ファッション

服とウツワの“交差点”に立つ陶芸家・吉田直嗣

 コロナ禍で、消費者の意識は家の中の暮らしへ向いた。ファッションをメインに取り扱うショップでも「ライフスタイル提案」をうたい、皿やコーヒーカップなどの調度品を売り場に並べる店は増えている。

 それ以前から、陶芸家・吉田直嗣(45)の作る器は、コアなファッション愛好家や業界人の間で注目を集めていた。彼の作品は「グラフペーパー(GRAPHPAPER)」や「レクトホール(RECTOHALL)」といった高感度なセレクトショップが買い付け、個展ではおしゃれな若い客を見かけることも多い。自身も「ブルータス(BRUTUS)」(マガジンハウス)「ウオモ(UOMO)」(集英社)といった男性誌にも登場し、ファッション好きとしての一面も見せる。

 抑揚の効いたフォルムと、黒と白で表現するストイックな世界観の作品で、コアな陶芸愛好家からの評価も高い。そんな彼の作る器が服好きにも刺さる理由とは。東京・代々木上原のギャラリー「アエル(AELU)」の個展(12月12日まで)で吉田に話を聞いた。

WWD:コロナ禍で、陶芸家の仕事はどう変化しましたか。

吉田直嗣(以下、吉田):ギャラリーや僕以外の作家からは、(器が)以前より売れるようになったという声が聞かれます。僕は富士山の麓(静岡県)にあるアトリエにこもっているので、身の回りで特段変化は感じられないんですが。

WWD:陶芸には明るくないのですが、「グラフペーパー」の展示で吉田さんの器を知り、興味を持ちました。

吉田直嗣:同じように陶器は買ったことがなけれど、僕の器の「デザインが好き」と言っていただける方も多くいらっしゃいます。陶芸に造詣の深い方に評価していただけることはもちろんですが、その世界にはないものさしで見ていただき、気に入ってもらえるのはとても嬉しいですね。

 僕が作陶で大事にしていることも、今の僕が見て「美しい」と感じられるか、という一点です。店に並べたあとは、お客さまに想像を膨らませていただき、直感で買ってほしい。逆に「このお皿はどう使うのが正解なんですか?」などと聞かれると、困ってしまいます。

 「グラフペーパー」には5〜6年くらい作品を置いてもらっていますが、(ディレクターの)南(貴之)さんも、僕の器を「焼き物」としては見てらっしゃらないような感じがします。店内空間を作るオブジェであると同時に、洋服と同じフラットな目線で「好き」かどうかで選んでくれている。だからありがたいんですよね。

WWD:今日も「グラフペーパー」の服を着ていますね。

吉田:はい、普段はこればかりです。ファッションは好きなのですが、学生時代はお金は全て陶芸の勉強に投資していましたし、陶芸家としてはご飯を食べていくのでやっとという時期が続いたので、そんなにたくさんの服に袖を通してきた訳でもありません。

 同じ作り手としての目線で話すと、ファッション業界は一流の領域でも分業制が成り立っていてすごいなと思います。僕は今回の個展で500個ほど作品を納入しましたが、全てこの1カ月くらいの間で一気に作りました。普段もこんな感じです。自分でデザインを考え、ろくろを回し、クリエイションを完結できるのが陶芸家の醍醐味だとも思っています。でもファッション業界では、デザインを考える人と縫い針を動かす人は離れているのに、最終製品のクオリティーがしっかり担保されている。エモーショナルな要素とロジカルな要素のバランスが優れている人たちでないと、できない芸当だと感じます。

WWD:シーズンで消費されていくファッションと違い、器には普遍的な魅力を感じます。

吉田:もちろん、器にもその時代のトレンドがあります。ただ、そういった大きな流れよりも「この作家のこれがほしい」というこだわりを持ち、本当に気に入った器を買われる方が多いと感じます。器の世界は、伝統的な作風にこだわり続ける職人も入れば、前衛的な作家まで、本当に多種多様な作り手が息づいています。それを理解し、支えてくれるコアな人たちがいるから、僕も食べていけています。

 服に関しても「新しいものほどいい」という考え方が薄まれば、消費者は本当に大切にできる1着を求めるようになるでしょう。すると「安い」「使いやすい」という合理性よりも「好き」が大事になり、作り手の個性がもっと表れる風景になりそうです。ファッションと器の買い方は、だんだん似てくるかもしれませんね。

 コロナ禍で、大手のアパレルやセレクトショップさんなどを中心に(取り引きの)お声掛けをいただくことは増えています。ファッション業界には、器の世界では味わえない華やかさや(トレンドの)スピード感があります。その中に浸かり、感じたことをろくろの土に混ぜることができたら、作家としてもっと成長できるのではないかと感じています。

■吉田直嗣 個展 「境界」
日時:12月3日(金)〜12日(日)
会場:AELU(gallery)
住所:東京都渋谷区西原3-12-14 西原ビル4F

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