ファッション

OEMってどんな仕事? 「ギャルソン」も手掛けるニット製造の老舗で働く27歳の奮闘記

 製造業には、他社から依頼を受けて商品を代理で製造するOEM(Original Equipment Manufacturing)というビジネスがある。食品から機械、金属まであらゆる業界にOEMがあり、アパレルも例外ではない。コレクションブランドから量販メーカーまで、多くのブランドがOEMを活用する。

 東京・秋葉原と浅草橋の中間にひっそりとビルを構えるハイセンヰは、アパレルの中でもニットに特化した老舗OEM企業だ。「コム デ ギャルソン(COMME DES GARCONS)」「アンダーカバー(UNDERCOVER)」「ビズビム(VISVIM)」など、国内の名だたるデザイナーズブランドを手掛けている。50年以上前に、靴下工場に糸を売る“糸商”として創業し、ニットのOEM企業と合併して今の業態となった。約10人の従業員が在籍し、20〜30年働くベテランもいる。

 同社で営業アシスタントとして働くのが、入社3年目27歳の福地藍さん。営業担当が受注したデザイン案を仕様書に落とし込み、工場にサンプル生産を依頼するほか、サンプルの納品や量産のスケジュール管理などを行っている。

 「入社当初はわけがわからず、とにかく営業に付いて回って食らいつきました」と福地さんは振り返る。例えば仕様書は、「そもそもサイズや資材、細かな仕様をどう伝えればいいのか分からない。しかも、データでいい工場もあれば、紙じゃないといけないところもあります」。先輩が書いた仕様書や同じブランドの過去のものを大量に読み、「必死に真似しました。自分で書けるようになったのは、ここ数シーズンです」。ブランドの依頼形式もさまざまで、「ディテールまで明確にしたデザイン案をくれるブランドもあれば、『こんな感じで』とニュアンスだけで依頼されることもあります。デザイナーの意図を汲み取り、具現化するため、糸や素材、色、編み、加工のあらゆる知識が必要。毎日が勉強です」。

ブランドを辞め、OEMに
「物作りの醍醐味は変わらない」

 福地さんは、文化服装学院でファッションを学んだ。最初は布帛(織物)をメーンとする服装科だったが、「どうしてもニットがやりたい」と2年生の春にニットデザイン科に転科した。「布帛は生地のベースがあって、布を買って作ることが多いけど、ニットはどういう糸にするか、どういう編みにするか、どういう加工にするかなど無数の選択肢がある。それが面白いんです」。

 卒業後は、メンズブランドを手掛けるアパレル企業に入社。デザイナーとして、商品企画から展示会の運営、量産管理までを行った。「ブランドで働くのもすごく楽しかった。でも、取引先の工場やセレクトショップが大きく変わることがなく、『もっと広い視野でアパレルを見たい』と、ハイセンヰに転職しました」。OEMにはデザイナーという肩書きはない。それでも、物作りの喜びは変わらない。「ファーストサンプルを見て、バイヤーやプレスの人に『かわいい』といってもらえると本当にうれしい。お手伝いした商品が店頭に置いてあったり、雑誌に載っていたりすると、『次も頑張ろう』と励みになります」。

「起毛が足りない」
予想外だらけの生産現場

 12月から1月は、複数ブランドの納期が重なる繁忙期。工場はキャパシティの限界まで稼働するため、資材一つでも納品が遅れれば生産スケジュール全体が後ろにずれ込む。現場の緊張感も高く、「こんな仕様書じゃ分からない」「資材の納期はどうなってるんだ」と注意を受けることもしばしばだ。「納期前はいつもヒリヒリします。でも、その緊張感があってこその物作りだし、それだけみんな本気でやっている。プレッシャーも感じますが、腕の見せ所でもあります」。量産した商品が無事に納品されても、ブランドのイメージと異なる場合もある。「起毛加工が足りなかったり、フリンジのねじれが甘かったり。工場にお願いする時間がないときは、自分たちでブラッシングしたり、ねじねじしたりしています。フィジカルなものづくりだから、予想外のことがたくさん起こるんです」。

 OEMで働く中で、業界の課題も実感した。ブランドに納品するサンプルは、「平均はサード、うまく行けばセカンド」で完成する。しかし、納品しても展示会に出ず量産化に至らないことや、オーダーがつかないこともある。「フォースサンプルまで作ってボツになることもあります。工場は量産化も見据えてやってくれているので、申し訳ない気持ちでいっぱいになります。業界を盛り上げるには、こういったシステムの課題を解決することも必要だと感じています」。

ニットの“生き字引”とともに
海外でも活躍する人材へ

 「今後は、日本生産で海外ブランドと取引したい」と夢を膨らませる福地さん。「まずは、もっと知識を増やして多様なブランドに対応し、仕事を円滑に進められるサポートをする人材になりたい。タッグを組んでいる営業はもちろん、DCブランドの全盛期を支えたニットの“生き字引”みたいな先輩もいるので、彼らからたくさん吸収していきます」。

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