REPORT
カオスから生まれるエレガンスとセクシー、そしてニューシルエット
阿部千登勢は今シーズン、カオスにエレガンスとセクシーを見出した。試みたのは、セカンドハンドショップで宝物を見つけたような素朴な魅力を、クチュールテクニックとメンズウエアの要素で再構築し、モダンに見せること。
会場になったシャイヨー宮の広い空間には、迷路のように椅子が配置され、モデルはその間をウオーキングしていく。客席からはランウエイの全貌を確認できず、モデルが不規則にターンして歩いているように見える。そんなモデルが着るルックもまた、カオスだ。一見すると服の構造はわからない。
ファーストルックはスーベニアスカーフをプリントしたドレス。花モチーフをアップリケしたり、別のプリントをしたビクトリアンレースをレイヤードしたり。過剰ともいえる柄と柄、素材と素材を衝突させてエレガンスを生み出している。服の形もまた複雑だ。ショルダーに切り込みを入れて見せた“ズレ”たようなデザインは、パフスリーブのような不思議な膨らみがある。スカートは、一方にボリュームを持たせてアシンメトリーなシルエットに。モデルが歩くたびに揺れてルックにリズムを与えている。このルックが象徴するように、今季は柄も服の構造も、カオスのようなルックを生み出した。
ほどけたようなテープのディテールも多く見られるが、これはシグニチャーの一つであるリボンストライプがアイデア源だという。バンダナモチーフもキーの一つで、例えばアメリカのバンダナプリントとメンズのタンクトップをベースしたドレスは、繊細なクチュールライクなレースや、スリップドレスと組み合わせることで官能的なルックに完成させている。
中盤に登場するカラフルなストライプシリーズは、ペルーのラグがインスピレーション源。スカートは、ウエスト部分に切り込みを入れて歪みを持たせて新しいシルエットを提案した。ゴールドのギピュールレースのミリタリージャケットにはビンテージのカーディガンのビーズ刺しゅうを思わせるゴールドのスタッズを施した。シューズは、ミリタリーブーツで見られるストラップとレディーライクなパンプスをドッキング。イエローゴールドとダイアモンド、パールのイアリングは何世紀も昔からの金細工技術を用いてモダンな形で提案するなど、ウエアからシューズ、アクセサリーまで、アイデアは遊び心に溢れ、実に多彩だ。
シルエットもまた、これまでと同様、解体と再構築、再び解体することで生まれる新しいシルエットを追求した。
「ビンテージショップにあるような昔からあるものをモダンにしたかった」とバックステージで語る阿部千登勢。彼女が着ていたのもロックTシャツで、「ビンテージショップに売ってそうでしょ?」と微笑む。また一つ新しいステージに登ったようだ