好敵手でもある伊勢丹新宿本店と阪急うめだ本店のほか、セレクトショップまで参画したサステナブルなアクションが3月23日に本格スタートする。三越伊勢丹と阪急阪神百貨店、岩田屋三越、エスティーカンパニー、ファッションコアミッドウエスト、そして佐藤繊維の6社による「デニム de ミライ」の発起人は、伊勢丹新宿本店「リ・スタイル」の神谷将太バイヤーだ。三越伊勢丹、中でも伊勢丹新宿本店と言えば「ONLY I」に象徴される“エクスクルーシブ”でプライドと情熱を表現してきたが、神谷バイヤーは他社さえ巻き込んだ「ファッション業界のコンソーシアム(互いに力を合わせて目的に達しようとする組織や人の集団)を作りたい」という。そのビジョンとは?
WWDJAPAN(以下、WWD):「デニム de ミライ」の経緯は?
神谷将太「リ・スタイル」バイヤー(以下、神谷):コロナ禍で時間的な余裕が少し生まれたとき、引き取り手が見つからなかった「リーバイス(LEVI’S)」501のデニム20tを検品・補修、洗い続けているヤマサワプレス(東京都足立区)を訪れた。20tのデニムの山に圧倒され、なんとかしたいと思い、その場で(誰とも話をしていないのに)「ほかの店舗やブランドと一緒に、アクションを起こします」と伝えた。常々、「自主編集ショップの概念を変えて、新しいミライを作りたい」と思っていた。さまざまな想いを繋げ、新しいサイクルを生み出す。三越伊勢丹が、そのサイクルの中心に存在できれば。「インクルーシブなつながり」と「独自性の創出」が両輪となれば、持続可能性のある関係性を構築しながら、それぞれらしく高揚感も提案できる。さまざまな商品を取り揃える百貨店らしく、仲間を増やし、そこで生まれる掛け算が発信できれば、業界を超えたメッセージにつながる。「他人の企画には乗っからない」という業界の風土を払拭したい。
WWD:社内も、社外も、説得は大変ではなかったのか?
神谷:グループ店の岩田屋を除き、阪急と地方のセレクトには直接赴いた。長らくファッション業界にいるから、「壁を超えるのは大変」だと分かっていた。でも、「オワコン」と呼ばれるビジネスだからこそ、その壁を取っ払いたかった。自分たちも含め、どのショップもコロナでうまくいっていない。だからこそ足を運び、ゆっくり話して、「良いニュースを発信しよう」と伝え、共感していただいた。競合他社との取り組みは前例も少なく、社内の巻き込みには苦労した。社内にだって垣根はあったし、これまで他のバイヤーの企画には乗りづらい雰囲気もあった。でも、同年代(30代中盤)のバイヤーが増え、「デニム de ミライ」は自然発生的に広げられるようになっていた。皆、「このままでは、業界全体が廃れてしまう」と常々考えているからこそ、社内も社外も一丸となれた。意義を共有する過程は、苦労したけれど、楽しかった。
WWD:結果、「デニム de ミライ」プロジェクトは、50以上のブランドから集まった150型以上のビンテージデニムのアップサイクルを6つの店舗がそれぞれ選び販売する。
神谷:「リーバイス」にも正式な承認をいただき、デザイナーの卵とも協業する。ただ、販売する商品とメッセージの伝え方は独自でいい。各社の現状は異なっている。強いところを伸ばすのが、業界全体の底上げと、各社の利益や価値づくりの双方への貢献だろう。地方セレクトとの協業には、発見も多かった。地方のセレクトは、買い付けの段階でお客さまの顔が浮かぶ。精度が違った。
WWD:これからの夢は?
神谷:高いレベルのディレクションや場の確保、ブランディング、百貨のコラボレーションなど、三越伊勢丹と協業する理由は色々提案できると思うが、コンソーシアムは、三越伊勢丹だけがリーダーじゃなくても良い。ファッション業界に存在する大きな社会課題に対して、誰かが出会ったリソースをできるだけ多くの人たちで受け止め、向き合い、解決に向けて行動したい。