ファッション

ルイ・ヴィトン会長兼CEOが故ヴァージル・アブローについて語る 後任は「時間をかけて探す」

 「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」は2022-23年秋冬パリ・メンズ・コレクション期間中に、昨年11月にがんのために死去したメンズ・アーティスティック・ディレクターのヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)による最後のコレクションを発表した。2回に分けてショーを開催し、2018年の華々しいデビューから最後のコレクションまで、彼がメゾンで残した功績を讃えるものとなった。彼の最後のショーに先駆け、マイケル・バーク(Michael Burke)=ルイ・ヴィトン会長兼最高経営責任者(CEO)が米「WWD」のインタビューに答えた。故ヴァージルに寄せた思いや、今後の後任探しについて語った。

 パリコレ期間中もさまざまな噂が飛び交っていた後任探しについては、「急いでいない。きちんと時間をかけて探す必要がある」と強調した。また「ルイ・ヴィトン」のような大きいメゾンとなると、「一人の人物にビジネス全てを委ねていない」ため、しばらくはデザイナー不在でも問題ないという。

 「ルイ・ヴィトン」が業界を率いるメゾンの一つであることを考えると、「サカイ(SACAI)」の阿部千登勢デザイナーや「ロエベ(LOEWE)」のジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)=クリエイティブ・ディレクターといった名の知れたデザイナーから、グレース・ウェールズ・ボナー(Grace Wales Bonner)やサミュエル・ロス(Samuel Ross)といった若手デザイナーまで、後任の可能性は多岐にわたる。後任の候補について「可能性は無限にある。地域、性別や性的指向、年齢などの制限はない」と話す。

 「ルイ・ヴィトン」の親会社であるLVMHモエ ヘネシー・ルイ ヴィトン(LVMH MOET HENNESSY LOUIS VUITTON以下、LVMH)はブランド別での売り上げを開示していないが、大手金融機関のHSBCが最近発表したリポートでは、同ブランドの21年度の売り上げを167億ユーロ(約2兆1376億円)と推定している。後任のデザイナーは、この巨大なブランドのメンズビジネスを率いることとなる。バーク会長兼CEOは、「30歳ながらも60代並みの落ち着いた性格の人もいるだろうし、実際の年齢ではなく、精神年齢を見る必要がある」と言う。また必須条件として「クラフトを理解し、素材を見極める力を持ち、グラフィックやデザインのセンスがあること。そして言うまでもないがプロダクトのセンスも問われる。消費者を理解するスキルも必要だ。実際ヴァージルは毎日のように店頭にいたからね」と続ける。女性がメンズ・コレクションのデザインを率いる可能性について聞かれると「ジェンダーで決める時代は終わった」と答えた。

 バーク会長兼CEOはインタビュー中、メゾンの歴史と職人を讃える本『ルイ・ヴィトン マニファクチャーズ(Louis Vuitton Manufactures)』を取り出した。1888年に撮影したとみられる、創業一族のルイ(Louis)やジョルジュ(Georges)、ガストン(Gaston)と当時の従業員の写真、そして2020年に撮影したベルナール・アルノー(Bernard Arnault)LVMH会長兼CEOをはじめとする現在の経営陣と従業員の写真を指しながら、「新しいデザイナーは、メゾンの現在だけでなく、過去の歴史をリスペクトしながらクリエションをする必要がある。かなり大きなプレッシャーと責任だ」と話す。「われわれはウオッチやジュエリー、ハンドバッグといった製品からレザーなどの素材まで、全て自分たちで作っている。それはときにチャレンジングなことだが、ヴァージルに次ぐデザイナーはそうしたチャレンジにも前向きでありつつ、メゾンの価値観や、そこで働く人々の情熱や仕事に敬意を抱いていなければならない」。

 黒人のストリートウエアデザイナーだったヴァージルがラグジュアリーメゾンの「ルイ・ヴィトン」のデザイナーに就任した当時、業界に衝撃が走った。彼はそもそも自らをファッションデザイナーと捉えていなかった上、ラグジュアリー業界のダイバーシティを促す存在でもあった。「彼は典型的なクチュリエではなかったが、ファッション業界で10年におよぶ経験を持っていた。業界の既成概念やルールをいろいろと覆してきたが、同時に業界をリスペクトしていた」。新しいデザイナーも、既存の枠にとらわれない人を起用する可能性は大いにあるという。「しかし、これまでメゾンを築き上げてきた前任のデザイナーたちや彼らの功績を讃えられる人物であることが重要だ。『ルイ・ヴィトン』で働く人たちは皆大きなプライドを持って仕事をしており、世界で最も忠誠心の強い、情熱的な職人たちだ」と指摘する。

 なお後任が決まるまで、コラボレーションの可能性も否定しなかった。「(『シュプリーム(SUPREME)』をはじめ)過去にも何度かコラボレーションで成功を収めたことがある。しかし長期的な戦略ではない」。

 後任を選定するのはこれからの話だが、一つバーク会長兼CEOのビジョンで明らかなのは、いわゆる昔ながらの典型的なデザイナーにはあまり目が向いていないことだ。ヴァージルが亡くなったことを受けて、多くの顧客から悲しみの声が寄せられたという。「顧客はみんな、何かしらヴァージルとの思い出があるようだ。彼はとてもオープンで親しみやすく、正直な人だった。謎に包まれ、近寄り難いとされるこれまでの典型的なデザイナーの時代は終わった」。

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