アダストリアは2021年12月、自社ブランドを集めたECモール「ドットエスティ(.st)」と連動したOMO(オンラインとオフラインの融合)店舗の「ドットエスティストア」を、大阪・難波のなんばシティ本館1Fにオープンした。21年5月に千葉・船橋のららぽーとTOKYO-BAY、東京・府中のミッテン府中に出店したのに続き、3店舗目。大阪店オープン直後の週末には、「ドットエスティ」内のコーディネート投稿コンテンツ「スタッフボード」で“殿堂入り”メンバーとなっている販売員らによる接客も実施、熱心なファンが詰めかけた。「ドットエスティ」の会員は現在1300万人超と、アダストリア はアパレルECの勝ち組と言われることも多い。同社のOMO最前線を大阪で取材した。
OMO店舗といえば、デジタルツールの活用やショールーミングストアをイメージしがち。しかし、「ドットエスティストア」はミラー型サイネージなどのツールを取り入れつつも、あくまで販売員を軸にした顧客との接点の拡大を目指す。「ここではリアルの良さと強みを大切にし、特に人を重視している。リアルがあってこそのデジタル。会員を実店舗とECで一元化してイベント告知をしたり、(店舗の存在によって)EC自体の認知度を上げたり、リアルで培った経験をECにつなげていきたい」と、ドットエスティ事業を統括する田中順一執行役員マーケティング本部長は話す。
今回、大阪の新店オープンで目玉の一つにしていたのは、デジタル上で人気のあるスタッフによる接客イベントだ。アダストリア は20年秋、「スタッフボード」経由の売り上げとフォロワー数などが上位のスタッフを選抜する仕組み、「殿堂入り制度」を開始した。研修を通して殿堂入りスタッフのノウハウやスキルを他のスタッフにも提供することで、全体の底上げを図る。21年に殿堂入りしたのは、「グローバルワーク(GLOBAL WORK)」イオンモール新潟南店のバヤコさんと、「ヘザー(HEATHER)」のプレス担当ネネさん、「ページボーイ(PAGE BOY)」のプレス担当ヒネチさんの3人だ。
3人のうち、唯一の現役販売員であるバヤコさんは、地方店のアルバイト社員ということもあり、大阪でのイベント参加には不安があったという。しかし、「ふたを開けてみれば、多くのお客さまが楽しみにして店頭に来てくださり、心の底からうれしかった。いつも参考にしていますとか、インスタグラムでバヤコさんを見かけてから『グローバルワーク』を好きになりましたと言ってくださる方が多かった」と話す。地方店販売員から全国区の人気者が出てくるのは、デジタル時代ならではだ。
バヤコさんが「スタッフボード」へのコーディネート投稿を始めたのは、コロナ禍前。コロナ以降は、オンライン接客や自宅からのインスタライブ配信を積極的に行い、全国にファンを増やしてきた。「お客さまの年齢層は幅広い。特にインスタに投稿する際は、画面の向こうにいるお客さまを意識しながら説明文を入れるなどして、分かりやすく伝えることを心掛けている」とコツを語る。一方で実店舗では「私のことを知らずに来店されるお客さまももちろん多いので、オンラインとの温度差があっておもしろい。ただ、オンライン、実店舗のどちらでも、お客さまの悩みや質問に応えていく姿勢は同じ」という。もともと接客は得意だったが、オンラインでの経験値がリアルでも役に立っている。「新潟だけでなく、全国のお客さまに対応するようになってから、接客の引き出しがとても増えた」。
アルバイト社員のバヤコさんだが、正社員になることにはこだわっていないという。「(正社員かどうかに関係なく)頑張る姿勢さえあれば評価してもらえて、色んな機会を与えてもらえる。販売員の希望の光になるような、新しい販売員のモデルになりたい」と、意欲を見せる。
殿堂入り制度で社員のモチベーションが向上
ネネさんは「スタッフボード」の実績によって、販売員からプレス担当へと新しい仕事の領域を開拓した。殿堂入りを機に、仕事の幅はさらに広がっている。「今回のようなイベントに出るようになって、現場のリアルな声や販売員の思いが聞けるようになり、いい経験になっている。殿堂入りしてからは毎月、全ブランドを対象にしたレクチャー会も行なっていて、毎回新しい発見がある。モチベーションアップにもつながるので、殿堂入り制度はいい仕組みだと思う」と語る。
本社勤務のネネさんが「スタッフボード」への投稿で工夫している点は、ECサイトで紹介される前の商品を厳選し、サンプルの段階で撮影、投稿すること。「週1回撮影する日を決めて、できるだけ毎日新しいコーディネートを投稿している」のだという。
同じプレス担当でも、ヒネチさんの投稿はより個性が際立っている。「『ページボーイ』が掲げているテーマ“オンナマエ”を一番体現できる存在になろうと活動しているので、自分が好きなコーディネートに特化して投稿している。先にインスタで発信していたので、『スタッフボード』もその世界観と連動させている」と語る。「プレスの枠に留まらず、ブランドのためになることならやりたいことにどんどん挑戦できる環境が嬉しい。人生一度きりなので、お客さまも自分も楽しめる働き方をしていきたい」「(店舗とECは)やはり距離感が違う。リアルでしか同じ時間と空間を共有できないので、リアルは絶対必要」とも続ける。
アダストリアでは、「スタッフボード」やSNSへの投稿はあくまでもスタッフのやる気に任せている。ただし、各人の売り上げを可視化し、個人や店の売り上げに対するインセンティブを設けるなど、スタッフに利益を還元する体制は整えた。「コロナ禍を経験したことで、本部が現場の声を聞いて、現場がより働きやすいように(制度などを整えて)サポートする仕組みが会社として強まったことは、大きな変化だ」と木村治社長も話す。殿堂入りスタッフの存在が、OMOを推進すると共に社員全体のモチベーションにもどんな効果をもたらすのか。今後も注目だ。
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