ファッション

「サステナは関心がある・ないではなく“やらなければいけない”にシフトしている」 ファッションロー弁護士×実務家がサステナビリティに向き合う企業をサポート

 三村小松山縣法律事務所の“ファッションロー・ユニット”は11月、「CFCL」のチーフ・サステナビリティ&ストラテジー・オフィサーを務める岡田康介氏とタッグを組み、サステナビリティに向き合う企業を実務とリーガルの双方からサポートする取り組みを始めた。

 「何から手を付ければいいかわからない」という企業が多い中で、「そうは言っていられないフェーズに来ている」と話すのは、ファッション業界の法律問題に特化したリーガルサービスを提供する“ファッションロー・ユニット”のメンバー、小松隼也弁護士と海老澤美幸弁護士だ。

 「これまでも、児童労働の禁止やセクシャルハラスメントの禁止といった“努力義務”は存在しましたが、ここ1~2年で内容はより細かく具体的になり、“守るべき義務”として契約書の中に盛り込まれるようになりました。こうした規定が盛り込まれた契約書にサインすれば、違反した際に賠償問題に発展する可能性もあります」と海老澤弁護士は説明する。これまでは、対象範囲が自社や下請け企業程度だったのが、サプライチェーンの末端まで広がったり、第三者機関による監査をいつでも受け入れなければいけないといった規定が契約書の中に盛り込まれるようになったという。

 日本企業の担当者にとっては言語の壁も高いハードルになっていると小松弁護士は指摘する。「英語で書かれている上に内容も細かいので、かなり分厚い契約書が届きます。細かすぎる内容にどう対応したら良いか分からないという相談もありますが、サステナビリティの文脈では、『そもそも何が書いてあるのか分からない』という相談も多いです。内容をきちんと読まずにサインしてしまう企業が多く、契約交渉時に日本企業側が内容を変更・修正するようアプローチすることもほとんどありません」。

 守れない内容が盛り込まれた契約に合意したからといって、直ちに何かが起きるわけではないが、違反した際のダメージは大きいと小松弁護士は説明する。「例えば違反した内容によっては世間で話題となり、不買運動につながり、大きな損失が出ることもあり得ます。契約時に“違反したら何が起きるか”ということまで考えられる企業は多くありません」。

 そうしたトラブルが起きれば、訴訟に発展するリスクも当然高まる。「環境関係の訴訟は2019年までに世界で1200件程起きていると報じられています」と岡田氏は話す。「上場企業が責められることが多いですが、非上場企業はどうなんだという話も出ています。そうした状況から考えると、日本でもいつ訴訟が起きてもおかしくない状態になっています」。

 「『やりたい』とか『興味がある』ではなくて、『やらなければいけない』にシフトしている」と小松弁護士が話すとおり、企業同士の“契約”になった時点でサステナブルに関心がなくても経営リスクが発生するという点では、すべての企業が等しく向き合わなければいけない問題になっていると言えるだろう。

 にもかかわらず、日本のファッション業界では「契約内容が分からない」という段階で足踏みしている企業がマジョリティだ。小松弁護士、海老澤弁護士、そして岡田氏の話を聞くと、契約書の中身が分からなくてもビジネスを止めることはできず、自社の基準に合わない内容や、到底守れないような内容に合意してしまうことで、自分たちで自分たちの首を絞めているケースが多い印象を受けた。そんな日本企業を短期的、中期的、そして長期的な3段階のステップでサポートするのが今回の取り組みの目的だという。

 個別の取引時に弁護士が契約書をチェックして交渉や助言を行うのが短期的なサポートだとすると、場当たり的な対応を行うのではなく、企業が自走するための体制づくりを助言するのが中期的サポートに当たる。「一度にすべての企業がサステナビリティに対応することは現実的ではないので、まずはファッションロー・ユニットに相談に来た人・企業から対応していきましょうと促しています。やる気のある人たちから始めていくことで、そのあとに続く企業も増えてくるでしょう」と岡田氏は話す。また、「弁護士は、『契約書の内容に違反してはいけません』ということは指摘できますが、実際にどの程度だと違反になるのかという判断は専門的な知識が必要になるため、弁護士だけで判断することは難しい。そんなときには岡田さんと連携して対応しています」と小松弁護士が説明するように、実際の取引対応についてもファッションロー・ユニットと岡田氏がタッグを組んでサポートする体制を構築している。

 目先の取引に対応する短期的なサポートと企業の自走を助ける中期的なサポートを行いつつ、業界全体の取り組みを活性化させるのが長期的なサポートだ。「契約書の内容をよく読まずに判をついている企業が大半、というのが日本の現状です。リスクを知り、危機感を持ってもらうための啓蒙活動はやらなければいけないことの1つです。また、相談に来てくれた企業との対話を通じて、実際の取引でどういったことが求められるのかという事例集めを続け、各企業が共通で対応できることがあるなら、アライアンスを組むなど、業界全体で対応していけるように働きかけを行わないといけないと考えています」と海老澤弁護士は説明する。

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