座右の銘は「鳴かぬなら 笑わせてみせよう ホトトギス」。ZOZOTOWN立ち上げメンバーで、2月1日から「ファッションチアリーダー」として活動する武藤貴宣氏が、ファッションへの愛と明るい未来について、ゆるく語ります。
(前号から続く)
ZOZOTOWN立ち上げにあたり、大手セレクトにも営業に行きました。ユナイテッドアローズ(以下、UA)は、当時ルミネやアウトレットへの出店もイチ早く決めていて先進的でした。そしてたまたま僕の妻が当時UAで働いていたんです。なんとか創業者の重松(理・現名誉会長)さんに話ができればと、妻を介して、「一度うちの会社を見てもらって、事業を説明させてほしい」とアプローチしました。
当時、UAもECに対してすごく研究していたみたいです。重松さんは妻の話に興味を持ってくれて、千葉のオフィスまで来てくださったんです。僕らのオフィスは、物流倉庫兼オフィスという感じだったのですが、前澤(友作)さんは当時からフェラーリ(FERRARI)が好きで。「フェラーリで一番カッコいいのは、工場だ」「工場がカッコいいから、フェラーリはカッコいいんだ」とよく言っていました。「だから俺らも倉庫までカッコよくしようぜ」と、システム収納「USMハラー」を倉庫棚にしていました。結構、お金をかけていましたね。そこに洋服をしまっては出してを繰り返していました。社長室みたいな小部屋もあって、そこは前澤さんが自分の好きなソファを置いてしゃれた感じにしていました。
多分、重松さんも千葉の小さい会社に来て、こんなにファッショナブルにやってると思わなかったんじゃないでしょうか。若者が10人ぐらい集まって、「倉庫もカッコよく!」みたいなところに新鮮味を覚え、共感してくれたんだと思います。社長室で30分ぐらい雑談した結果、「一度取締役会に出てプレゼンしてよ」と言ってくれました。
プレゼンはめちゃくちゃ準備したんですが、当日は寝坊して、ちょっと遅刻しました。急いでたのでぼろぼろのデニムを履いて、前澤さんと2人で原宿のUA本社に行きました。
まず、「イープローズ」や「ザイゴード」といった僕らの独自セレクトショップと一緒にしてしまうと取り合ってもらえないと思ったので、セレクトショップだけの集合体のモールをネット上に作りませんかという提案に変えました。ZOZOTOWNという名前も決まってないタイミングだったので、サイトの名前は何にしようかと。オフィスのすぐそばにカルフールがあったので「カルフールでいいや」って前澤さんが言い出して、「カルフールだとちょっとやり過ぎだから」と、「カルプール」にしたんです(笑)。本当に「カルプール」というサイトを作って、そこにUAやビームス、シップスなどを並べてモックアップを作りました。内容は真剣ですよ。重松さんは和が好きだと聞いていたから、トップページは日が昇る動画で始まるようにするなどして、気合を入れて作りました。
取締役会の最後のところで、重松さんが「ちょっと提案があるので皆さん聞いてください」と言って、僕らを招き入れてくれたのですが、すごくシリアスな雰囲気の会で、みんなしーんとしてるんです。大きい湯飲みが重松さんの前にあったのを覚えています。
「実は僕らの会社のそばにカルフールっていうフランスのスーパーがありまして」と言っても、誰も何も反応しなくて。だいぶアウェーでしたね。「ふざけてんのか、こいつら」と思った人もいたのかもしれないです。栗野(宏文・現上級顧問)さんだけが最後に質問してくれました。
僕らは、重松さんさえ納得してくれれば何とかなると思っていました。すごく話を聞いてくれていたし、いい感触だから呼んでもらえたことは分かっていたのですが、重松さんはリアクションが分からないんですよね。僕はプレゼンが全然響かなかったと思いましたが、前澤さんは帰りに渋谷西武のお得意様サロンみたいなところに行って1000万円の時計を買っていました。「イケた!」と思ったんですね。
そうして、後日UAの出店が決まりました。(次回は2月7日12時にアップします)
武藤貴宣(むとう・たかのぶ)/ZOZO 執行役員(EC事業本部管掌)PROFILE:1978年2月6日生まれ、岐阜県出身。東京情報大学卒業後、東光オーエーシステムを経て、2002年にスタートトゥデイ(現ZOZO)に入社。04年、ZOZOTOWN立ち上げに携わる。19年5月から現職。2月1日付でファッションチアリーダーに就任。610(=むとう)は昔からのニックネームで、社内でも浸透している。趣味はジャケ買い、お墓参り