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中国出身、32歳の若きトップが米「ダイアン フォン ファステンバーグ」に新風を吹き込む【ネクストリーダー2022】

 31歳だったギャビー・ヒラタ氏が、ダイアン フォン ファステンバーグ(DIANE VON FURSTENBERG以下、DVF)の社長兼最高経営責任者(CEO)に抜擢されたのは、入社して一年たった2021年1月のこと。異例の若さでトップに就き、以降、女性のエンパワーメントを掲げてきたブランドをけん引する。未だファッション&ビューティ業界のトップを占めるのは男性が多く、欧米ではアジアにルーツを持つ女性のトップはさらに目にすることが少ない。その中で社員の多様な声に耳を傾けながら、ブランドの事業を見直し、女性に寄り添うことをモットーとするヒラタ社長の歩みを讃え、その実績とこれからの活躍に期待を込めて「WWD NEXT LEADERS 2022」に選んだ。

WWDJAPAN(以下、WWD):トップに就くまでの経緯は?

ギャビー・ヒラタDVF社長兼CEO(以下、ヒラタ社長):DVFには20年1月、新型コロナウイルスの感染拡大が始まった当初にアジア太平洋地域担当として入社した。当時の中国・武漢での状況を知り、中国を支援するためにチャリティー企画を提案。ブランド創業者のダイアンとともにライブ配信を行い、現地の小学校への寄付につなげた。アメリカでもロックダウンが始まったときは、人員削減に伴い北京に工場や生産拠点を移すべきだと提案した。デザイン本部は約100人から30人に縮小してニューヨークに残し、生産チームを別に設けたことでコストパフォーマンスの向上や、品質の確保につながった。こういった取り組みがダイアンの目に留まったことがきっかけとなった。

WWD:現在のパフォーマンスは?

ヒラタ社長:経営目標は達成し、27〜30歳の新たな顧客層にもリーチを広げている。また(EC構築サービスの)「ショッピファイ(SHOPIFY)」を通じて、公式ウェブサイトをリローンチした。これによりグローバルにお客さまの傾向やプロファイルが分析可能となり、より具体的にデザインに落とし込めるようになってきた手応えがある。北京の生産チームの設立などを通して、中国市場での存在感を増したい。

WWD:トップに就任することを知ったときの気持ちは?

ヒラタ社長:最初は本当に怖かったし、私がなっていいものだと思えなかった。当時の日記を読み返してみると、不安がる言葉ばかりが並んでいる。だって私が思い浮かべることができるリーダーの姿は、白人の男性で、アメリカ出身の人で、私より年配で、経験をたくさん持っている人ばかり。想像もつかないことで、「私は31歳だし、第一言語も英語じゃないし、中国人だし、女性だし、本当に務まるのか……?」と、ダイアンにも不安な気持ちを話した。ダイアンは笑い飛ばして、「だからこそあなたがトップになることに意味がある」と背中を押してくれた。

WWD:そもそもリーダーになりたかった?

ヒラタ社長:中国では一人っ子の場合、女子より男子が好まれる傾向があり、子どもの頃にその現実を知ったときにすごく落ち込んだ。そこで幼い頃から「絶対見返してみせる」との決意を持っていた。でもアクティビストとして活動するのも中国では色々な制約があるし、教授になってジェンダー学を深めるにしても学術的場所に限定された活動になる気がして、17歳の時にビジネスのトップになることを目標に。トップについたら「変化を生めるし、人々の夢を実現できる。インスピレーションにもなれる」と。世の中は男性のリーダーが多数を占めるので、女性の“ボス”になってやる!という気持ちだった。

WWD:なぜファッションに?

ヒラタ社長:ファッションは、ビジネスとアートの真ん中に位置しているように思う。「アート」的に見た目だけを追求してしまって機能性を置き去りにするのはファッションとは言えないが、夢やワクワク、“マジック”を与えるのもファッションのはず。「ビジネス」と言い切るのも難しいだろう。複合的に社会に交わるファッションに共感した。

WWD:自分はどんなリーダーだと思う?

ヒラタ社長:「バランス力のある」リーダーかな……。直感的なところと戦略的な側面、共感性と厳しさ、KPIと働いている人の幸せ、などのバランスをとっていく人だと思う。アメリカと中国をまたいで活動してきたので、間を取っていくアプローチが得意。これまではトップの人は「強くあれ」と教え込まれてきたが、私は繊細だし、自分の弱い部分を見せることを怖いと思わない。仲間たちもそれを心地よいと感じていると思う。チームと話すとき、「トップとしてじゃなくて、人間として私と話をして!」「一回建前は置いておいて、“普通に”話そう?」と言ったりして、等身大でいるようにしている。そんな私を見て、「私にもできる!」「私もやりたい!」と思うみたい。チームとして成長しているのを肌で感じている。リーダーとして自分のゴールを追うだけでなく、チームのみんなも幸せであることは私にとってとても大事なこと。

WWD:自分の強みは?

ヒラタ社長:外国から来た私がアメリカやこの業界で成功するには、いかに「自覚的」になって自分の立ち位置を受け止めるかが大事だと思っている。自分の人種やバックグラウンドに自信を持てなかったこともあるけれど、ダイアンには「あなたの不安や自信のなさは、あなたの強みになる」と教えをもらった。今は子どもがいるけれど「仕事と育児を両立している」と美談にするつもりはなくて。マザーフッド(母であることや母性)を美化することもしたくない。子どもを持って育てることで「これで母親という当事者として発言できる」と自覚的だったし、「まずはある程度仕事で成功をしてから」と決めていた。このように淡々と子育てについて語ると、「愛情が足りていない」「母親失格」と判断されてしまうような風潮をたまに感じるが、自分のしたいことやゴール、できることに“アウェア”でいることは、物事を進めていく上ですごく大切だと思う。率直に対話ができることも私を形成する大きな部分だ。

WWD:生活者とはどうコミュニケーションをとっている?

ヒラタ社長:歴史の長い企業や、伝統のあるブランドは「お客さまに向けて」コミュニケーションを取ることに集中しすぎているような気がする。私はもっと「お客さまと」コミュニケーションをとっていきたい。配信もいっぱいしたいし、お客さまから寄せられたコメントに返信もしていきたい。一時期は、毎週欠かさず時間を作って、SNSのコメントを返したりもした。お客さまからは「DVFのトップが返信してる!」と驚かれたけれど、逆になんで普通はしないと思われているのか不思議な感覚だ。ブラントとしては、私たちは「一着のドレスに止まらず、着た人の自信や喜び、それらが生む“マジック”を提供している」との自負がある。理念に沿うメッセージを届けるために月に一回、生活者の中から多様な女性像にSNSでフォーカスする「DVF WOMEN」キャンペーンを打ち出してきた。発足当時からミッションは、ファッションの美しさに加えて実際に着る女性を優先すること。着ている女性の着心地や自信、魅力を感じることに重きを置いた洋服を作り、メッセージを届けている。

WWD:これからの戦略は?

ヒラタ社長:日本と韓国に再進出したいと考えている。2010年ごろの市場は大きかった、その後日本とのつながりが薄れてしまった。製品の質やデザインも大きくアップデートして、素晴らしいものをそろえていると胸を張っていえるし、日本と韓国市場にも愛される自信がある。中東やオーストラリアへの進出も考えている。あとは、キッズウエア、インテリアの分野の開拓。母親になって子ども服に着目するようになり、充実した家具製品への需要も感じている。どのように製品にしていくかはこれから詰めるが、地域に合わせた最適な戦略を掲げたい。

WWD:自身のゴールは?

ヒラタ社長:ブランドを通して、女性をエンパワーする取り組みを継続して実施・発信する。私にはライブ配信や中国市場とのつながりが転機になったから、それ以来、年に2回は配信を継続している。一度の配信やキャンペーンでは生活者の心は掴めないし、即席なアプローチは見抜かれてしまう。ダイアンは90年代、今以上にデザインの中心に男性が多かった頃、「女性にデザインがわかるわけないだろう」と周りから揶揄されていたという。そこからブランドを築いたダイアンに共感するし、自分も誰かのインスピレーションとなり続けたい。商品を販売するだけでなく、私含む女性たちのストーリーを積極的に広め、周りを巻き込んだ大きなムーブメントを起こしていきたい。


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