「ケンゾー(KENZO)」は、パリ・メンズ・ファッション・ウイーク最終日の1月23日に、Nigo新アーティスティック・ディレクターが初めて手掛ける2022-23年秋冬コレクションを発表した。デビューショーの会場は、パリ2区にあるパッサージュのギャルリー・ヴィヴィエンヌ。1970年に故・髙田賢三氏がブティック「ジャングル・ジャップ(JUNGLE JAP)」を構え、初めてファッションショーを行ったロケーションだ。Nigoの交友関係の広さやその注目度に加え、パンデミックの影響で収容人数が制限されていることを考えると、このロケーションのキャパシティーは小さすぎるかもしれない。しかし、創業者への敬意を込めて、あえてこの場所を選んだようだ。
大物ミュージシャンが集結
実際、用意されたのは150席のみ。ただ、ファレル(Pharrell)やイェ(Ye)、その新たな恋人ジュリア・フォックス(Julia Fox)をはじめ、タイラー・ザ・クリエーター(Tyler, The Creator)、プシャ・T(Pusha T)、ガンナ(Gunna)、J・バルヴィン(J. Balvin)、ドミニク・ファイク (Dominic Fike)、シャイガール(Shygirl)といった親交のある多数のミュージシャンたちがズラリと並ぶ光景は、今季のメンズコレで最も豪華であることは間違いないだろう。
Nigo自身もファレルの隣に座り見届けたショーは、ブランケットのようなチェック生地を用いたロングポンチョからスタート。髙田氏が愛した花々やアーカイブを、ストリートやワークウエア、プレッピーの文脈で解釈し、“リアル・トゥ・ウエア”という新たなブランドのビジョンを示した。ランウエイに登場するものは実生活に結びついているべきであるという信念は、創業者にも通じるものだ。そして、コレクションは、ストリートブランドのように、新作を毎月ドロップするかたちで販売していくという。
込められた故郷へのオマージュ
ショーで特に際立ったのは、やはりメンズやユニセックスなデザインのアイテムだ。ゆったりとしたアノラックには同系色でまとめた大ぶりの花柄を全面にあしらい、真っ白なコートやジャケットには髙田氏のさまざまなスケッチ画のプリントをプラス。バーシティージャケットのフロントにはカレッジフォントのブランド名と創業年があしらい、背面にはチームマスコットのような横顔のトラが吠える。そして、フェアアイルニットやモチーフセーターは、カラフルな色使いでポップに。チェックやカラーブロッキングのウォッシュドウールスーツはタイドアップで提案し、フードにタイガー柄のフェイクファートリムをあしらったミリタリーアウターを合わせることでドレスダウンしている。
また、髙田氏が西洋のワードローブに日本的な要素を持ち込んだように、Nigoのクリエイションにも故郷へのオマージュが見られた。デニムは、ローやヒッコリーからフラワーモチーフを表現したストーンウォッシュまで、すべてメード・イン・ジャパン。焼き物の赤絵から着想を得た手描き柄のアイテムや、作務衣や半纏のようなジャケット、茶道の稽古着を想起させるエプロンもコーディネートに取り入れた。
「エキサイティングな感覚を取り戻したい」
アクセサリーは、オーバーサイズのベレーやキャスケット、動物の編みぐるみのようなマフラーなどキャッチー。バッグは全面にアーカイブのフラワープリントを施したデザインをさまざまな形で打ち出すほか、3WAYで使える大きなミリタリーバッグやより実用的なトート、スーベニアジャケットに見られるような地図モチーフを刺しゅうで描いたショルダーバッグなどをラインアップ。足元はデザートブーツやワークブーツ、サイドゴアブーツなどで、ランウエイにスニーカーが登場しなかったのは意外でもあった。
「ファッションそのものから得られるエキサイティングな感覚を取り戻したい」とショー前に語っていたNigo。自身の強みを生かし、現代の「ケンゾー」への期待に応えるコレクションで、フレッシュなスタートを切った。