ケリング(KERING)は1月24日、傘下のソーウインド グループ(SOWIND GROUP以下、ソーウインド)の保有株式を全て同社の経営陣に売却すると発表した。ソーウインドはスイスの高級時計ブランド「ジラール・ペルゴ(GIRARD-PERREGAUX)」や「ユリス・ナルダン(ULYSSE NARDIN)」などを擁する。売却額などの詳細は明らかにされていないが、2022年上半期中に取り引きが完了する予定だという。
「ジラール・ペルゴ」は1791年、「ユリス・ナルダン」は1846年の創業といずれも長い歴史を持つ。ケリング(旧PPR)は08年に「ジラール・ペルゴ」を擁するソーウインドの少数株主となり、11年に同社の支配株主となった。14年には「ユリス・ナルダン」も傘下に収めた。なお、今回の取引に伴い、同じくソーウインドが保有するスイスの時計ブランド「ジャンリシャール(JEANRICHARD)」や、スイス・ヌーシャテル州にある時計工房などもケリングの手を離れることになる。
「グッチ(GUCCI)」「サンローラン(SAINT LAURENT)」「ボッテガ・ヴェネタ(BOTTEGA VENETA)」「ブシュロン(BOUCHERON)」などを擁するケリングは、これで高級時計専門のブランドを持たないことになるが、「グッチ」や「ブシュロン」では今後もハイエンドの腕時計などを販売する。
ケリングは、「この取り引きは、グループ内で相当規模の資産となる可能性が高いメゾンを優先するという当社の戦略に沿ったものだ。当社は『ジラール・ペルゴ』と『ユリス・ナルダン』の発展を支え、市場でのポジショニングを強化するとともに、成長に必要な資金やリソースを十分に提供してきた。今後は、(ソーウインドの)経営陣がその役割を引き継ぐことで、両ブランドがさらなる成功を収めるものと確信している」とコメントした。
ジラール・ペルゴおよびユリス・ナルダンを率いるパトリック・プルニエ(Patrick Pruniaux)最高経営責任者は、「ケリングの投資やサポートのおかげで、いずれのブランドもしっかりとした事業基盤がある。これを土台に、長期的な成長計画を実行していく」と語った。
米投資銀行バーンスタイン(BERNSTEIN)のルカ・ソルカ(Luca Solca)=シニア・アナリストは、「高級時計市場は全体として回復基調にあるが、もともとケリングのシェアは低く、強力なライバルの多いこの部門では苦戦していた。今後は得意分野に注力できるという意味で、今回の取り引きは同社にとってプラスとなるだろう」と分析した。
ケリングの競合であるラグジュアリー企業の中で、高級時計市場に最も強いのは、「ヴァシュロン・コンスタンタン(VACHERON CONSTANTIN)」「ピアジェ(PIAGET)」「オフィチーネ パネライ(OFFICINE PANERAI)」「IWC」「ジャガー・ルクルト(JAEGER LECOULTRE)」などを擁するコンパニー フィナンシエール リシュモン(COMPAGNIE FINANCIERE RICHEMONT)だろう。実際、スペシャリストウォッチメーカー部門における21年9~12月期の売り上げは前年同期比29%増、コロナ禍以前の19年同期比でも19%増となっている。
同じく競合のLVMHモエ ヘネシー・ルイ ヴィトン(LVMH MOET HENNESSY LOUIS VUITTON)は、数は多くないものの、「タグ・ホイヤー(TAG HEUER)」や「ウブロ(HUBLOT)」といった人気の高級時計ブランドを保有している。