DJ、音楽プロデューサーのNight Tempo(ナイト・テンポ)は、世界中で人気が再燃している日本のシティ・ポップブームの火付け役の1人として知られる。韓国出身で、日本のレトロカルチャーの魅力を欧米を中心とした世界に発信する彼は、竹内まりやの「プラスティック・ラブ」をリエディットし、インターネットでその名を知らしめた。2019年にはフジロックフェスティバルの最終日に出演し、日本とアメリカでの活動の幅を広げている。音楽のみならず、1980年代を中心としたレトロカルチャーの“キュレーター”として注目を集める彼の音楽、ファッション、そして12月1日に発売した初のオリジナルアルバムについて話を聞いた。
WWD:音楽活動はいつから?
Night Tempo:元々はサラリーマンとしてプログラミングをする傍ら、趣味で音楽を作っていました。音楽は独学で、インターネットで情報取集したり、ユーチューブ(YouTube)のチュートリアルを見たりしました。2019年にサラリーマンを辞め、正式に仕事として音楽をやっています。
WWD:12月1日に発売した初のオリジナルアルバム「Ladies In The City」のテーマやインスピレーションは?
Night Tempo:1990年代前半、都会に住む女性がメインのイメージです。1980年代と2000年代が重なる世界観で、この頃のドラマに出てくる都会の景色やファッションなどの文化をいろいろ参考にしました。その時代の音楽を再現するだけではなく、自分らしさを加えた“都会的な音楽”です。
WWD:都会というのは東京?
Night Tempo:東京ではなく、“東京みたいな都会”といったところでしょうか。この時代、大阪、ソウル、香港や台北などアジアの都会には共通していることが多く、特に当時のファッションなどの都会的な文化はほぼ一致していると思います。なので、特定の都市ではなく、“女性の社会進出が盛んになった時代のアジアの都会”をイメージしています。また、日本の音楽業界はカテゴリー分けをしっかりする印象なのですが、自分はジャンルなどは特に決めていなくて別路線だと考えています。
WWD:今までの楽曲は80年代のイメージが強かったが90年代にフォーカスした理由は?
Night Tempo:アルバムの制作を進めていく中、ハマったという感じです。90年代は前半と後半でかなりイメージが違うと思っていて、後半は経済的にも厳しい状況もありましたが、前半は豊かだったと思います。特に韓国も96年くらいまでは豊かでした。日本の年代感覚とはズレるかもしれませんが、シティ・ポップが描く景色と自分が経験した韓国の豊かな都会のイメージと重ねられるのがちょうどこの年代でした。
WWD:インスピレーションとなるレトロカルチャーのリサーチの方法は?
Night Tempo:インターネットでのリサーチはもちろん、その時代の物にもインスパイアされます。とりあえず集めておいたレトロなアイテムのコレクションを後からチェックすることも多いです。日本にはいろいろなジャンルのマニアがいるので、90年代の「カシオ(CASIO)」のデジタル時計の図鑑があったりして、それに載っている時計を買ったりとコレクションを増やしていきます。コロナ禍の前、日本に行けた時は直接掘り出し物を探していましたが、最近は中古サイトを活用しています。90年代、韓国の富裕層は日本製のものを使う傾向があったので、日本に行けなくてもゲットできることもありますね。
WWD:現代の音楽は聴く?
Night Tempo:あまり聞かないです。仕事として音楽を始めてから数年でまだまだこれからなので、他の音楽を聞いている余裕がないのが現状です。収集したカセットやレコードが合わせたら1000本以上はあると思います。まだ聴いていないものも多く、今は好きなものに集中して、後からいろいろ他の音楽を聞いてもいいのかなと考えています。おじいちゃんになってからかも知れませんが(笑)。
WWD:普段のファッションもレトロな物が多い?
Night Tempo:昔はよくスポーティーな古着のトレーナーを着ていました。特に「プーマ(PUMA)」と「エレッセ(ELLESSE)」が好きでした。最近は好みが変わって、90年代のサラリーマンをイメージしたダブルスーツにハマっていて、色んなカラーで集めています。トレンディドラマに出てくるような、“実際に会社に行ったことはないだろうけど、そういう演技をするサラリーマン”のラフなスーツスタイルです。角松敏生さんを参考にしています。スーツは、新品だけど眠っていたものをメルカリ(mercari)などオンラインで見つけて、それを自分にフィットするようにお店で仕立ててもらい日常的に着ています。スーツに合わせて日本製のメガネも集めています。ウィメンズのレトロファッションは一般的ですが、メンズはまだまだだと思います。なので、ライバルも少なく簡単に収集することができますね。
WWD:音楽の制作にもファッションは大事?
Night Tempo:気合という意味で大事だと思います。特にシティ・ポップなどを作るにあたって、当時の人になりきってタイムスリップをすると、より本格的で味のある音楽が作れます。ファッションは音楽の色にもなるし、世界観という意味で重要です。「シティ・ポップ作っています」と言った時に、ヒップホップ系のファッションをしているより、ダブルスーツの方が説得力ありますよね(笑)。
WWD:これから挑戦したいことは?
Night Tempo:最近、都会的でレトロなスポットを背景にスーツを着た写真をインスタグラムにアップしているのですが、自分だけでなくてモデルさんを起用して写真集をプロデュースできたらと考えています。ちゃんとファッションスタイリングとかもして、そういうスポットのガイドブック的写真集を作りたいです。例えばソウルの昔の航空写真を手に入れて、その当時からある建物を探しに行ったりしています。シティ・ポップが海外で人気になったように、アジアのレトロで都会的なデザインの素晴らしさも海外の人にも知ってほしいという思いがあります。