「WWDJAPAN」はルミネと共に、ファッション&ビューティ業界の次世代を応援するプロジェクト「MOVE ON」を開始した。「WWDJAPAN」が2017年に立ち上げ、業界の未来を担う人材を讃えてきた企画「NEXT LEADER」も、今年は「MOVE ON」の中で実施する。受賞者は「WWDJAPAN」2月14日号で発表すると共に、3月2日に開催する「Next Generations Forum」にも登壇いただく予定だ。「MOVE ON」企画の一環として、業界の有力企業の経営者に、自身がNEXT LEADER世代(20〜30代)だったころを連載形式で振り返ってもらった。初回は人気セレクト店のロンハーマン(RON HERMAN)、エストネーション(ESTNATION)などを擁するサザビーリーグの角田良太社長に聞いた。
WWD:自身が20〜30代だったころは、どのように働いていたか。
角田良太サザビーリーグ社長(以下、角田):自分が20〜30代だったころと、今の新卒世代の人たちとでは価値観は相当違っている。僕が20代前半のころは、ただがむしゃらに、その日の仕事を一生懸命こなすという働き方だった。自分の周りを見ても、今ではよく言われるようになったキャリアパスとか、将来自分がどうなりたいかといったことを意識しながら働いていた人はごく少数だったように思う。とにかくお客さまに喜んでもらいたい、仕事を覚えたいということに当時は没頭していた。
WWD:そうした働き方に対する考えは、その後変化していったのか。
角田:サザビーで「スターバックス コーヒー(STARBUCKS COFFEE以下、スターバックス)」の日本での立ち上げに携わったが、アメリカに4カ月間のトレーニングに行って現地のスタッフと一緒に仕事をする中で、日本とアメリカの働き方はかなり違うと感じた。人材育成の手法にしても、日本の昭和・平成の価値観と、アメリカの新興企業の考え方というのには大きな違いがあり、リーダーに求められる役割も随分と異なる。20代後半〜30代にかけて、そういったことを学ぶ機会を与えてもらったことは、自分にとってすごくラッキーだったと思う。
WWD:手痛い失敗もあったか。
角田:もちろんたくさんあった。がむしゃらに目の前のことに取り組んでいた20代前半をへて、自分がリーダーとしてチームをまとめていく役割になり、「スターバックス」日本1号店の店長もやらせてもらった。アルバイトスタッフであれば今日1日の流れを考えればいいが、社員ならこの先1週間、店長なら3〜6カ月先のことまでを考えないといけない。店長になった当初はそれがうまくできなくて、例えば3月になれば大学4年生のアルバイトはみんな卒業してしまうのに、事前に採用を進めていなかったという失敗もあった。そうなると周りに頼るしかない。日本での事業立ち上げから間もなく、まだスタッフも多くない中で、周りには本当にたくさん迷惑を掛けた。先を見越して事前にプランニングすることがようやくできるようになったのは、さまざまな失敗を嫌というほど繰り返した後だ。
WWD:経営者になった今、そうした失敗をどのように振り返るか。
角田:失敗させてもらえる環境があったことに感謝している。商品や内装などについてなら、失敗してもやり直すことができる。でも、人の育成は失敗してやり直そうとすると長い時間がかかる。そこに対して、組織として受け止める環境が整っているかどうかという点は大きい。「商品やマーケティングももちろん大事だが、最終的には人があってのブランドだ」といった、われわれの骨子となっているブランドビジネスの考え方は、米国の「スターバックス」と仕事をする中で学ばせてもらった。部下やチームに仕事を任せず、自分で全てやってしまうというリーダーも少なくない。「その方が早いから」「これが自分のスタイルだから」と考えているのだろうが、それをリーダーがやればやるほどみんなには迷惑がかかるし、スタイルになってしまうと簡単には変えられない。一方で米国の「スターバックス」には、いかに後継者を育てるかという意識がカルチャーとして根づいていた。だから、今も世界中であれだけ多くの店を運営していても、ブランドとして成り立っている。
人生の3分の2は仕事
だったら楽しいことでないと
WWD:今の20〜30代の働き方を見て、どのような印象を抱いているか。
角田:すごくスマートだと感じている。自分が新卒生だったころに比べ、皆さん情報もたくさん持っている。「24時間働けますか?」だった僕らの時代に比べて、今は自分の大事なこと、興味のあることをきちんと表現することができ、人に流されず、自分の価値観を貫くことができる。それは例えば、会社の“飲みニケーション”に参加するか、それともプライベートの時間を大切にするかといったことにも表れている。若い人たちは多くの情報を持ってすごくスマートに働いていると思う反面、全員がそうではないが、キャリアパスや将来のことを心配し過ぎてしまっていると感じるケースもある。未来のことは考え過ぎても答えは出ない。心配するよりも、とにかくやってみようというチャレンジ精神も大切だ。そういった挑戦の気持ちが、僕らの世代に比べると今の若い人たちは少ないようにも感じる。もちろん、育ってきた環境や将来への不安など、さまざまな要因が背景にあるのだとは思う。
WWD:日本の経済成長のイメージが描けず、環境問題なども山積していて、若者たちは将来を不安視している。
角田:その不安はもちろん分かる。ただ、不安に思っているだけでも何も変わらない。自分の経験からアドバイスできることは、失敗を恐れず、いろんなことを試してみるべきということ。挑戦するチャンスがあるなら、20〜30代のうちに是非やっておいた方がいい。やってみることで、自分が好きなことも嫌いなことも分かる。30代半ばくらいまでに、自分の働き方のスタイルややり方は固まってしまう。そこから変えようというのはかなり難しく、99%無理だと言ってもいい。だから、若いうちにいろんな経験をして、失敗もしておくことが重要だ。30代後半から40代以上になったとき、いろんな経験をしてきた人の方が人との接し方において引き出しが増えるし、山の登り方(目標の達成手法)についてもいろんな選択肢を持てる。山に登っている途中でちょっと休憩しようと考えることもできるだろう。
WWD:将来に漠然とした不安を感じている若い世代にエールを。
角田:「自分は人生で何がしたいのか分からない」という声を若い人からよく聞くが、それは自分も分からなかった。もちろん、当時から分かっている人もいて、彼らのことはうらやましく思っていた。サザビー創業者の鈴木陸三も、現会長の森正督もよく口にするが、人生の3分の2は仕事の時間だ。だからこそ、自分がやっていて楽しい、やりたいと感じるものじゃないと続けていくことは難しい。もちろん、お金をもうけること自体が楽しい、やりたいというのでもいい。もしそれが辛いというのなら、自分が楽しめる、充実感のあることを見つけてほしい。それを見つけるためには、いろんな経験をして、失敗をすることが大切だ。
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