「WWDJAPAN」は11月24日、オンラインイベント「WWDJAPAN SUSTAINABILITY SUMMIT2021」を開いた。今年は「近未来のファッション」をテーマに国内外から9人が集まり議論を交わした。セッション3では循環型の未来をテーマに、先進企業である資生堂とH&Mのサステナビリティ担当者、そしてCOP26にユース代表として参加したZ世代の若者が議論を交わした。
向千鶴WWDJAPAN編集統括サステナビリティ・ディレクター(以下、向):セッション3では、「循環型」をキーワードに業界の未来を描くという大きなミッションを皆さまと一緒に進めたいと思います。資源の限界が見え、これまでのリニアエコノミーからサーキュラーエコノミーへの移行が急がれます。そんな未来の話をするときに、未来を担う若者の存在が欠かせません。佐座さんは、イギリス・グラスゴーで開催したCOP26にユース代表として参加しました。その様子を教えてください。
佐座槙苗一般社団法人SWiTCH代表理事(以下、佐座):COPは毎年国連の「気候変動枠組条約」参加国が集まる会議です。コロナの影響で昨年は開催が延期され、2年ぶりの開催で、今年は脱炭素化に向けた動きに世界中の人たちが注目していました。ニュースで見るCOPでは、たくさんの人たちが並び、難しそうな顔で議論している印象が強いかもしれませんが、実はそうではないイベントや話し合いが行われる場面もありました。循環型への移行が話し合われる中、「本当にこの波に乗らないといけないのかな」と懐疑的な人も日本にはまだ多いと思いますが、COP26では皆が「もう後戻りはできない」という思いを共に持ち、循環型で環境に配慮した科学に基づいた社会づくりの必要性を感じていました。
向:今までのファッションビジネスでは、糸から、商品を作り、販売し、お客さんに届けるまでがビジネスでした。しかし、今はお客さんに届いたその先をどうするかが大きな議題になっています。商品の回収や再資源化といった方法で、作って終わりではないビジネスを目指すということです。H&Mと資生堂は、循環型へいち早くシフトを始めている代表企業です。H&Mでは実際にどんな取り組みを行っていますか?
バリューチェーン全体を通じて循環させる
山浦誉史H&Mヘネス・アンド・マウリッツ・ジャパンCSR/サステナビリティ・コーディネーター(以下、山浦):H&Mグループでは、「公正・平等でありながら循環型でクライメット・ポジティブなファッション業界へと変化を導く」というビジョンに沿って戦略的にいろいろな取り組みを導入しています。「循環型」はわれわれのビジョンにおいてもキーワードです。完全な循環型ファッションへの移行のために、タイムフレームを設けて目標を設定しました。2020年度時点では、使用するコットンをリサイクル、またはサステナブル調達のものへの切り替えが完了しました。25年までには、リサイクル素材の使用率を30%に引き上げます。昨年の時点では、大体5.8%でした。リサイクル素材の導入は難しく、非常にアグレッシブなゴールです。そして、30年までには使用する素材全てをリサイクル、もしくはサステナブル調達のものに切り替え、40年にはバリューチェーンを通じて「クライメット・ポジティブ」な企業になることを目指します。「クライメット・ポジティブ」とは、自社で発生させる二酸化炭素や炭素以上のものを吸収して無害化する、もしくは資源化することです。
向:素材以外にはどんな取り組みがあるのでしょうか。
山浦:H&Mにとっては商品を販売した後にお客さまがどのように使用して、使用後はその製品をどうするかまでを含めてがバリューチェーンです。例えば、お客さまが使用された後の衣類に対しては、古着回収サービスを通して、(従来の直線型のビジネスモデルを循環型にするための)ループを閉じる施策を行っています。昨年の10月には弊社のスウェーデン・ストックホルムの旗艦店にリサイクルシステム「ループ(Looop)」を設置しました。世界初の店内型のリサイクルシステムです。コンテナサイズの中に収められた機械に古い衣類を投入すると洗浄、裁断、それから糸をより上げて、最後は日本の島精機さんのホールガーメントで編み上げる一連の流れをお客さまにご覧いただけるようになっています。ご自身の目で古いものが新しいものに変わっていく過程を見ていただき、リサイクルの可能性を感じてもらえる施策です。
向:本日山浦さんが着用しているのは、「H&M」“イノベーション・ストーリーズ(Innovation Stories)”の最新コレクションですね。
山浦:はい。今回のコレクションでは循環型デザインを追求し、しかもファッショナブルな商品を提案しています。当社の循環型のデザインツール「サーキュレーター」を使用して全てのアイテムを製作しました。今私が着ているパーカは、オーガニックコットンとリサイクルコットン素材を使用し、リサイクルポリエステルでできたスパンコールを付けています。通常このままではなかなかリサイクルが難しい。しかし、こちらのスパンコールはある一定の温度で温めると溶ける糸で縫い付けることでリサイクルがしやすい作りになっています。そのほかにも、取り外し可能でいろいろな着回しが楽しめるものや、単一素材でできた商品もそろえています。
向:リサイクルのしやすさがデザインの中に組み込まれているわけですね。それはすごく大事なポイントです。ビューティの業界で「循環型」を解釈すると実際にはどういう取り組みがあるのでしょうか?
大山志保里資生堂SHISEIDOグローバルブランドユニットグローバルマーケティング部エクステンションプラットフォームカテゴリー室長(以下、大山):ファッションと共通する部分もありますが、まずはお客さまの行動変容を促す仕組みづくりです。もう一つは、サステナブルな素材の導入です。パッケージングは先決すべき課題です。行動変容を促す仕組みに関しては、例えば世界的なプラットフォームの「ループ(LOOP)」やテラサイクルといったプラットフォームがあります。弊社では、「シセイドウ(SHISEIDO)」を代表する美容液“アルティミューン”で、お客さまが空のボトルを店頭に持参すると、それを充填するサービスを昨年ローンチしました。高い品質の管理が求められる美容液でレフィルサービスを実践したことで注目していただきました。ボトルに名前やちょっとしたアイコンを刻印できるサービスも提供しています。そうすることで一つのボトルを愛でてずっと使っていただきたい。あとはさまざまな領域で、ショッピングバッグをエコバッグにするなど、日常の小さなところからお客さまが行動を変えていく施策に取り組んでいます。
向:レフィルサービスは製造コストの削減といったビジネスメリットもあるのでしょうか。
大山:リピーターをターゲットに設定し、買い続けてもらう仕組みを作るという意味では、非常に効果的なメリットがあると思います。やはりレフィル対応のボトルを作るといった初期投資は必要ですが、中長期的に見たときには本体よりもコストを削減できます。ロングタームで取り組むことで非常に大きなビジネスメリットを生むことができるでしょう。
「カウントダウンは終わっている。循環型経済を全力で実現してほしい」
向:佐座さんは30年、どんなファッション、ビューティ業界にどのように変わってほしいですか。
佐座:循環型への移行の流れはもう止まりません。北欧やヨーロッパをはじめ、むしろどんどん加速していくことを皆さんにお伝えしたい。では、なぜ移行しなければいけないのか。現在温暖化はかなりの速度で進行しており、IPCCによると30年前半にはパリ協定目標の温暖化を産業革命前に比べて1.5℃までに抑えるポイントに到達してしまいます。実は私たちの家である地球はもう燃えているんです。今年はカナダの山火事で500人が死亡したり、フィリピンでは台風で8万人以上の住民が避難しました。日本でも九州をはじめ豪雨の被害が多発しています。災害は互いに影響し合い、一つ大きな災害が起こればまた別の場所に連鎖します。まだ、都市に住んでいると猶予があるように感じている人もいると思いますが、温暖化に取り組むカウントダウンはもう終わっています。30年までには温室効果ガスの削減を50%減らし、50年にはカーボンニュートラルにならなければいけません。速いペースで、循環型や脱炭素社会を本当に実現しないと、私たちが生きることができる場所が失われてしまいます。現状のままで進めば、日本でも普通の格好でショッピングすら行けず、楽しみが奪われてしまうような社会が待っているんです。
今は、この安定した地球を選ぶのか、灼熱化した地球に進むかの分岐点です。私の友人のビデオを見てください。ソロモン諸島出身のソロモン諸島代表、グラディス・ハブ氏がCOP26参加者に向けて制作したビデオです。彼女は、ユニセフ太平洋大使で19年と20年のミス・ソロモン諸島でもあります。彼女の祖父母が育ったケール諸島でスピーチを行っている様子です。自分の故郷があった場所が、温暖化で海没してしまったんです。彼女の祖父母が生まれ育った島で唯一残っているのが、この古い切り株です。切り株以外は水面上にもうない、その場所にもう二度と戻ることができないということです。サーキュラーエコノミーに取り組むことは、自分たちの地元や大切な人たちの暮らしの問題なのです。今回、残念ながらCOP26で日本は化石賞を受賞しました。ここから、回復するためはとても速いペースで、日本が持っている技術をたくさん生かして循環型社会に移行していくことが望まれますし、世界にもアピールできると思っています。現在は資源の8%しか再利用されていません。残りの92%を循環させることができたらどんな社会が待っているのかを、全力で考えてほしい。私や周りにいる若者たちのために本当に実現してもらいたいです。
向:ありがとうございます。しっかり受け止めました。知った以上、私たちはもう迷っている場合ではありません。アクションを起こしていきたいと思っています。大山さんはいかがですか。
大山:深刻さがすごく伝わってきました。ただ、この熱量を持って伝えることがなかなか難しい。私自身も社内での啓発活動などを心掛けてはいますが、恐らく佐座さんと私の間にも温度差があるなと、反省も込めて思いました。直接ジェネレーションZとの関わりを持つことが、すごく大事だなと思いました。今後はもっと弊社の従業員とさまざまな人が関わり合う機会を設けたいと思います。
向:山浦さんはブランドの性格上、Z世代はお客さんでもあり、関わりが多いと思います。今の話に思うことはありますか。
山浦:私も店舗で店長職を務めていた時期があります。若いスタッフもたくさんいました。今の時代では欲しいものが買えるし、物がそろっているけど、10年後、Z世代が消費者の中心になったときにファッションを楽しめない、欲しいものが買えないと、やっぱりすごく不公平ですよね。ファッション・ビューティを含めてより持続可能にしていくために、大人として責任を持ってコミュニケーションすべきだと店舗に立っていた時から感じていたので、改めて消費者も含めて変わらないといけないと思いました。
向:恐らく、佐座さんはCOPで実際の生活に影響を受けている国の人たちと直接話す機会もあり、よりその思いを強めたのだと思いますが、では、佐座さん自身はどういったアクションをしていきたいですか。
佐座:ありがとうございます。私は「模擬COP(モックCOP)」という若者団体に所属しています。昨年COP26が開催されなかったことに対して、世界中の若者たちが、「大人たちがやらないのであれば、私たち若者がCOP26に対しての提言をまとめよう」と動き、若者主催の会議を昨年開催したんです。そして、140カ国から集まった330人の若者たちで作った提言の中の一つが気候変動教育の義務付けです。温暖化が起こっている原因を知らなければ、再度同じ間違いを繰り返し、新たなサステナブルな社会を実現できないからです。英語では環境やサステナブルについての情報が山ほどありますが、それらが日本語に翻訳されていない問題があります。このサステナブルなノウハウや考え方を、企業や学校にもきちんと知ってもらうことが大きな一歩だと思っています。これからは100万人のサステナブルアンバサダーの育成プログラムを通して、世界を担う若者たちにサステナブルや循環型の思考を養ってもらいたいと思い、SWiTCHを作りました。そんな社会を実現していくためには、私たち若者だけでは成し遂げられません。今は各企業がバラバラでいろんな取り組みをしていますが、では業界を超えて一緒に何かやってみようとか、互いに知識を教え合う環境を整えたい。SWiTCHの教育プログラムで、日本でもサステナブルな考え方を浸透させたいと思っています。
向:ありがとうございます。佐座さんは自治体との取り組みも広げています。メーカーや消費者、そして地域やエリアを巻き込んでスピードを加速しなければいけない。実際消費者とどういうコミュニケーションをしているかを伺いたいです。山浦さんはいかがですか。
山浦:十分な知識や情報を得た上で買い物をすることが消費者としても重要です。ですので、自分たちの取り扱う製品やサービスの透明性を高めることが非常に重要だと考えています。現時点では、製品がどこの国のどんな工場で作られているかを公開していますが、さらに今年、製品ごとの環境負荷をお客さまにご確認いただけるようなインデックスを欧米などの一部市場の一部商品で導入し、今後日本を含めた全市場へと拡大していく予定です。そういったコミュニケーションを通して、消費者がよりサステナブルな選択をできるようなサポートをしていきたい。
向:大山さんからは、ぜひ皆さんとシェアしたい映像があります。
大山:弊社の中でも究極のトレーサビリティーを目指したラインが「ワソウ(WASO)」です。欧州での展開に限定しています。やはり欧州ではトレーサビリティーが非常に重要で、これに真摯に取り組んでいるブランドです。日本のローカルの成分を採用したスキンケアラインで、産地の農家の方々と実際に会い、その良さを聞き製出した成分が入っています。「ファーム・トゥ・フェース(農家からあなたの顔、肌へ)」がコンセプトです。実はその先があり、「ファーム・トゥ・フェース・トゥ・ファーム」と呼んでいます。例えば、沖縄のシークワーサーの原料を採用し、そのシークワーサーファームは人手不足や後継者不足の課題に直面しているので、私たちは売り上げの一部を寄付する活動をしています。このようなサーキュラーの考え方が浸透してほしいと思います。
向:山浦さんの話と共通して、透明性を担保することが、サーキュラーを進めるための大原則だと思います。企業にとっては本当に大変なことですが、大事なステップです。
向:佐座さん、最後にメッセージを。
佐座:どこから、何をすればいいのか分からない人が多いと思いますが、資生堂やH&Mの取り組みを参考に、じゃあ一緒に何かやってみましょうよと発信し、お互いを助け合う気持ちが持てればと思っています。「SHIBUYA COP」では企業や若者も一緒に連携する方法を提案しています。ぜひ皆さんと一緒にこの地球を変えていければと思います。ありがとうございました。
向:佐座さんの言葉は本当に縁をつなぎ留めて広げてくれるエネルギーだなと思いました。今日はありがとうございました。