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【サステナ対談】注目企業ドレスX ×「トモ コイズミ」デジタルファッションで自己表現欲は満たせるのか?

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 「WWDJAPAN」は11月24日、オンラインイベント「WWDJAPAN SUSTAINABILITY SUMMIT2021」を開いた。今年は「近未来のファッション」をテーマに国内外から9人が集まり議論を交わした。セッション2は日本のメディア初登場となるデジタルファッションの先進企業、ドレスX(DRESSX)からダリア・シャポヴァロヴァ(Daria Shapovalova)共同創業者兼CEOが登場し、デジタルファッション参入を発表したばかりの「トモ コイズミ(TOMO KOIZUMI)」小泉智貴デザイナーとその可能性について語り合った。全体を通じてポイントとなるのは「デジタルファッションは自己表現力を満たすのだろうか?」という問いだ。

WWDJAPAN(以下、WWD):時差がある中、真夜中のロサンゼルスから参加ありがとうございます。ドレスXについて教えてください。

ダリア・シャポヴァロヴァ=ドレスX共同創業者兼CEO(以下、ダリア):ドレスXは世界初のデジタルファッションのオンラインストアで、約1年前に立ち上げました。今のところ、本当に素晴らしい旅路となっています。ファッションはすでに民主化はされているけれど、地球上の人たちが誰でもリアルタイムで身に着けることができることにはなっていない。その答えが私にとってはデジタルファッションでした。

 私は服を買うことが大好きだし、デザイナーの皆さんを本当に愛し、敬意を抱いています。でも時にはドレスはデジタルだけでもいい、それで満足できる場合もある。私たちは長い時間をオンライン上で過ごすようになりましたよね。オンライン上でもファッショナブルに美しく映りたい。そう考えたとき、デジタルファッションにはマネタイズのチャンスがあると考えました。デジタルでもクリエイティブに表現することができます。ワードローブの制限もありません。物理的に表現できないようなデザインも可能です。ドレスXではユニークなデザインのアイテムが人気です。たとえば美術館や博物館に収蔵されているコレクションをデジタルで身に着けることもできます。デジタルであれば永遠に存在することができるのです。

 また、物理的な衣服の製造よりもCO2の排出量を97パーセント削減し、水の消費量もはるかに少なくなっています。

WWD:始めたきっかけは?

ダリア:ウクライナでは18歳の頃からテレビでファッションの番組を持ちその後、キエフでファッションウイークを立ち上げました。ファッション業界で15年働き、根本的な変化が必要だと思ったのです。多くのインフルエンサーが服を着てSNSに1回ポストして終わり。SNSだけならデジタルでよいのでは?と思ったわけです。

WWD:今ファッション業界が抱える課題がドレスXの起点だったのですね。

小泉智貴「トモ コイズミ」デザイナー(以下、小泉):ダリアさんがファッション業界で働き、「もったいない」という実感を基にデジタルを始めている点が強い。もうかりそう、から始めるとあまりうまくいかないですよね。それに日本で売っていないファッションをリアルタイムで欲しい人は多い。どんなに配送が速くなっても海外からだと2~3日はかかります。熱が冷めないうちに購入して即SNSにアップできて、かつ環境に配慮できる仕組みが素晴らしい。

WWD:ファッションは「着たい」だけではなく「写真に撮って誰かにみてほしい」欲求もある人が多い。「トモコイズミ」は着たいけれど、ごめんなさい、我が家だと部屋の半分くらいを占めちゃう、なんてこともあると思います。洋服は実物を所有した方がよいのか、それともデジタル上だけの自己表現でもありなのでしょうか。

ダリア:私は「トモ コイズミ」が大好きです。スタイリストのケイティ・グラントに見出されて2019年にニューヨークコレクションで発表したときからずっと彼のキャリアをフォローしており、いつか彼の作品をフィジカルで持ちたいと思っています。もちろんデジタルでも。同じように「トモ コイズミ」をレッドカーペットに着ていきたい人もいれば、自宅で着てどんな感じか見てみたい、ということもあるでしょう。

小泉:どちらかだけでよい、とはならないかと。デジタルはファッションの選択肢を広げ、楽しみ方を拡張してくれるツールだと思います。

ファーフェッチとコラボで「バレンシアガ」のデジタルも

WWD:ドレスXとファーフェッチとの取り組みについて教えてください。

ダリア:インフルエンサーがデジタルを着たものを見て、一般の人が実物をプレオーダーするキャンペーンでした。「パーム エンジェルス(PALM ANGELS)」「ドルチェ&ガッバーナ(DOLCE&GABBANA)」「バレンシアガ(BALENCIAGA)」などと組みました。

小泉:なるほど。ショーの直後は複数の国から同時にリース依頼がありサンプルが飛び交う。でもタイミングが合わなくて着てもらえず残念なことも多い。配送は時間もかかるしCO2も排出する。デジタルサンプルが広まったらいいですね。

WWD:小泉さんもデジタルの取り組みを始めるそうですが、ドレスXとは違ってNFTとして所有できる仕組みですよね。

小泉:はい、コインチェックとジョイファと連携します。アーカイブピースの所有権をNFTと紐づけたり、デジタル上で自分の所有しているドレスを合成しソーシャルメディアにポストできるような仕組みを作ってもらう予定です。ゆくゆくは転売も可能になると聞いています。

ダリア:そのニュースは耳にしていましたよ。お祝い申し上げたい。ゲームへ、ようこそ!という感じです。デジタルファッションの権利は再販が可能で、その売り上げの一部はブランドのクリエイターに入る仕組みになるはずです。現状、リアルな服が転売されてもブランドにはお金は入ってこない。それは正しい方向ではありません。だって服を作った人の才能のおかげでクリエイションが生まれているわけですから。ドレスXでもNFTのローンチを計画しています。

NFTはラグジュアリーと相性がよさそうです。デジタルファッションと大衆的なブランドやファッションの相性についてどう考えますか?

ダリア: NFTは排他性が強いハイファッションやオートクチュールが中心になると思います。一方、ノンNFTはデジタル・マスマーケット向きかもしれません。なぜならARファッションは何百万人という人が着ることができるからです。ただし、マス・マーケットという言い方はしたくありません。とにかく私たちは両方に取り組みます。

デジタルファッションはアパレルの仕事を奪うのか?

WWD:ところで洋服が売れないとファッション業界は成り立たない。デジタルファッションはデザイナーなど既存の仕事を奪うことになると考えますか?

ダリア:基本的には共存可能だと思います。フィジカルデザイナーの作品があることでデジタルでも需要が生まれるし、その逆もある。だからむしろデザイナーの仕事は増え、クリエイターにとってはチャンスが増えると思う。

小泉:デザインする機会、販売する機会が絶対的に増えるということですね。これまでなかった発想ですが賛成です。そもそも自分は無駄な服が減ることが大切だと思っています。同時にファッションのワクワク感をデジタルによって再発見し、それをきっかけにリアルなファッションにももっと面白いものを、皆と同じ服じゃなくて違うものを着たいという機運が高まったらうれしい。

WWD:「トモ コイズミ」が今夏に京都で見せたショーは圧倒的に美しく、「こんな風に世の中が豊かになってほしい」というデザイナーの願いが伝わりました。あのファンタジーをより多くの人に届ける可能性がデジタルにはありそうです。

小泉:そうですね。デジタルファッションは複製可能や環境への配慮もそうですが、体形や年齢、例えば障がいがある方とかも着ることができるよりインクルーシブのファッションという意味もあると思います。

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