みなさん、こんにちは!年明けのカウントダウンは、ジェラートを食べながらお祝いした、パリ在住ライターの井上エリです。1月14〜18日に開催される2022-23年秋冬シーズンのミラノ・メンズ・コレクションの取材のため、ミラノにやって参りました。昨年末にイタリア・ファッション協会(Camera Nazionale della Moda Italiana)が公式スケジュールを発表した時点では、ほぼ全てのブランドがリアルでのショーを開催する予定でしたが、最終的には49ブランドが参加、16ブランドがリアルでの発表となりました。ショーのキャンセルが出たかと思えば、直前で座席を確保できたブランドもあり、ドタバタ感も含めてミラノ現地の様子を臨場感たっぷりにお届けしたいと初日朝から意気込んでおります。比較的スケジュールに余裕のある今季のミラノ・メンズ4日間を日記形式でリポートしますので、どうぞお付き合いください!
14:30「ゼニア」
今季のトップバッターは「エルメネジルド ゼニア(ERMENEGILDO ZEGNA)」改め、「ゼニア」です。会場として使った本社にショー開始30分前から来場者を迎え入れ、コーヒーやフィンガーフードを振る舞いながら、和やかな雰囲気で公式スケジュールのオープニングを飾ります。シアタールームで映像を上映した後、モデルとマネキンを使ってアレッサンドロ・サルトリ(Alessandro Sartori)=アーティスティック・ディレクターがコレクションについて説明しました。
インスピレーション源であり、映像のメインとなったのは、イタリア北西部に位置するピアモンテ州の自然保護地区、オアジゼニアを横断する232号線の景観です。テーマを“A Path Worth Taking(辿る価値のある道)”とし、「1910年の創業から現在までの軌跡を振り返り、進むべき道筋を示すコレクションだ」と語ったサルトリさん。今季も、ブランドの原点であるテーラリングを、緻密なアイデアで現代のワードローブへと発展させるという、指針は揺らいでいません。キーワードも前季と同じく"流動性"と"軽量性"だと言い、ゆったりとしたシルエットのテーラードやトラペーズラインのコートに、ワークウエアやレジャー、特に今季はスキーパンツとゴーグルで雪山を連想させるアイテムを融合。アウターとして使用したプルオーバーと厚手のニットは、タイダイや継あてのモチーフを装飾することで独特の質感を持たせて、「ゼニア」らしい上質さとクラフツマンシップを表現しています。
サルトリさんが「自然を愛し、故郷に深く根差した心をもつ創業者の信念に立ち返った」と語る通り、雄大な大自然の風景になじむマホガニーブラウンと深いグリーンが今季のキーカラー。ブラックやホワイトも異素材でレイヤードすることでスタイリングに奥行きを持たせています。過去数シーズン、そして今回も繰り返し「若い世代は自由を求めている」と彼は口にしていました。さらに「季節ごとに選択肢を増やしてスタイルを拡張させる方法を提案しています。その時々のニーズに合わせて時間と共に成長し、統合されていく形やテクスチャーの言語を構築しながら進化していくこと。それが『ゼニア』の進む道だ」と続けます。
「ゼニア」は昨年末にインベストインダストリアル・アクイジション(INVESTINDUSTRIAL ACQUISITION CORP.)と最終事業契約を締結し、ニューヨーク証券取引所に上場しました。合併によるリブランディングに伴って一新したロゴは、創業時のオリジナルのフォントに近いものを選んでいます。これまで分かれていた「エルメネジルド ゼニア」「ジー ゼニア(Z ZEGNA)」「エルメネジルド ゼニア XXX(ERMENEGILDO ZEGNA XXX)」を「ゼニア」に統一しました。合併後もゼニア一族は約62%の株式を保有し決定権を維持し、創業者の孫にあたるジルド・ゼニア(Gildo Zegna)が最高経営責任者(CEO)を務めます。彼は映像上映後、「フォーマルとカジュアル、男性と女性、さまざまな堅苦しいカテゴリーを取り払うことで私たちは進歩の道を辿ることになる。これがうまくいくと確信している」と力強く語りました。
視点を反転させる映像は見応えありましたが、乗り物酔いしやすい私は上映中に頭がクラクラ……。明日、再度展示会場へ行く予定なので、生地やディテールをしっかりチェックしてきます!キールックをまとった日系モデルの中野悠楽さんをパシャリ。
17:00「ディースクエアード」
「ディースクエアード(DSQUARED2)」が用意した座席は、使い古されたスーツケース。まずショー前にディーン・ケイティン(Dean Caten)とダン・ケイティン(Dan Caten)がランウエイに登場し、弾ける笑顔で挨拶をしました。「今日この瞬間、みなさんとここにいることは大きな意味を持ちます。リアルなショーを開催するという決断をサポートし、この場に来ていただき、ありがとうございます。私たちにとってこれは大きな前進です。約2年ぶりのショーに緊張し、興奮していて、今最高の気分です!」。2人がはけた後、リキッド リキッド(Liquid Liquid)1980年代に発表した曲“Cavern”でショーが始まりました。
座席の演出で想像できる通り、今季は旅行やアウトドアがテーマです。寝袋からアウターへと変幻する、ジッパーがたくさん付いたダウンコート、アウターとして登場したブランケット、スパンコールのバミューダパンツにトレッキングシューズは原色に染まります。さらにタータンチェックや迷彩柄、アーガイルに自然風景と、とにかく要素がてんこ盛り!「ディースクエアード」はパンデミックの2年間でモノトーンに色褪せた日常に別れを告げ、新たな旅への準備が万全のようです。以前にも増してパワフルで自由で、生き生きとしたエネルギーに満ち溢れ、ファッションが持つポジティブな側面を最大限に見せてくれました。
18:00「フェデリコ チーナ」
2021年度「LVMHプライズ」のセミファイナルまで残っていた新進デザイナー、フェデリコ・チーナ(Federico Cina)が初のショーを開催しました。デザイナーの故郷であるイタリア・ロマーニャの自然や伝統からインスピレーションを得て、メンズがメーンのユニセックスなコレクションを披露しました。今季は1977年に開業した大規模なディスコに触発され、招待状はレコードとディスコへの入場券でした。テーマは“Ball’Era ‘77”で、ボックスシルエットのテーラードやワイドなトラウザー、モヘアやかぎ編みのニットをパープルやイエローで構成し、あえてキッチュなコレクションへと仕上げています。過去2シーズンのデジタル発表で見せたほっこりとのどかな世界観からあえて外したのでしょうが、ブランドの核となるような決め手に欠け、まだ物足りない感じがしました。
20:00「1017 アリックス 9SM」
前季までパリ・メンズに参加していた「1017 アリックス 9SM(1017 ALYX 9SM)」は、デザインスタジオを構える本拠地ミラノに発表の場を移しました。約2年ぶりとなるリアルショーの会場は、18世紀に建てられたカトリック教会です。圧巻のフレスコ画と朽ちた美しさを持つ教会内に、テクノミュージックが流れてショーがスタート。前季から姿を消したシグネチャーのバックルは今季も皆無で、洋服により焦点を当て、これまでになく生地のテクスチャーで遊び心を加えています。エナメルやPVC、フェザー、テディベアのようなボア、艶やかなサテン、軽やかなチュール、そしてきらびやかなラメやビーズの装飾――メンズの流線形のシューズや、ウィメンズのコルセットの骨組みを備えたアウター、ビスチェのドレスといった構築的なデザインは、「ジバンシィ(GIVENCHY)」の影響を強く受けているようでした。デジタルで発表した過去3シーズンは大人っぽく洗練されていましたが、今季はよく言えば若々しさを取り戻し、ネガティブに言えば荒削りな感じもしました。とはいえ歴史を物語る教会とインダストリアルな「1017 アリックス 9SM」らしいコレクションのコントラストが美しく、ショーの演出は最高です!
ミラノ初日を終えて、インターナショナルのゲストが極端に少ないと感じています。アジア勢とアメリカ勢はほぼ皆無で、ほんの少しのフランス、イギリス、ドイツからの渡航者を見かける以外は、どの会場でも見渡す限りイタリア人。座席はソーシャルディスタンスを守る配置で、「ゼニア」は70名、「1017 アリックス 9SM」は50名ほどのゲストでした。イタリア政府が12月に規制を強化し、陰性結果の証明をのぞく“スーパーグリーンパス”を導入したことにより、各ショー会場ではワクチン接種証明書もしくは陽性からの回復を証明するQRコードの提示が必須でした。また、マスクは保護レベルの高いFFP2に厳格化されています。いつものような盛り上がりには欠けますが、おそらく今季で最後であろう(そうあってほしい)この奇妙なファッション・ウイークの取材を続けていきます。
本日のジェラート
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せっかくイタリアに来たのだから、今シーズンも取材にジェラートは欠かせません。初日のショーは4つだけだったにも関わらず、会場が見事に東西南北に分かれていて、移動に時間を費やしました。目星をつけていたジェラート屋さんに立ち寄ることはできなかったものの、「1017 アリックス 9SM」ショー終わりの21時過ぎでも開いていた、ホテル近くのビアンコラテ(Biancolatte)へ。塩入りチョコレートとピスタチオのミックスで空腹を満たします。外の気温は2度と冷え込みますが、寒い日に食べるジェラートもこれまたおいしい〜。