服や衣装のデザイナーにとってテキスタイルはパーツの一つに過ぎないが、服を単一のプロダクトとして考えた場合に目に入るほぼ全てを構成する素材でもある。ならば服のビジュアル表現を考えれば、テキスタイルを極めるのが一番ではないか。”テキスタイルモンスター”を自称する27歳の新進気鋭のテキスタイルクリエイター、羽生菜月もそう考える一人だ。「有名無名にかかわらず、色んな人とお仕事をしたいし、ファッションやアートに限らず、既存のカテゴリーにはめられたくない。テキスタイルモンスターは自由でいたいという気持ちを込めている」という。
テキスタイル作りを目指すきっかけは、ファッションだった。高校生の時にあるファッションデザインコンテストに参加し、進学先に女子美術大学でファッションを学ぶことを選んだ。ただ、当時は「課題や制作に取り組んでも、なんかいつもピンと来なくて。みんなが課題で”服”を作っているのに、私は生地を細かく割いて編んだり織ったりしたバッグらしきものを作っていた」と振り返る。
転機になったのは、女子美を卒業後に留学したセント・マーチンズ美術大学ファンデーションコースだった。「布以外の素材でテキスタイルを作ったりしていたら、それがいいと認められた。私が作りたかったのは、これなんだって気づいたんです」。本格的なテキスタイル制作に取り組むため、ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)に進学することになった。
進学後すぐにコロナ禍になり、英国は厳しいロックダウンを敷いたため、英国滞在をを切り上げて1年前に帰国。日本で制作を続け、今年6月にRCAを修了した。「実質的に英国に滞在したのは2年弱。もっと居たかったという思いもあるけど、制作自体にはそれほど不便さは感じなかった。修了制作のプレゼンがオンラインだったのは、さすがに大変でしたが(笑)」。
アトリエ兼作業場は東京の実家。「私の制作スタイルは、子どもの頃の工作の延長。生地をオカダヤとかで買ってきて、切ったり縫い付けたり染めたり編み込んだり。明確なイメージが合って作り出すというより、手を動かしながら最終のゴールが見つけていく。ベースとなるコンセプトが人間の動きとテキスタイルの関係を探ること。基本は人が着ることを前提に作っています。なので制作時は何度も自分で着てみてしっくりくるまで、調整しながら作り続けます。他人との制作でなければ、満足行くまで直し続けるので1作品に1カ月くらいかけています」。
そんな羽生が衣装関係者の注目を集めることになったのは、今年9月に開催された東京パラリンピックの閉会式だった。閉会式に過去の作品を3体貸し出したところ、閉会式のクリエイティブディレクターの一人だった演出家の潤間大仁の目に止まったのだ。
潤間氏は、総合演出を務める12月9日から東京の明治神宮外苑の正徳記念絵画館で開催の「トウキョウライツ(TOKYO LIGHTS)」のメーンコンテンツの一つである光とダンスと映像のエンターテインメントショー「リフレクション-いのちのひかり-」へ、羽生に参画を依頼した。「リフレクション」のコスチュームデザイナーは、齋藤ヒロスミ。東京パラリンピックのコスチュームディレクターを務め、羽生の作品を取り上げ、直接潤間氏に紹介した本人でもある。羽生は「リフレクション」のため、3体分の衣装を制作した。「これほど大掛かりなプロジェクトに参加するのは初めて。でも齋藤さんが、とても丁寧かつ親身になってバックアップしてくださって。激しい動きをするダンサーのための衣装なのですが、私の経験が足りずなかなかそうした作りに対応しきれないことも多いのですが、私のクリエイティブの持ち味を生かすためにどうするかを、一緒になって、ときには斎藤さんやアシスタントさんが実際に手を動かして修正していただいたりしています」。「リフレクション」は9〜12日にかけて、全13回上演される予定だ。
今後について「最近は自分の作品の完成度は70%にして、コラボレーションした方々と一緒に残りの30%を上げていくというスタイル。演劇、音楽、ファッション、アート。色んな分野の人たちとコラボレーションしていきたいと思っています」。
■REFLECTION ‐いのりのひかり‐
光の祭典「TOKYO LIGHTS」内イベント
日程:12月9日〜12月11日
時間:1部 17:10〜/18:35〜 2部19:10〜/20:35〜
(12月9〜11日)
12月12日 17:50〜
※一回のみの公演
場所:明治神宮外苑総合球技場軟式球場
入場料:無料(人数制限のため事前予約必須)