1月に行われたメンズとオートクチュール・ファッション・ウイークで多くの日本ブランドが現地発表を断念する中、「ユイマ ナカザト(YUIMA NAKAZATO)」は唯一、パリでショーを決行した。昨シーズンは横浜港の大さん橋ホールで開いたショー映像をデジタルで配信したが、現地でのショーは2年ぶりとなる。会場は、ルーヴル美術館の近くにある古い教会。静けさの中に少し耳を刺すようおな高音が響き、赤い光と煙に包まれて真っ白な2人のコンテンポラリーダンサーが登場すると、ショーがスタートした。
今季のテーマは、「境目」を意味する「リミナル(LIMINAL)」だ。中里唯馬デザイナーが「科学や先人の知恵によって、ますます可視化されつつある」と考える、男性と女性、現実とファンタジー、西洋と東洋といったものの中間にある曖昧な領域に着目し、そこにある希望や可能性を探求した。モデルの髪は紫や赤、青などに染まり、耳はアクセサリーによってエルフのように尖っている。その姿は、異世界の住人か、はたまたRPGゲームの登場キャラクターかといった雰囲気で、ジェンダーを越えた美しさを感じる。
そんなモデルたちがまとうコレクションは、全体的にいつもよりリアリティーに富んでいる。序盤は、着物をほうふつとさせる直線的なラインが特徴的なコートやジャケット、トップス、ドレス、ワイドパンツなどを重ねたスタイル。深いVラインの胸元は紐でランダムに編み上げられ、袖下にはスリットが入り風に揺れる。一方、中盤からは長方形のパターンに何本も通したドローコードを引っ張ることで、体のラインに添わせたり、立体感を生んだりしたドレスが目を引く。これは、どのように布を折り畳めば美しく仕上がるかをコンピュータでシミュレーションしながら制作したものだという。アイテムを彩るのは、中里デザイナー自身が描いた極楽鳥や楽園に咲く花を想起させるようなカラフルなプリントや刺しゅう。先シーズン披露したレザーピースに針と糸を使わずに衣服を形成する手法"タイプ-1(TYPE-1)"を応用したデザインは今季、細身のパンツなどで提案した。
ショー後、中里デザイナーは、「2年間パリに来ることも難しく、デジタルで発表を続けてきたが、なかなか伝えきれないもどかしさを感じていた。東京にいてもパリコレで発表できるという新たな選択肢も増えたものの、前回(昨年7月)の発表を終えた後に募ったのは“次は必ずパリでやりたい”という想い。実はギリギリまで悩んだが、この2年の知識や経験からリスクを回避しながらも実現する方法を見つけられると考え、覚悟を決めた」と、渡仏してのショーまでの道のりを振り返った。もちろん、このような状況下での準備は通常よりエネルギーを費やす部分も多かったという。「それでも、今回は直接見ていただきたいという願いが叶って良かった」。そう語り、安堵の笑みを浮かべた。
2022年春夏オートクチュール・ファッション・ウイークが、1月24日から27日まで開催された。オートクチュールとは「高級仕立て服」のこと。職人たちが何百時間もかけて作り上げる贅を極めた作品が披露されるだけでなく、クリエイティビティーの実験ラボという側面もある。複数回に分けて、キーブランドの現地リポートをお届けする。