ワールド子会社インターキューブのセレクトショップ業態「ドレステリア(DRESSTERIOR)」が、一時の低迷から復調している。10月の業績(ウィメンズ・メンズ)は、コロナ前の2019年と比較しても3〜4割増と大きく伸ばした。
復活の立役者は19年3月のワールドグループ加入以降、ブランドディレクターとして陣頭指揮を執る靏博幸(かく・ひろゆき)社長。オンワード樫山でのデザイナーを経て三陽商会で「バーバリー・ブラックレーベル(BURBERRY BLACK LABEL)」の立ち上げ(1998年)に携わり、同社の看板ブランドに育てた。その後はユニクロ執行役員を経て三陽商会に戻り、セレクトショップ業態「ラブレス(LOVELESS)」「ギルドプライム(GUILD PRIME)」のディレクター・バイヤーを務めた。
大手アパレルに勢いのあった90〜00年代当時とは、業界を取り巻く状況も大きく変わっている。「洋服を買うのに大枚をはたく人はずいぶん珍しくなった」と靏社長。過去の成功体験に捉われるつもりはないとしながら、「僕はブランドデザイナーやディレクターをしていたときも『商売人』としての意識を常に持ってきた。いい服もお客さまに届かなければ意味がない。売るために泥臭いことをいとわず、あらゆる手を尽くす」と語る。「ドレステリア」復調の秘けつと、ワールドでの今後を聞いた。
WWD:コロナ禍でも業績を伸ばせている秘けつは。
靏博幸社長(以下、靏):ブランドの個性を明確にすることを意識してきた。僕がトップに就任した当時、それまで外から見ていた「ドレステリア」は強みとなる商品や世界観がなく、ブランドの輪郭がぼんやりしていた。商品のカラバリ(カラーバリエーション)も黒、白、紺、グレーばかりで面白みに欠けた。アウターやニットなど、ブランドの核となる商品が売れず、当時市場で流行っていたフーディでなんとか売り上げをつくっているような状況だった。本当にこれがブランドのあるべき姿なのか。お客さまに届けるべき価値とは何なのか。そう事業部に問い掛け、商品企画全体を徐々に軌道修正してきた。
今は10万円する服が簡単に売れる時代ではない。しっかりした品質のものを、適正な価格で作ることも必要だ。それまでは5万円程度が中心価格だったワンピースは2万円から、10万円程度だったコートは5万円から買えるようにし、お客さまの選択肢を増やした。付加価値とのなる機能性も強化している。22年春夏企画では、自社開発したコットン100%の冷感素材を採用した商品もある。抗菌・消臭機能も非常に高い。サトウキビ由来の天然ポリマーの働きによるもので、地球にも肌にも優しい。
WWD:三陽商会での経験も生きているか。
靏:いい商品を作るだけではダメで、「届ける」ことも同じくらい大事。これは当時から常に意識していることだ。そして、今の時代においてはますます重要なマインドセットだと感じる。かっこいい服を作って満足するデザイナーもいるが、僕は作った服が売れないと全く楽しくない(笑)。「ラブレス」でも前年の数字を落とさないことには誰よりもこだわってきた自負がある。
昔(90〜00年代)は有名タレントに自社の商品を着せたり、ファッション雑誌にたくさん出稿すれば売れていた。だが、今はさまざまなタッチポイントでブランドの存在を伝える努力を怠れば、すぐに埋もれてしまう。僕も企画室でディレクションボードを描き、シーズンテーマを決めて、服を作ってという、決まりきったような仕事だけをしていていいわけがない。
「ドレステリア」はSNS発信も弱かった。僕が着任してからは、メンズ・ウィメンズで統一した世界観のプロモーション動画を作成している。21-22年秋冬はパリ・モンマルトルのカフェをイメージした。ECの商品ページ1つとっても、手を抜いたビジュアルが消費者の目に止まれば「ダサいブランド」という烙印を押されてしまう。油断せず、足元をすくわれるような要素をコツコツなくしてきた。泥臭いことをやり抜けば数字に直結するし、それがブランディングなのだと思う。
WWD:ワールドのクリエイティブ・マネジメント・センターのトップも務める。どのような組織なのか。
靏:店舗設計デザイン、素材開発、発信などのスペシャリストを集めた社長直轄の組織だ。グループ全体のクリエイティブに目を通すとともに、ブランドの垣根を超えてノウハウを水平展開する。寺井(秀藏・現シニア・チェアマン、元社長)さんの時代に組織され、近年はほとんど機能していなかったが、これを復活させる必要性を訴えた。
忌憚なく言えば、昔(90〜00年代)のワールドはもっと面白い店舗や商品、仕掛けがあったように思う。今は多くの事業子会社を抱え、商品デザインや店舗内装、PRなどがブランドに任せきりになっていた分、全体のクオリティーが下がってしまった。ここを今一度、経営目線でしっかりマネジメントしていく。
まずは「ドレステリア」を実験台に、さまざまな成功事例をグループ全体に生かしていく。「ドレステリア」のメンズは僕がデザインしている商品もたくさんあるし、新店は僕が店舗空間を設計している。ブランドをやっていると、現場の生の声も聞ける。僕が事業子会社のトップを兼務しているのは、クリエイティブ・マネジメント・センターの取り組みが机上の空論にならないようにするためでもある。