スニーカーにまつわる噂話のあれやこれやを本明社長に聞く連載。ついに社名が「フットロッカー アトモス ジャパン(Foot Locker atmos Japan)」に、本明さんの肩書きがCEO(最高経営責任者)に変わった。新年早々に見た箱根駅伝の足元は今年も「ナイキ(NIKE)」の“厚底”の圧勝だ。しかし、優勝した青山学院大学は「アディダス(ADIDAS)」とスポンサー契約中。選手の着用するユニホームとシューズのメーカーが違うのはよくある話だけど、それが今のスニーカー業界の相関図を表しているとか。その真意とは!? (この記事はWWDジャパン2022年1月3・10日号からの抜粋に加筆をしています)
本明秀文CEO(以下、本明):箱根駅伝を見て、これは本当に既存のスポーツメーカーが新興ブランドに逆転されてしまうなと思った。青学大の優勝インタビューを見ると全員「アディダス」を履いている。だけど実際のレースでは「ナイキ」を履いている。それってすごい矛盾じゃない?レースに出るときは「ナイキ」を履いて、スポンサーとして金をもらうときだけ「アディダス」。あれをやられちゃうとスポーツメーカーとしてはアウトだよ。
――スポーツメーカーとしては評価されていないということですもんね。
本明:そう。駿河台大の徳本(一善監督)と話したんだけど、100km走るなら「ホカオネオネ(HOKA ONEONE)」や「オン(ON)」が良い。でもフルマラソンレベルなら「ナイキ」がダントツ良い。そこに古参の「アディダス」や「プーマ(PUMA)」の名前が出てこない。先日、並行輸入バイヤーの市村博之さんと会って、20年前のフットロッカーのカタログを見た。そこには「エアウォーク(AIR WALK)」や「ブルックス(BROOKS)」が載っていて、市村さんも当時たくさん買い付けていた、と。20年前はアメリカでスニーカーを探すときに「リーボック(REEBOK)」を履いているのがかっこよかったとも聞いた。でも今や「リーボック」は売却され、「エアウォーク」や「ブルックス」なんてどこで買えるの?って感じじゃん。20年前はあれだけ売れていたものが衰退していく。
――「プーマ」のウィメンズは売れているんですよね?
本明:確かにファッションとしてのウィメンズは売れている。でもウィメンズで“売れる”のはすごく簡単なんだ。ハイブランドのパクリっぽいものを作って1万円を付ける。でも1万円じゃ売れない。で、8000円にすれば売れる。女子は値段にすごく敏感。だけどそれでは男子には売れない。男子はある程度なら高くても、かっこよければ買う。だから本当は男子に売れないと価値が出ない。そういった意味でも「プーマ」のメンズは売れていない。それなのに、スポーツで頑張っている感じもしない。
――なるほど。
本明:青学大の話だって、大金を出しているんだから普通は文句の一つや二つ言うでしょ。でもその文句すら言えないのが今の「アディダス」の弱さなんだよ。あとは“個々の選手の判断に任せる”って、サポートがうまくないんだと思う。「ナイキ」よりシューズの性能は劣るかもしれないけど、例えば「アディダス」の人が青学大の練習に毎日行って、体調はどう?調子はどう?とか、時には恋愛相談に乗ったりとか、熱心に面倒を見たとする。そしたらその人を裏切れないと思って「アディダス」を履くと思うよ。それで履かない選手はほっとくしかないけど、そういう人間関係が全くないんだと思う。全部お金で解決しようとしている。
――市場での売れ行きはどうですか?
本明:「アディダス」は直営店も多いし、直営店のトップも数字が取れないと給料が上がらない。だから過剰なセールをしたりクーポンを配ったりして、本当に安く“フォーラム(FORUM)”(2020年末に復刻した1984年誕生のバッシュ)を売った。それが原因で、早くも市場では40%オフで売りたたかれている。「プーマ」も利益のほとんどがアメリカの売り上げ。そうなるとアメリカの景気が悪くなったときに利益を取るところがなくなる。売れたって質が良くないと長くは続かないからね。だからこのままでは、きちんと利益を取って、ファッションとしても浸透してきた「ホカ」や「オン」のようなメーカーに取って代わられる。これまでの20年で変わったことが、今の世の中のスピードなら5年で変わるかもしれない。