ファッション

メルローズ武内社長に聞く 「私がNEXT LEADER世代だったころ」vol.4

 「WWDJAPAN」はルミネと共に、ファッション&ビューティ業界の次世代を応援するプロジェクト「MOVE ON」を開始した。「WWDJAPAN」が2017年に立ち上げ、業界の未来を担う人材を讃えてきた企画「NEXT LEADER」も、今年は「MOVE ON」の中で実施する。受賞者は「WWDJAPAN」2月14日号で発表すると共に、3月2日に開催する「Next Generations Forum」にも登壇いただく予定だ。「MOVE ON」企画の一環として、業界の有力企業の経営者に、自身がNEXT LEADER世代(20〜30代)だったころを連載形式で振り返ってもらった。第4回は、「マルティニーク(MARTINIQUE)」や「コンバース トウキョウ(CONVERSE TOKYO)」「サードマガジン(THIRD MAGAZINE)」などを手掛ける、メルローズの武内一志社長に話を聞いた。

WWD:自身がネクストリーダー世代だったころは、どのように仕事をしていた?

武内一志メルローズ社長(以下、武内):20〜30代前半は、ビギでメンズブランドのデザイナーをしていた。当時はDCブランドブームの全盛期で、デザイナーを志す人はDCブランドで腕を磨いてディレクターやチーフデザイナーになるというのが主流だった。僕もご多分に漏れず、DCの部署で力をつけようと思っていた。1992 年にメルローズに移ったのは、当時のメルローズの社長に「手伝ってほしい」と頼まれたのがきっかけ。あのころはDCブランドに陰りが出始めていて、非常に苦しい時代だった。DCの後にインポートブランド、セレクトショップと次々と新しい潮流が出てきて、僕自身も迷い子になっていた。

WWD:苦しい時代にはどのようなことを考えていたのか。

武内:前職で手掛けていたブランドも退店を余儀なくされる中で、「なぜDCブランドが下火になったのか?」と分析すると、成功例にならって同じことを繰り返してきたことが、結果的に消費者に飽きられてしまっていたのだと気づいた。メルローズに入ってからは、僕はここで何をすべきか、しばらく思い悩んだ記憶がある。悩んだ結果たどり着いたのが、自分がやりたいと思うものをやるべきだということ。それで、時代の空気を捉えながらも、自分の想像力をかき立ててくれるモノを詰め込んだものを作ろうと思い、誕生したのが「マルティニーク」だった。

WWD:ビギ時代はデザイナーだったが、メルローズでは徐々に仕事の領域も広がっていった。

武内:仕事は「何でもやる!」という意気込みで、好き嫌いに関係なく、全てを取り込んでやろうと挑んでいた。ビギ時代はデザイナー職に注力していたが、メルローズでは、モノ作りから売り上げの責任、店作り、ショップスタッフの装いまで全てを指揮した。次第に、トータルで考えることこそクリエイティブな作業で、これがなければブランドの世界観はお客さまに伝わらないという考えに変わっていった。世の中に向けて「ワクワクやドキドキを作り出したい」という気持ちを原動力にして、毎日気がついたら夜遅くまで働き続けていた。今は時代が違うのでそうした働き方がいいとは思わないが、当時さまざまなことを把握するには、必然的にこのくらいの時間が必要だった。

WWD:そのように情熱を持って打ち込めるモノが、そもそも何なのか分からないという若者も今は少なくない。

武内:まず、自分のやりたいことを見つけることは重要だ。僕の場合は、古い映画をたくさん観て育ち、銀幕の海外スターの洋服に憧れを持っていた。学生時代は、原宿の希少なビンテージを扱う古着店でアルバイトをしていたし、旅行や出張でパリやロンドンに行くと蚤の市に足を運んでいた。古いものがすごく好きで、自分のデザインにもそのルーツを感じる。時代を超えてすばらしいものを見つけては、インスピレーションとして溜め込んで、これらをどう表現したら今の時代に通用するかを常に考えていた。

WWD:今のようなキャリアパスは、当時想像していた?

武内:全く想像できていなかった。どちらかというと「自分は将来どうなるんだろうか」「果たして、この仕事で食べていくことができるんだろうか」という不安があった。そんなふうに思い悩んでいたから、あのころには戻りたくない(笑)。プライベートで経験したことを仕事に生かすことももちろんできるが、その一方で、仕事での重いプレッシャーを越えた先に、初めて見える景色もある。ふもとから頂上(ゴール)へと、いきなり挑戦するのは大変だ。振り返ってみると僕のキャリアも、「マルティニーク」の立ち上げや、メインの販路を百貨店からファッションビルに切り替えたことなど、その時々で中間地点のような目標があって、それを目指して一歩ずつ進んできた。それが少しずつ自信につながっていったように思う。

チーム力を引き出す鍵は、
各部署の「つなぎ目」

WWD:チームをマネジメントする上で、大切にしていることは?

武内:ブランドであれば、モノ作りを通して、その考え方やテーマをどう消費者へと届けるかが鍵になる。その核となるのが各部署の「つなぎ目」の部分だ。苦しんでいるブランドはセクショナリズムになりがちで、それぞれ頑張っているのに、エネルギーが分散して的に当たらない。コミュニケーション不足のズレは、店にもお客さまにも伝わってしまう。「目標を達成するために何をすべきか」を共有し、目詰まりがないように働きかけることはかなり経験を積んできたし、今も勉強させてもらっている。

WWD:採用活動などを通し、社内外の若い世代と接する中で感じることは何か。

武内:そつなく受け答えできる人が増えている印象がある。マニュアルでもあるのかな、と感じる程だ。われわれの仕事は、AさんでもBさんでもなく「あなただから任せたい」と思わせるような、個性や特技を持っていることが大切だ。輝いているがゆえに(何かが欠けていて)アンバランスな人もいるが、それでもいい。(満遍なく全てができる人ももちろんすばらしいが)何か光るモノを感じる子が、この業界には必要だと思う。

WWD:若い世代にメッセージを。

武内:主体的に情熱を注げることを見つけて、挑戦できる場所を探すことが重要だ。好きなことで成功すれば、人よりももっともっと深く考えることができる。僕自身も、困ったときに立ち返ることができる原点を持っていることに、今も助けられている。「服」という時代と共に呼吸をする仕事の中では、過去の成功に捉われずに、人々の琴線に触れるような、変化をいとわない成長が求められる。それを常に忘れないでほしい。

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TEXT:ANRI MURAKAMI