「フェンディ(FENDI)」は、ミラノ・メンズ・ファッション・ウイークで現地時間1月15日に2022-23年秋冬メンズ・コレクションを発表した。メンズでリアルのショーを開催するのは1年半ぶりで、ミラノのオフィス内を会場にセットを組んだ。コレクションのテーマは"狂騒の20年代"。アメリカの1920年代を現す言葉で、第一次世界大戦後に経済が好転し、芸術や文化、文学が花開いた時代だ。アーティスティック・ディレクターのシルヴィア・フェンディ(Silvia Venturini Fendi)は、”狂騒の20年代"のようにファッションの新たなスタイルを開花させるべく、クラシックに焦点を当ててメンズウエアを再解釈。「再びドレスアップすることの喜びを示すため、洗練されたコレクションを作りたかった」と彼女は言う。"狂騒の20年代"を現代に巻き起こすために必要なものとは?今季のコレクションについて、シルヴィアに詳しく聞いた。
ドレスアップの喜びを再び
ーー2022-23年秋冬メンズコレクションの着想源は?
シルヴィア・フェンディ「フェンディ」アーティスティック・ディレクター(以下、シルヴィア):クラシックスタイルの原型とロマン主義的な世界観に触発され、それを現代の日常着に押し上げたかった。私たちは過去2年間ドレスアップの機会を極端に失い、フーディーやスエットパンツを着用して多くの時間を自宅の中で過ごした。だから再びドレスアップすることの喜びや、時代が進んで私たちも成長したことを示すため、とても洗練されたコレクションを作りたかった。
ーー1年半ぶりにリアルなショーを開催した理由は?またスポットライトを鋭く照らすシンプルな演出の意図は?
シルヴィア:リアルのショーをできるかどうかという不安定な状況だったが、通常は会場に1300の座席を用意するのを120に絞って開催した。例え多くのゲストを迎えられなくても、リアルなつながりを生み出すショーの開催は重要だと考えたから。シンプルな演出にしたのは、ショーではなく洋服に焦点を当てるため。意思を持った男性が力強く歩みを進める姿を映したかった。
ーー過去2シーズンのデジタルでの発表を経験し、デジタルとリアルの違いは何だと感じている?
シルヴィア:デジタルの経験は非常に興味深く、楽しみながら制作できた。映像の場合はイメージをコントロールしやすいため、見る人に強いインパクトとパワーを与えられる。映画業界が文化的に重要な役割を果たしているのはそのためだろう。今季は非常に限られた席数のため、リアルの完全復帰ではなく、デジタルとリアルのミックスだったと言える。やはり瞬間的な感情の喚起や人々の感情のつながりは、リアルでこそ生まれるものだ。ショー最中にバックステージにいても、私はゲストの感情や緊張感を感じられるし、最後に拍手で迎えられるのも特別な瞬間だ。規模を縮小せざるを得なかったとはいえ、今季は私たちが物理的なつながりに戻る出発点になるだろう。
「ストリートウエアはもう十分」
ーーコレクション制作おいて最も大切にしていることは?
シルヴィア:創造性の自由を常に意識し、コレクションに可能性と実験性をもたらすこと。「フェンディ」には、それを具現化できる卓越した職人たちがいる。彼らがいるから、パンデミックの影響でたくさんの工場が閉鎖する厳しい状況のときでさえ、新しいことに挑戦し、あらゆる境界線を破ることができるのだ。昨年のクリスマスあたりに感染が再び拡大し、制作に遅れが生じるなど誰もが困難を強いられた。しかしその分、私たちは柔軟で寛容さを身につけることができた。結果的に今シーズンも全てを完成させられて本当に嬉しいし、私たちにとっては神話的なコレクションになった。
ーー世の中の男性は今ファッションに何を求めていると考える?
シルヴィア:ストリートウエアはもう十分。今こそ“新しい洗練されたスタイル”を再考すべき。今季のコレクションで、私は洋服に焦点を当てたかった。今ではほとんど忘れ去られたように見える“洗練とエレガンス”の概念を分析し、着心地が良く、着る人にドレスアップの作法を取り戻させるような洋服をデザインした。ストリートウエアの流行でドレスアップは一つの儀式のようになってしまっているため、男性がブローチやイヤリングを着用するという、私のお気に入りのアイデアを取り入れた。
ーージュエリーだけでなく、今季は“ジェンダーニュートラル”の意思を示すスタイルも多くあったが?
シルヴィア:今、私が最も関心を寄せていることの一つだ。メンズとウィメンズの洋服の境界線は曖昧になり、女性は男性のジャケットやスーツを着用し、形式張ったメンズウエアの世界は自由に解放され始めた。人々は多くの境界線を再考しており、ファッションにはそれを打開する力があると思う。これまでもファッションは自由を表現し、人々を制限していたコードから解放するために重要な役割を担ってきた。私はコレクションを作っているときに、初めてメンズのジャケットを着た女性はどのように着たのだろうかとを考えた。そして、なぜ男性は女性のワードローブから洋服を借りることができないのかも想像した。だって、スーツがスカートであってもいいはずだから。今は特に若い世代にジェンダーニュートラルの傾向が強く、自由な思考を尊重することはとても重要だと考えている。
ーージェンダーニュートラルなスタイルは、Z世代にアプローチする目的も含んでいる?
シルヴィア:「フェンディ」は常に変化を受け入れることにオープンだし、私は「不可能なことは何もない」といつも言っている。だからクラシックとアバンギャルドの融合も、とても自然な流れだった。私たちの基盤は、品質と創造性を維持すると同時に、革新と実験性に常に挑み続けるため、新しい研究と技術に投資している。近未来を受け入れ、リアルかつバーチャルなラグジュアリーの架け橋となることが重要だ。今季発表した、レジャー(Ledger)社との協業による、暗号資産ハードウェアウォレット(仮想通貨を安全に保管するためのツール)のテックアクセサリーは、その革新的な第一歩である。
ーーZ世代のニーズを汲み取る方法とは?
シルヴィア:「フェンディ」チームのスタッフはとても若く、いつも「私はみんなの母だ」と言っている。彼らからインスピレーションを得ながら、上の世代と何が違うのか、何を望んでいるのかを感じ取ってきた。偏見を持たず、心をオープンにして好奇心を持ち続けていれば、若い世代とつながり、クリエイションにも影響を与えてくれる。
ーーあなた自身も「フェンディ」メンズの洋服を着用している?
シルヴィア:いつもメンズを着ている。母は私の未来を予期していたのか、幼い頃にピンク色のかわいいドレスを着させることはなかった。この社会で生きていくために、男性的に振る舞う強い女性になれるよう準備させてくれたのかも。