モデルや女優として活躍する内田理央の普段着は、Tシャツやパーカなどカジュアルな装い。そこで本人の感性と個性を存分に生かしながら、ファッション性やプロセス、ビジネスにまでこだわった「本気のTシャツビジネス」をスタート!「WWDJAPAN」が各界の先駆者を紹介することでTシャツ、イラスト、ビジネスについて学びながら、「名前貸し」とは全然違う、本気のタレントによるアパレルブランドを目指します。第6回はアートとファッションを融合したクリエイションが特徴の「オールモストブラック(ALMOSTBLACK)」を手掛ける中嶋峻太デザイナーに話を聞きました。
内田:ファッションデザイナーを目指したきっかけは?
中嶋:高校生の時に、ファッションショーの様子が掲載されている雑誌を見て衝撃を受けました。その後、パリに留学できるコースがあった、専門学校のエスモード・ジャポンに入学しました。語学はパリに行ってから入学するまでの半年間で勉強したので、最初は先生の言っている言葉が全く理解できませんでした。
内田:強い気持ちがなければ、言葉も伝わらない未知の環境には身を置けないですよね。ブランドのコンセプトに“ポスト ジャポニスム”を掲げたのは、パリでの留学を経て、日本の国や文化の素晴らしさに改めて気づいたからですか?
中嶋:フランスには自分たちの国を愛している人が多かったんです。でも当時の日本は、「日本が好きだ」と声に出している人が少ないように感じていたので、その部分を大切にしていけば海外でも勝負していけるのではと考えました。
内田:中嶋さんが考える日本の魅力とはなんでしょう?
中嶋:生地から製品まで生産できる国は本当に貴重だし、脈々と受け継がれてきた日本の文化は本当に素晴らしいです。現状、日本の生地屋や工場は、中国などに価格競争で負けてしまっている影響で厳しい状況が続いています。その中で僕は日本製にこだわり、彼らに少しでも貢献したい思いでモノづくりに励んでいます。
内田:ブランドの強みである、アートとファッションを融合したクリエイションを実現させるためには苦労も多いですよね。
中嶋:ファッションとのコラボレーションをしたことがない人達と取り組む場合は、納得して頂くまでプレゼンテーションをしますね。プリントで作品を表現したときの色味や見え方などのやり取りを何回も重ねるので、実現するまでに時間はかかりますが、僕が一番やりたいことなので続けています。例えば、内田さんのスタッフから相手に伝えるのと、ご自身で説得しにいくのでは受け取り方が全然違います。そういったことの積み重ねをすごく大切にしています。
内田:それは全然違いますね。人間同士だからこそ、何度も思いを伝えていけば叶うものなんですね。中嶋さんが私の立場になったら、どんなTシャツを作りますか?
中嶋:内田さんが好きなものや気持ちを前面に出した方がいいです。例えば、アニメ「転生したらスライムだった件」のキャラクターの“ミリム・ナーヴァ”のTシャツを作ってくれたら買います(笑)。
内田:中嶋さんがアニメ好きなのは意外でした。私はモノづくりをする際に、大衆向けか、自分だけに刺さるデザインにするかで悩むことが多いんです。
中嶋:2021-22年秋冬シーズンはアーティストの白髪一雄と妻の富士子とコラボレーションしました。「彼らのことを知ってほしい。そして僕は好きだ」という気持ちで作ったんです。大衆向けのコラボレーションは、多くの人がすでにやっているし、コアな方が跳ねる可能性があります。好きなことを突き詰めた方が消費者にも必ず伝わるし、素敵だと思うんです。新しいことを始めたときは、すぐには人に伝わらないし、僕自身もかなり苦労しました。当時はSNSがなかったので、影響力のある店舗に置いてもらうための努力をしたり、個展的な活動を行なったりしていました。
内田:私だけができることや、掘り下げられることを大切にするべきだと身に染みて感じました。やはり周りに理解してもらうまでの時間や我慢は必要不可欠ですね。仮に内田理央×アニメのTシャツを作ると、“グッズT”と捉えられてしまうのでは?と恐れています。「本気でこだわったTシャツ」としての魅力を伝えるために必要なことは?
中嶋:内田さんが好きなTシャツの形や素材を追求すれば、グッズTとの違いは出ると思います。プリントに関しても、シルクスクリーンやインクジェットなど、いろいろな手法があるので、サンプルを見て試行錯誤を重ねていくことが大事です。また、今は伝えられる場が沢山あるので、SNSなどを通して制作過程を発信するのも一つの手段ですね。