旭化成アドバンスは、環境配慮型新素材「エコセンサー」の訴求に本腰を入れる。2019年11月に立ち上げた同素材は、機能性とサステナビリティを兼ね備えたファブリックの総称だ。旭化成グループは、 サステナビリティといった言葉が広まるずっと前から環境に配慮した数々の素材を展開してきた。旭化成アドバンスは「エコセンサー」を展開することで、サステナビリティへの企業姿勢を明確にする。
スポーツからファッションまで
幅広く
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「エコセンサー」の名前を冠する素材には厳格な定義がある。
第一に原料ではサステナブルな糸を100%使用すること。繊維くず、古着、端切れ、ペットボトルなどから作ったリサイクル糸、綿花の種の産毛を原料にしたキュプラ 、オーガニックコットンなどが相当する。旭化成グループは、1970年にポリエステルのケミカルリサイクルシステムを稼働させたのを手始めに、2001年からはリサイクルポリエステル糸、10年からはリサイクルナイロン糸の織物販売に乗り出した。またキュプラのブランドで90年の歴史を持つ「ベンベルグ」は滑らかな肌触りで知られているが、生産工程でも環境負荷が少なく、生分解性にも優れている。半世紀以上も展開するプレミアムストレッチファイバー「ロイカ」でも、リサイクル糸や分解性の高い素材が広がりをみせている。
第二に加工場はグローバル基準の認定工場に限定する。繊維業界の環境、労働、安全など対し、持続可能なサプライチェーンであるかを見極める「ブルーサイン」、あるいは「エコテックス スタンダード100」という厳しい国際認証を受けた加工場でしか作らない。
つまり原糸から染色加工に至るまで、トレーサビリティー(生産履歴)が完全に担保された素材だけしか「エコセンサー」は名乗れないのだ。厳格な基準を設けた背 景には、市場での環境意識の高まりがあった。旭化成アドバンスの後藤深太郎部長は「特に欧州のファッション企業からは『サステナブルな素材以外はいらない』という声さえ聞こえる。当社が長年培ってきた環境負荷の少ない素材を、もっと分かりやすく、信頼できる形で届ける必要があると判断した」と説明する。
単にサステナブルをうたうだけでは、ファッション市場では戦えない。持続可能を前提にしながら、風合いや美しさなど着る人の感性に訴え、かつ機能面でも満足させる。その両立が選ばれるポイントであり、素材メーカーの腕の見せどころでもある。例えば、ファッションブランドからの要望が多いリサイクル素材。ポリエステルのリサイクル原料は通常のバージン原料に比べて、そのまま作れば物性や光沢などに微妙な差が生じてしまう。だが同社にはリサイクル原料でも同等の品質を作り出す技術力がある。リサイクル素材における20年以上の経験の賜物だ。今後はさらなる技術革新で、バージン原料以上の品質を目指す。
同社の取り組みはすでに海外で評価され始めている。世界最大のスポーツ用品見本市「ISPO」(独ミュンヘン)では、優秀な商品や素材に与えられる「ISPOアウォード」を「エコセンサー」の22-23年秋冬向け素材が受賞した。グローバル市場での認知に弾みがつきそうだ。
「エコセンサー」の特徴とは?
「エコセンサー」のブランドが付いた素材は、「サステナブル性」に加え、分野やアイテムに応じた「機能性」を有している。厳しいグローバル認証制度や、旭化成グループの品質基準をクリアした素材だけにつけられる。高い機能性が求められるスポーツブランドから感性に訴えるファッションブランド、アイテムでいえばインナーからアウターまで幅広い用途に対応する。
仕掛け人に聞く
「エコセンサー」が目指す
未来の姿
WWD:「エコセンサー」導入の狙いは?
後藤深太郎部長(以下、後藤):世界中で環境問題への関心が高まり、ファッション市場においてもサステナブルな素材が強く求められるようになった。「エコセンサー」はアパレル企業が企業姿勢を明確に表現する手段でもある。SDGsを意識する消費者に、服の素材を通じて地球環境問題を考えるきっかけを提供したい。
WWD:アパレル企業からの反応は?
後藤:「エコセンサー」の展示会を2回開催した。インナーからアウターに至るまで多くの取引先が集まり、改めて注目の高さを感じた。欧米が先行していたが、日本でもニーズは確実に強まる。特に自然との共生を理念にするアウトドアブランドは「エコセンサー」に共鳴してくれている。ウェブ上にもバーチャールショールームを開設した。ただ消費者への認知はまだ緒についたばかりだ。訴求活動を強化していく。
WWD:「エコセンサー」が目指す繊維ファッション業界の姿は?
後藤:大きなビジョンとしては、すべての人がサステナブルな暮らしを当たり前に送る世界を実現したい。課題は多いものの、われわれの技術で着実にステップを踏んでいく。当社の繊維事業部の生地の多くは日本で作られる。糸加工、製織、編み立て、染色加工など複数の企業や関係者がリレーして生地を完成させる。それぞれの工程において、品質と感性に優れたサステナブル素材を作り上げることは難易度が高く、緻密な技術を持つ繊維産業には高い競争力がある。「エコセンサー」の普及を通じて、国内繊維産業の持続可能性に貢献したいと思う。
環境に配慮した
高機能ファブリック
「エコセンサー」とは?
旭化成アドバンス スポーツ・ユニフォーム事業部
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