2022年春夏オートクチュール・ファッション・ウイークが、1月24日から27日までパリで開催された。「高級仕立て服」を意味するオートクチュールは、職人やお針子たちが途方もない時間をかけて作り上げる贅を尽くした作品というだけでなく、クリエイティビティーや技術の実験室という役割もある。複数回に分けて、現地取材したショーリポートをお届けする。
初日には、マリア・グラツィア・キウリ(Maria Grazia Chiuri)=アーティスティック・ディレクターが手掛ける「ディオール(DIOR)」が、ショーを開催した。会場は、クチュールショーでいつも使用しているロダン美術館。中庭に建てられた箱型の会場に入ると、カラフルな刺しゅうで制作された色とりどりのアートが目に飛び込んでくる。これはインド人アーティストのマドヴィ・パレク(Madhvi Parekh)とメヌ・パレク(Manu Parekh)による22の作品をベースにしたもので、同メゾンが支援しているインドのチャーナキヤ工房とチャーナキヤ工芸学校の職人たちの刺しゅう技術によって生み出された。先シーズン(21-22年秋冬)のクチュールショーでもマリア・グラツィアは刺しゅう作品で壁面を覆い没入的な空間を作り上げたが、今季も手仕事が生み出すエモーショナルなエネルギーを会場作りに取り入れた。
カラフルな空間に対してコレクションは、エクリュやアイボリー、ベージュ、グレー、黒、優しいシャンパンや鈍く光るシルバーといった落ち着いたカラーと、ピュアでクリーンなシルエットが特徴だ。削ぎ落としたラインへのこだわりは、人間の体をドレスアップするというオートクチュールの本質的な役割へのオマージュだといい、「優美」という言葉が似合う。一見非常にシンプルだが、同系色であしらわれた刺しゅうが立体感や輝きをもたらす。
マリア・グラツィアが今シーズンの鍵として着目したのは、そんな複雑かつ繊細な手仕事。近くで見ると、一着の中でさまざまな技法を織り交ぜていたり、フリンジのようなビーズ刺しゅうをスカートの全面にあしらったり、軽やかさを出すためにチュールの上に刺しゅうを施していたりと、控えめでありながらラグジュアリーを極めていることが分かる。そして、タイツやシューズにもビーズ刺しゅうを施し、ミニマルなウールのスーツや透け感のあるマキシドレスにさりげなく輝きを添えている。