神戸を拠点とするファミリア(familiar)は、「子どもの可能性をクリエイトする」をパーパスに相当する企業理念に掲げ、近年はライフスタイルブランドとしてレストラン、小児科クリニック、子どもたちや産前のママを対象にしたイベントなどにも挑戦。子ども服以外のコンテンツビジネスは、全体の3割に迫ってきた。
企業理念を掲げた岡崎忠彦社長は、グラフィックデザイナーとしての経験を生かし、「経営の勉強はしたことがないけれど、『経営をビジュアル化できたら、みんながついてくるのでは?』と考えた。経営を言葉ではなくビジュアルでコミュニケーションできたら、僕も一端の経営者になれるのではないか?」と考え、オフィスの“縮小移転”を機に、その環境整備を開始。「子どもの可能性をクリエイトする」というパーパスの共有や20代社員の活躍で、少子化時代なのに「10年後が楽しみな会社になってきた」という。
「子どもの可能性をクリエイトする」という企業理念の根幹を担うのは、オフィスの入り口にあるから誰もが目にする「ビジュアルプラットフォーム」だ。「確立までに20年の歳月を要した。簡単には真似できないから、見せても構わない」と話す「ビジュアルプラットフォーム」は、子ども服、飲食、提供するカリキュラムなど、「ファミリア」のさまざまなコンテンツをイラストを中心に図式化したもの。同時期に展開する多様なコンテンツを縦一列に並べて構成する、「ファミリア」の半年間の指針をビジュアル化したものだ。「ビジュアルプラットフォーム」の制作には本社スタッフの全員が関わり、カリキュラムなどのモノ以外のコンテンツ開発さえデザイナーらアパレルのプロが兼任する。そして各ジャンルのコンテンツは「ビジュアルプラットフォーム」の縦軸展開、つまり他のカテゴリーに水平展開できないと採用されない。こうして子ども服の「ファミリア」のスタッフを、「子どもの可能性をクリエイトする」という「ファミリア」の企業理念と多様なコンテンツを体現するスタッフへの進化を促している。全員が「ビジュアルプラットフォーム」の制作に関わることで、「ファミリア」のコンテンツはいずれも「子どもの可能性をクリエイトする」という「ファミリア」らしさを体現しながら、モノからコト、さらにマナビへと拡大。同時に社内には異なる業務をしながらも、同様の志を持つ人間が存在することを可視化する。
同じ志を持つ人間同士のコミュニケーションを妨げないよう、社内の机は高さを全て揃え、ミーティングスペースは個々人のデスクを取り巻くように配置した。「ファミリア」でもDXは進んでいるが、インスタグラムの投稿やUGC(User Generated Contents)は壁に一覧表を掲出して毎週一回、最新版に更新する。岡崎社長が憧れる理想の工房を描いた「エルメス(HERMES)」のビンテージスカーフを筆頭に、壁には1950年代のポスター、棚にはお気に入りの書籍。壁のポスターは「70年以上前の作品だが今見ても新鮮。そんな『ファミリア』が目指すモノづくりを大義名分化」したもので、棚の書籍は「僕の頭の中を表現したもの」。「ビジュアルプラットフォーム」同様、ビジュアルで想いまで表現しながら、新しいことにこそ積極的になれるクリエイティブな環境を整えている。
神戸のオフィスで、パタンナーとして働きながら、最近はマナビのコンテンツも手掛けている女性に本音を聞いてみた。「最初は、プロフェッショナルな(パタンナーの)仕事がやりたくて入社したので、『えっ!?』とか『はっ!?』という思いでした(笑)。でも、マナビのカリキュラム作りも子どもを幸せにする仕事だし、周りには助けてくれる人がたくさんいます。自分の世界が広がり、いつまでも柔らかい頭でいられる気がします」という。グラフィックデザイン出身の岡崎社長、そして子ども服で70余年の「ファミリア」の周りには、大勢のクリエイターが存在する。「会社は、みんなもの」と話す岡崎社長は、自身の役割を「ビジュアルプラットフォーム」同様、「グリッド(それぞれのコマ)を整える人」と捉え、親交のあるクリエイターを巻き込み続けている。
「ファミリア」は、NHKの連続テレビ小説「べっぴんさん」の通り、今で言う4人のママ友から始まった。岡崎社長を支える林良一取締役執行役員は、「当時は足りていなかった子ども服だったけれど、『あの4人は、今なら何に取り組むだろう?』と考える」という。「子どもの可能性をクリエイトする」は、同社の、創業当時からの「パーパス」なのだ。
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