ミレニアル世代をはじめ、サステナビリティへの関心が高い消費者の間で、環境に優しいラボグロウンダイヤモンド(以下、ラボグロウン)への関心が高まっている。最近では、松屋銀座本店(以下、松屋)が「エネイ(ENEY)」というラボグロウンを使用したジュエリーブランドを立ち上げるなど、さらに広がりつつある。天然ダイヤモンドやラボグロウンに代わるモアサナイトの存在をご存じだろうか?モアサナイトは、天然ダイヤモンドの約2.5倍の輝きと優れた耐久性を持つ人工石で、価格は1カラットで約10万円程度とラボグロウンより安価。松屋では、「エネイ」と同時にラボグロウンとモアサナイトを取り扱う「ネクストダイヤモンド(NEXT DIAMOND)」のコーナーが登場。17年にモアサナイト専門ブランド「ブリジャール(BRILLAR)」を立ち上げた小原亦聡ブリジャール社長に話を聞いた。
WWD:モアサナイトに出合ったきっかけは?
小原亦聡ブリジャール社長(以下、小原):外資系金融機関に勤務していたときに、ホームパーティーに招待され、そこで大きなダイヤモンドのリングをつけているご婦人を見て、ダイヤモンドの輝きに惹きつけられた。社会人1年目のときに、夫から0.38カラットのダイヤモンドのエンゲージメントリングをもらったが、パーティーで大粒のリングを見て私も大きいダイヤモンドが欲しいと思ったのがきっかけだ。ただ、ダイヤモンドは高価なので、大粒のものは到底買えない。そこで、ダイヤモンドと似たようなものがあるのではないかとリサーチしたら、アメリカのブライダル市場でモアサナイトが流行りつつあるということを知った。ダイヤモンドより輝きが強く、耐久性も高いということで、サンプルを取り寄せて、いい石だと実感した。いろいろとモアサナイトを検索してみると、当時はジュエリー業界で嫌われている存在。いわゆる“詐欺に注意”的に扱われていた。モアサナイトがダイヤモンドの偽もの扱いされて、その魅力が伝わっていない、そこにビジネスチャンスを感じた。
WWD:モアサナイトの一番の魅力は?
小原:光の分散率と温度に対する強度はモアサナイトの方がダイヤモンドに勝る。ダイヤモンドは摂氏600度で炭化し800度で無くなるが、モアサナイトは1800度にならないと無くならない。しかも、価格がとても手頃である点。
WWD:いち早くモアサナイトのブランドを立ち上げた理由は?
小原:天然が高いと感じた。モアサナイトであれば1カラットのものが10万円程度で買える。「モアサナイトを知って欲しい」という思いから、子育てをしながら「ブリジャール」を立ち上げた。そして、インスタグラムでその良さをアピールし続け、少しずつ市場で流行ればいいなと思った。
WWD:ブランドのコンセプトと目指すものは?
小原:現代女性には、さまざまな役割がある。そんな女性たちに、輝きをもたらせるアイテムを提供したいと思った。女性がジュエリーを着けることで自身や勇気を持つことができれば、社会的に女性が活躍できるムーブメントに貢献できるのではと思った。
1カラットのエンゲージメントリングが12万円程度
WWD:購入していく層は?
小原:来店の5~6割がブライダル需要で、全体の売り上げの3〜4割。20~30代による購入が多い。その他、記念日やギフト、自家需要で毎年購入する顧客もありリピート率が高い。年齢層は20~60代で主婦や働く女性などさまざま。
WWD:売れ筋アイテムと価格帯は?
小原:ブライダルは1〜2カラット、ファッションジュエリーは1カラット以上で平均価格は13万円程度。エンゲージでは、1カラットの脇石がついた12万円前後のものが人気だ。エンゲージとは別にマリッジとしてエタニティーやハーフエタニティーリングを購入していく場合もある。男性には、何もついていないタイプか1石つきのマリッジを用意している。ファッションの用途では、エメラルドカットどのファンシーカットが人気だ。10万円程度のシンプルな1カラットのネックレスや13万円程度のピアス(両耳で2カラット)などが売れ筋。0.3カラット前後のモアサナイトを使用したミニマルなデザインはネックレスやリング、イヤカフもあり、価格は5万円前後。2年前から、売り上げの3割を一人親を支援する認定NPO法人フローレンスに寄付するチャリティージュエリーも販売し、共感を得ている。価格は6万円程度で、フローレンスの「子ども宅食事業」などへ寄付するので、おはしやご飯といったモチーフをデザインにさりげなく盛り込んでいる。
WWD:供給はどこから?ダイヤモンドに使用されるグレードを当てはめると?
小原:国内外の複数社と契約し、製造している。商品のデザインとメンテナンスは日本で行う。モアサナイトは、ダイヤモンドではないのでグレードはないが、ダイヤモンドでいうDからFのカラーレス、クラリティーはVVS(ベリー・ベリー・スライトリー・インクルーデッド)以上を扱う。地金はプラチナか、18金中心で、一部シルバーを使用している。
SNSを駆使してモアサナイトの魅力を発信
WWD:ブランド立ち上げから3年連続で売上高20%増を達成しているが?
小原:ブランド立ち上げから今まで、のべ5000人に購入してもらった。人口宝石のトップとしてモアサナイトの認知度アップに貢献し、顧客の声に耳を傾けながらライフスタイルに寄り添うジュエリーを提供し続けている。現在の商品数は約800種類。2週間〜1カ月に数点新商品を導入するなどハイスピードで商品開発を行っている。このように、顧客を飽きさせないのも重要だ。東京と大阪にショールームを構え、名古屋にサロンがある点も安心度が高い。だが、インスタグラムをはじめ、SNSをフルに活用して販売につなげている。新しい素材なので見る人情報のシャワーを与えるのが効果的。コスパ良く宣伝するには大量のコンテンツを自社で作り提供することだ。1日に10回以上、ストーリーフィードしている。
WWD:販売戦略は?
小原:ウェブサイトのリニューアルを行ったばかりだ。ウェブサイトはある意味、実店舗より大切。そこで、モアサナイトの良さを伝え、オーダーを約束通りにこなしてSNSで発信するのが中心。差別化等は必要なく、顧客に喜んでもらえる発信や商品作りをしていきたい。
WWD:今後の目標は?
小原:モアサナイトのトップブランドとして長年愛され続けられればと思う。女性スタッフが楽しく活躍できる社内の環境作りもしていきたいし、チャリティーを通して社会的貢献もしていきたい。
市場における天然、ラボグロウン、モアサナイトの今後
WWD:天然、ラボグロウン、モアサナイトの現在の市場での位置付けと今後は?
小原:ひと昔は天然が絶対的なものだったが、紛争ダイヤモンドや環境破壊などの問題によりポジショニングが崩れてきた。ラボグロウンと天然は、組成が全く同じなので差別化は難しい。ただ、価格がまだ高いということと、製造にかかるエルギー消費に対する疑問がある。価格が下がり、エコに製造できること証明されればもっと普及するだろう。モアサナイトについては、製造技術が成熟しているので、短時間で結晶化できるため使うエネルギーも少なく、供給も安定している。以前は、天然の一択しかなかったが、今は、消費者の価値観や用途によって選択肢ができた。5年以内に市場のシェアは天然が50%、ラボグロウンとモアサナイト合わせて50%程度のシェアになるのではないかと予測する。