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ハンドバッグがメンズ市場で人気高騰? ジェンダーの流動性を楽しむトレンドが浸透か

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 これまでメンズアイテムとして生産され、メンズの棚に並ぶバッグといえば、メッセンジャーバッグやバッグパックが多数を占めていた。しかし、従来ウィメンズ向けとして扱われてきた小ぶりのハンドバッグにも、多くの男性が目を向けるようになっていると米「WWD」は報じる。ジェンダーレスなアプローチが“普通”になりつつある次世代の生活者が盛り上げる、最新メンズバッグトレンドとは。ファッション業界でバッグ市場をウオッチしてきたインフルエンサーや、セレクトショップオーナーの声などを交えて紹介する。

 「ジャンバティスタ ヴァリ」2022年春夏パリ・コレクション発表の際には、マッチング・ファッションで人気を集めるインフルエンサーデュオ、イザベル・シャパット(Isabelle Chaput)とネルソン・ティベルギアン(Nelson Tiberghien)が同ブランドのハンドバッグでそろえたコーディネートを披露した。2人はファッション系インスタグラムアカウント、ヤング・エンペラーズ(Young Emperors)を運営しており、日頃から色や雰囲気をそろえてそれぞれが自己流に着こなすリンクコーデが人気を集める。22年春夏シーズンのミラノやパリ・ファッション・ウイークのストリートスナップでも、メンズライクなファッションにハンドバッグを合わせたスタイリングが見られた。

 ロンドンを拠点とするコンセプトストア「マシーンA(Machine-A)」を運営するスタブロス・カレリス(Stvros Karelis)創業者兼バイイング・ディレクターは、「これは非常に大きなトレンドだ。伝統的に“ウィメンズ”とラベリングされてきたバッグを持つことに抵抗のない男性は増えるばかり。むしろ、あえて持つことでジェンダーの流動性を楽しんでいる。次世代の人の多くはアイテムのジェンダーを気にかけるより、デザインや自分がどう感じるかを大切にしている印象だ。ドレスアップしたときに自信を感じたりすることや、美しいデザインのバッグを持つことに重きを置いている」と語る。

 ブランドが打ち出すキャンペーンに目を向けてみると、男性の著名人やインフルエンサーがハンドバッグの広告に登場するケースも増えている。「グッチ(GUCCI)」が20年にユニセックスモデルの“ジャッキー1961(Jackie 1961)”を発表した際には、ハリー・スタイルズ(Harry Styles)らが、深夜のトークショー番組風に制作した「ビラブド(Beloved)」広告キャンペーンに同バッグとともに登場している。

メンズバッグのデザインの移り変わり

 「エルメス(HERMES)」などのラグジュアリーブランドのハンドバッグを扱うニューヨーク発のリセーラー、「マディソン・アベニュー・クチュール(Madison Avenur Couture)」のジュディ・テイラー(Judy Taylor)創業者は、「多くの男性は前から『エルメス』などを収集してきた。その大きさは関係なく、小さいものから大きいものまで幅広く好んでいた」と分析。「長きにわたって愛されているバッグは、『エルメス』の“オータクロア(Haut a Curroies)”や、“バーキン(Birkin)30”、“バーキン40”など。元プロボクサーのフロイド・メイウェザー(Floyd Mayweather)も大きめのレザーバッグを持ち歩いていたので、一般的に使われるサイズだった」という。

 一方で近年は、「『エルメス』の需要を見ると、メンズの商品でもサイズが徐々に小さくなる傾向にあり、25cmのものが今人気だ。メイクアップアーティストのジェフリー・スター(Jeffree Star)も以前は35cmのものを使っていたが、多くを売って小さなバッグに切り替えている」と述べる。「エルメス」の“カーゴバッグ(Cargo Bag)”など、“ユニセックス”として売られる商品も多様なジェンダー層から人気を集めているという。ネイビーやサンドカラーをそろえる同商品について、「今一番人気のバッグは、ニュートラルカラーのもの。グレーやタン、ブラック、オフホワイトなどのバッグが幅広く受けがいい」とトレンドを実感している。

 スタイリッシュなバッグがメンズ向けに作られることが少なかったこともあって、ファッションに精通する男性の間では、10年当時からウィメンズバッグを購入してきた背景があると説明するのは、10年に自身のブログを開設し、バッグ市場をウオッチしてきた“ミスターバッグ”(包先生、Mr.Bags)ことタオ・リャン(梁韜、Tao Liang)。「10年前にメンズブランドについて語るとき、話に上がったのは『アルマーニ(ARMANI)』や『ゼニア(ZEGNA)』、『ダンヒル(DUNHIL)』など。大人向けで、洗練されている伝統的なブランドが主流だった。今は選択肢が増えたが、5〜10年前はメンズバッグから選べるものは少なかった。どんなにファッションが大好きであっても、『これだ!』というバッグを見つけることができないので、ウィメンズを見て自分好みのものを探すのが習慣になっている。すごく大ぶりのものか小さなスーツケース、またはクロスボディーで着用する小さなバッグくらいしかメンズバッグとして売られていなかった」。

 メンズバッグ市場にも変化が生まれたきっかけとして注目されているのが、18年にデザイナーのキム・ジョーンズ(Kim Jones)とヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)がそれぞれ「ディオール(DIOR)」と「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」のメンズウエアのデザインに携わるようになったこと。18年のデビューコレクションでキムは、1999年にジョン・ガリアーノ(John Galliano)が世に生んだ「ディオール」の“サドルバッグ”をメンズで展開。17年にマリア・グラツィア・キウリ(Maria Grazia Chiuri)=ウィメンズ アーティスティック ディレクターが同バッグ人気に再び火をつけたバッグをもとに、マシュー・ウィリアムズ(Matthew Williams)によるバックルアレンジを加え、クラシカルに仕上げた。

 キムはデザインについて、「ポケットがパンパンになるのが嫌でいつもバッグを持ち歩いているから、ハンドバッグを手掛けようと思ったのは日常の中から自然に出たアイデアだったんだ。それを抜きにしても“サドルバッグ”にはギミックも多く、メンズでの展開は当たり前じゃない?という気持ちだった。あらためて意識的に見てみると、このアイテムはすごく男性に魅力的にうつるものだったと思う。自転車に乗っているときは横にずらして斜めがけにできるし、歩きのときは前に持つことができて、とても機能的なんだ。たくさんものが入るのもポイント。スマートフォンでなんでもできるので、ノートパソコンやアイパッドを持ち歩く人は少なくなって、リュックなどの大きなバッグを使う機会も減っているのだと思う」と言う。

次世代ブランドのアプローチ

 実際に「マシーンA」に置くアイテムを探す中でカレリス創業者兼バイイング・ディレクターは、若手デザイナーのバッグデザインへのアプローチに着目する。例えばジョアンナ・パーヴ(Johanna Parv)による“アクション・バッグ”は、1950年代に流行したハンドバッグを再解釈し、ストラップベルトなどを加えて今風に仕上げている。「ステファン クック(STEFAN COOKE)」では、ビンテージのハンドバッグをもとにシアリング素材などでアレンジを加えたデザインを展開する。

 スティーブン・マー(Steven Ma)が2021年9月に発表した“アフェクション・バッグ”は、カーフレザーをベースに、留め具などは“タイガーアイ”や“ラピスラズリ”といった天然石を使用して、幾何学的にデザインした。デザイナーのマーは、「特にバッグのデザインでは、形や色、スタイルを考えるときにジェンダーを意識したことは全くない。バッグは機能や場所、そのときの気分によって何をもつか決めるアイテムだと思っている。特定のジェンダーに向けてバッグをデザインするという発想自体がなかった」と語っており、同ブランドのアイテムをはじめて扱った「マシーンA」では、購入者の65%は男性であったという。

売り場に変化も?

 「マシーンA」では13年のオープン以来、全てのジェンダーに向けた商品を一緒に扱ってきたが、カレリス創業者兼バイイング・ディレクターはこのアプローチがより多くの場所で見られるようになってきたと感じるという。「ジェンダー分けして商品を並べる方法は、これからは響かなくなっていくだろう。柔軟に物事をとらえ、新しいファッションに挑戦することにオープンで、既存の“ルール”にコミットしない考えを持つ生活者は増えている。小売業界は常に、社会や時代の文化的変化をキャッチし、売り場や訴求の仕方に反映していかなければいけない。新時代の小売業者はハンドバッグのプロモーション方法を確実に変えていくはずだ」と述べた。

 中国でも一部のブランドは、顧客の購買履歴や傾向を分析する際にジェンダーで分けずに総合的に見るようになっているという。タオ・リャンは販売方法に着目し、「メンズ・ウィメンズのバッグがジェンダーにかかわらず好まれていることを知ってから、ブランドは実際にバッグの形やスタイルを変えたわけではなく、より幅広いサイズで展開するようになってきた。とても賢い紹介の仕方だ。バッグ用のより太いストラップを展開し、ウィメンズ向けの商品のスタイルに変化をもたらすことができるようになった」と分析する。

 「例えば『ジバンシィ(GIVENCHY)』では、新たに“カットアウト(Cut-out)”バッグのより大きいサイズを導入した。実際のアイテムは伝統的なウィメンズのバッグと比べて大きめで、男性から人気を集めているという。ウィメンズセクションに置いてあったとしても、実際ブランドは男性客を見据えて生産しているということが感じ取れるアイテムだ」。またこれからのバッグの可能性について、ヴァージルが「ルイ・ヴィトン」で手掛けたメンズバッグは女性の間で人気を博していることを受けて、「伝統的に女性から長く愛されてきたバッグが多くあるのなら、メンズ向けに展開しても面白いのではないか。21年現在、男性がウィメンズの小ぶりなバッグを持つだけでなく、若い女性たちも大手ブランドのメンズセクションから買い物している」と語る。


 WWDJAPAN1月3日&10日号では、本記事と合わせてファッション系サークルに所属する男子大学生を集め、バッグに関する価値観や消費動向の実態も調査している。日本でこのトレンドは既に浸透しているのか、これから広がっていくのか注目だ。

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