スキンケアを中心に2017年にスタートした「オサジ(OSAJI)」は現在、メイクやボディー、ヘア、フレグランスなど、幅広いジャンルを扱うライフスタイルブランドに成長している。メイクアイテムを手掛けるのは、ビューティライターのAYANA。彼女が手掛けるメイクは、製品はもちろん、ヴィジュアルも好評だ。21年秋冬のメイクアップコレクションは“GETTING READY”をテーマに、「完成形に到達する直前の、まだ何かが足りていない、だからこそ美しい」瞬間を切り取り、“不完全なものの中に宿る意外な美しさ”をイメージしたメイクを提案。ルックモデルには俳優の富田望生を起用し、SNSで話題を集めた。AYANAのビジュアル・コミュニケーションにおけるこだわりを尋ねた。
WWDJAPAN(以下、WWD):「OSAJI」の画一的な美しさとは一線を画するビジュアルが、若い世代を中心に支持を集めている。
AYANA:「オサジ」のメイク・コレクションは、19年の春に立ち上がりました。最初は西洋人モデルを起用したビジュアルを作り、今思えば“頑張った布陣”ではありましたが、私の考え方は当時とあまり変わっていません。「東洋人のモデルを起用しなくちゃ」や「マイノリティに属している人たちに光を」という意識があるわけではありません。。私自身、“ハイパー・ビューティ”も大好きです。
WWD:では、結果どうして画一的な美しさから脱却できた?
AYANA:「オサジ」というブランドは、敏感肌の方に向けたスキンケアアイテムから始まりました。敏感肌向けのブランドである以上、「おしゃれ」や「最先端」「他にはない」よりも「簡単に使える」「安心できる」「なのに楽しい」という心への作用が必要だと考えています。開発者の茂田正和さんが当初から、目が見えないけれどメイクを楽しんでいる人の存在を教えてくれるなどしてくれたのも影響しているかもしれません。また「オサジ」が日本のブランドであること、メイクコレクションよりも前から「オサジ」が好きなファンの皆さんを大事にしたいとも思っています。「オサジ」のメイクコレクションは、自分の肌に自信が持てずファンデーションが塗れなかったり、アイシャドウを使ったことがなかったりの人たちにも使って欲しい。元来の「オサジ」の世界観と、「オサジ」のことを好きでいてくれる人ありき、なんです。長年ビューティに携わり、オーガニックコスメの市場がどのように大きくなり、おしゃれになって現在に至ったかを体感しています。だから「どこにも似ていないブランド」にしないと、市場を切り開いてきた先人たちにも失礼だと思っています。とはいえ、オルタナティブ(何かの代わりとなる)なブランドになろうとも思ってはいません。パーフェクト・ビューティに対するアンチテーゼにも加担したくないと思っています。「どんなお客さまが使っているんだろう?」を時代感を意識しながら考え続けています。
WWD:21年秋冬のビジュアルについては?
AYANA:いつも世界観に基づくテーマからビジュアルを想像し、モデルを選ぶのは最後です。富田さんは、私自身が大好きでした。秋冬のテーマ、おめかしして、ドレスアップして、舞台やステージを見に行く人の完成形のちょっと前、これから上り詰める少し前を表現してくださるだろうと思いました。多くのスタッフが「絶対いい!」と言ってくれて「イケる」と思いました。「オサジ」の人が楽しんでくれることがわかったので。そもそも秋冬は、発売するアイテムがすごく少なかったんです。新商品は、アイペンシルとリップバーム、フェイスパウダーくらい。これでフルメイクは絶対に無理なので(笑)、矛盾しないようなテーマに決めました。
WWD:ビジュアル作りにおいて、これからも意識することは?
AYANA:マニフェストとして掲げるのではなく、捉える人によっていろんな風に解釈できることを大事にしたいです。「オサジ」の色の名前も同じです。もはや色の名前じゃないカラーコスメが多いんです。色自体を名前で表現することは、「スック(SUQQU)」には敵いません(笑)。だから「オサジ」は、情景や記憶を想起させる名前をつけています。それぞれの人生にはドラマがあって、それを見逃さずに考えることって大事だと思っているので。おかげさまで割と親しまれていると思います。最近だと、“推し”のアーティストやアニメキャラと結びつけてくださる方もいます。美の定義は多様化していますから、「そういうことは許さない」は続かない。“曖昧さ”みたいなものは、大事にしたいと思っています。