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TOKYO BASE取締役の地位を捨て起業、蚕業(さんぎょう)革命に挑む ネクストニューワールド高嶋耕太郎

 「ステュディオス(STUDIOS)」「ユナイテッド トウキョウ(UNITED TOKYO)」などを運営するTOKYO BASEを、創業者であり社長だった谷正人氏とともに支えた高嶋耕太郎氏が昨年5月に退社し、新会社ネクストニューワールド(NEXT NEW WORLD)を立ち上げた。天然素材を通じたサステナブル社会の実現を掲げ、養蚕業をスタート。D2Cモデルで新製品を発表している。次世代のファッション小売企業として注目されてきたTOKYO BASEの取締役という地位を捨て、なぜ起業したのか。真意を直撃した。

WWDJAPAN(以下、WWD):なぜ起業を?

高嶋耕太郎(以下、高嶋):TOKYO BASEにジョインする前から、いつかは起業したいと思っていました。実はTOKYO BASEにいながら社内ベンチャーとして起業するというアイデアもあったのですが、それもなんか違うな、と。やるなら思い切って単独でやりたいという思いが強かった。ネクストニューワールドには本当に少しだけエンジェル投資も入っていますが、ほぼ自己資金。実は日本とシンガポールで法人を設立していて、資本金は日本が500万円、シンガポールが3000万円という構成です。

WWD:企業理念に“ネイチャーマテリアル”を通じたサステナブル社会の実現を掲げている。その真意は?

高嶋:養蚕の産地であり、シルク織物の産地としても知られている群馬県桐生市で養蚕に取り組んでいます。いま、明らかに既存の資本主義は曲がり角を迎えていますよね。我が身を振り返ってみても発注側はとにかく原価や仕入れを抑え、一方で工場側も低賃金などで苦しむ、そういった悪循環が続いている。加えてアパレル産業は大量生産、大量廃棄のような問題も抱えている。環境に優しい天然原料を、いわばD2Cモデルのような形で無理や無駄を省き普及させられれば、地球にも消費者にも優しい形でビジネスを行える。社名の「ネクストニューワールド」にも、そうした意味を込めました。

WWD:まずは“養蚕”に目をつけた。その理由は?

高嶋:サステナブルを掲げていますが、そもそも起業家目線で見ても蚕って普通にめちゃくちゃ可能性がある。シルク糸の需要は着実に伸びているのに、世界的にもシルク糸の供給量や供給力は年々落ちていて、明らかな需給ギャップがある。加えて蚕自体、単に糸にするだけでなく、化粧品にも使えるし、最近では高タンパク質の食料としても注目を集めるなど、用途も実に幅広い。養蚕自体も、長い歴史を積み重ねていて、文化的にも産業的にも、積み重ねてきたものも大きい。起業後、いろいろな場所や人にあって、蚕の話を聞いたり、見たりしていますが、知れば知るほど、原料としてのポテンシャルの大きさに驚いています。

WWD:にもかかわらず、養蚕業自体は風前の灯火のような状態だが。

高嶋:だからこそ大きな商機がある。起業後、養蚕農家やシルク関連の企業などに話を聞いていますが、一番のハードルは、商品化に至るまでの長い道のり。逆に小売り発のD2Cモデルを構築できれば、やれることはたくさんあると実感している。僕自身はずっと小売りをやっていたので、最終的な製品を企画したり、作ったり、売ったり、そういったことはそう難しくはない。

WWD:具体的には?

高嶋:そもそもシルクってイメージがすごくいい。ラグジュアリーなアイテムを作りやすいので、付加価値を取りやすい。第一弾として昨年12月にクラウドファンディングの「マクアケ」で「ウィズオアウィズアウト(WITH OR WITHOUT)」のブランドで商品化したシルク石鹸は、開始からわずか1時間で目標金額の100万円を達成し、最終的には500万円を売り上げました。石鹸は原料の良さを伝えやすくて、ターゲットも大人から子どもまで、男女を問わず訴求できるという狙いがピッタリとハマった。2月2〜14日には伊勢丹新宿でポップアップストア、2月上旬からは「ビューティ&ユース ユナイテッドアローズ」の3店舗での取り扱いも決まっています。

WWD:うまく行った理由は?

高嶋:1個3000円と石鹸にしては高いけど、シルクという原料の持つパワーが大きい。養蚕という原料まで遡ったからこそ、こうした商品のアイデアも生まれた。これが仮に、「シルク糸」にとどまっていたら、やはりこういったアイデアは生まれなかったと思う。水面下ではフードの商品化も進めていて、こちらもかなりの手応えがある。昆虫食というカテゴリー自体、高タンパク質原料という面で注目されていて、コオロギなども注目されているけど、ここでも蚕のポテンシャルは大きい。そもそも養殖する上で蚕を超える生産性を上げられる昆虫はない上、コオロギなどのわかりやすい昆虫よりも、蚕のほうがブランディングもしやすい。ある食料用の蚕の加工工場に行ったときに驚いたのは、その訪問者リスト。田舎の山奥の工場に、トヨタを筆頭に一流企業が毎日のように訪れている。

WWD:アパレルは?

高嶋:コスメ、フードもやってみて思ったけど、アパレルが一番難しい。一般的にシルク糸で使う長繊維ではなくて、実は繭や綿(ワタ)から糸を作る短繊維用の紡績工場は日本にないと言われていたが、なんとか探し出して糸にして、パーカーやTシャツを作った。ただ、D2Cモデルで作ったとしても普通にパーカーで5万〜6万円、Tシャツでも2万円近くになる。さすがにこの価格帯のアイテムを売るのは難易度が高い。もう少しビジネスプランを練らないとなあ、と。

WWD:毎日楽しそうですね。

高嶋:シンガポールに法人を作っていることもあり、商品化は常に日本発アジア、あるいはグローバルというコンセプトがあるけど、驚きと発見の毎日で、どんどんアイデアが湧き出してくる。楽しいですよ。

WWD:とはいえ、優良企業の取締役という地位を捨て起業した。実際にどうか?

高嶋:いやー、それはめちゃくちゃ大変です。ありとあらゆることを、全部自分でやらなきゃいけない。前は指示を出せば、部下がやってくれたり、形にしてくれた。あと一番堪えるのは、支払いです。自分ではかなりハートは強い方だと思っていたけど、家賃や経費の引き落としの日は本当に落ち込みます。5歳と3歳の子どもを抱えて、俺何やってんだろう、大丈夫なのかと不安になります。雇われていたときには感じなかった、毎日ヒリヒリする緊張感がありますね。

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