般女性も春夏・秋冬をまたいで服を使い回すシーズンレス傾向が加速。それに伴いファッショントレンドも季節の境目が曖昧になっている。
本特集では、11月に都内各所で実施したストリートスナップで、22年春夏シーズンの「売れるトレンド」のヒントとして浮かび上がった6つのキーワードを紹介する。