「ファッション業界がもっと喜び溢れるようになるためにどうしたらいいのか」――ZOZO執行役員の武藤貴宣氏が、敬愛してやまない武田邦彦先生と対談。78歳の科学者ならではの視点で、ファッションおよびファッション業界の課題を指摘してもらった。今回は特別に無料公開でお届けする。(この連載のアーカイブはこちら)
(前編から続く)
武田:「はつらつとした人生を90歳ぐらいまで送るためのイメージと材料」を提供したら、それはビジネスにつながりますよ。日本経済も活性化するし、老人は生きがいができるし。あなたは今、何歳?
武藤:43歳です。
武田:あと7年の命だ。
武藤:そうなりますかね。
武田:男は50歳過ぎたらもう意味がありません。
武藤:ちょっと今、迷いだしてますね(苦笑)。
武田:まずはじゃんじゃん小説を書いてもらうことなんです。「華やかな50歳以上の生き方」について。何のために生きているかが分からなければ、どういう生活をして、どういうものを着るのか、何が幸福かというのが分からないじゃないですか。そういう状態を抜け出さなきゃいけない。抜け出そうという気持ちにならないから大変です。だからZOZOさんに少しそういうことをやってもらえたら非常にいいと思って、今日は来たんです。僕一人では変人になってしまうから、ぜひ手伝ってください。
武藤:50歳以上と区切るのがいいかは分かりませんが、昔ZIZITOWN(ジジタウン)みたいなものやったらどうだろうと話していたことがあって。今だとリアリティーを持って考えることができますね。
武田:あともう一つ。デザインについて言うと、人間が楽しみや幸福を味わうのは、自分ではなく、他人に「良い」と思われたときに限られるんです。自分だけが良いと思っているデザインでは駄目。接客スペースのデザインであれば、来た客が疎外感を受けないデザインでなくてはいけません。ところが、ファッションのデザインを見ていると、悪いけど自己満足なものが非常に多い。「私、カッコいいでしょう?」なんです。「私どう?」と聞くのもよくない。「私を見て、周りの人は私に好意を持ってくれる?」って聞くべきなんです。でも、そういうコンセプトで作られた服は、僕から見ると、ほとんどないという感じです。
武藤:おしゃれな人というのは、粋でツッコめるんですよね。今おっしゃった自己満足なスタイルは、ガチガチでツッコめないというか。お笑いとちょっと似ているかもしれないですね。ファッションに“余裕”や“間”があって、人が見て気持ちいいと思えるのは、大事ですね。
武田:でもそれは、“自分のために考えている”他人の目なんです。それは駄目なんです。要するに、自分を切り離して、他人が好意的な目で見てくれるということが、幸福をもたらすわけです。人生というのは悲しさがある。その悲しさを克服しながら生きている。つまりいい気になっていないデザインが、いいデザインです。ファッションは、自分だけ良ければいいというか、自分が華やかであればいいという匂いが強いです。住宅よりも強い。だから、その匂いを消すということも非常に重要じゃないかと思いますね。
武藤:めちゃくちゃテクニカルで、難しいですね。
武田:ものすごく難しいです。ぱっと見て、「あなたはイケメンでいいよね」「得意になっている」と見えてはいけない。サラリーマンの悲哀がないと。
武藤:勘違いされやすいのですが、ギリギリセーフでしょうか?
武田:上役や客に怒鳴られたりしている人が、あなたを見て、「カッコいいな」「心は俺たちと一緒だな」と感じる。それが非常に大切なの。いいデザインとかいい絵っていうのは必ず悲しさがある。そういう悲しさが服にも必要です。
武藤:心掛けてみます。
武田:好意的な視線を集めると人は幸せになりますから。ZOZOさんにはぜひそういうファッションを、じいさんにも提案してもらいたいです。
(次回は1月17日12時にアップします)