中国のメンズウエアブランド「K-ボクシング(劲霸男装、K-BOXING)」を手掛けるホン・ボーミン(洪伯明、Hong Boming)最高経営責任者(CEO)兼クリエイティブ・ディレクターはトレードマークの“中国製のジャケット”を武器に、ブランドの成長をけん引する。42年続く家族経営ブランドを引き継いだ“3代目”として、「メイド・イン・チャイナ」への誇りを貫き、国内での存在感を増している。カーボンフットプリント(CO2e・温室効果ガス)を算出できるQRを導入するなど、サステナビリティを意識した新しいジャケット開発にも取り組み、事業拡大を目指す。中国およびアジア発のファッションをどのように見据え、どうブランドを導いていくのか。
WWDJAPAN(以下、WWD):ファッション事業を継ぐまでの経緯は?
ホン・ボーミンCEO兼クリエイティブ・ディレクター(以下、ボーミンCEO):中国の四字熟語に、水到渠成(すいとうきょせい)という言葉がある。「然るべき物事は、自然とうまい具合に進行する」「流れに任せてしまえばよい」といった意味を持つが、まさに自分の境遇を言い表す言葉だと思う。“3代目”として生まれて幼い頃からファッションに触れるにつれて、家族や会社に対する責任感が育ち、自然と「K-ボクシング」に参加したいと思うようになっていった。大学では工業デザインを専攻し、副専攻でファッションデザインを学んだ。製品開発や人事、テクノロジーなどの方面で知識とビジネスのノウハウを身につけ、ファッションビジネスの基礎を築いた。入社したのは、2017年。家のルールに従って、見習いとしてスタートした。その後19年にCEO兼クリエイティブ・ディレクターに就任した。
WWD:歴史あるブランドをどう導く?
ボーミンCEO:継承は起業活動で、相続はイノベーションだ。“3代目”として会社を存続させるためには、起業家精神の養成と人一倍の努力が必要。業界で活躍を続けるブランドであるために、商品設計からクリエイティブまで、新鮮でインターナショナルな視点を加えていきたい。急速に成長する中国市場や消費者の購買動向の変化、メディアの発達によるコミュニケーション方法の進化を受けて、会社も大きな転換期を迎えると感じていたので、自分なら貢献できると思った。経営戦略や体制の在り方、マネジメントなど、3代目であるからこそ見えてくる課題を意識して、進化を続けたい。これまでのヘリテージを大切にしながら、時流をつかんでいくことは大切だ。
WWD:これまでのキャリアで苦労したことは?
ボーミンCEO:私のバックグランドは挑戦の機会をたくさんくれたが、プレッシャーでもあった。比較的若くしてCEOになったので、社会経験やマネジメントスキル、市場分析力、素材についてはこれからもっと学んでいく必要がある。生活者のニーズや意識はより細かく、高まる一方だ。購買に慎重で品質が良いものを好み、デザイン性もあって着心地が良いだけでなく、ブランドの理念と共感するかどうかも細かく見ている。ライフスタイルや好みの変化に適応していくことに難しさを覚える。また、ブランドの知名度が上がるにつれ、ビジネスを超えて、社会的な責任の重さを感じるようになった。生活者と対話をするためにはビジネスをするだけでなく、ポジティブなメッセージや付加価値の創出が不可欠となった。
WWD:中国国内での人気をどう獲得した?
ボーミンCEO:社会が多く変わり、働く時のファッションにも変化が生まれ、スーツが徐々にカジュアルなジャケットに変わっていった。今やジャケットを着ていることが、ビジネスのコミュニティーでは企業家としての自立や余裕を表すシンボルになっている印象を受ける。「K-ボクシング」は当初からジャケットに焦点を当て、30〜45歳のメイン顧客層に着実にリーチした。ジャケットに精通するブランドイメージを確立し、中国で生活を送る男性に自信を与える存在に育っていった。21年9月には、新たに“ニュー・プレミアム・ナショナル・プロダクト”をコンセプトとして打ち出した。この“プレミアム”は値段に限定するものではなくて、最高の体験と“ちょっといい自分”になるための特別感を指すもの。ブランドの歴史と我々が提供する品質にコミットするために、「メイド・イン・チャイナ」を前面に出した。同時期に万里の長城でメンズジャケットにフォーカスを当てたショーを開催。中国のローカルブランドのファッションが注目を集めているという世の動きをキャッチしていった。
WWD:中国のローカルブランドが人気を集める理由は?
ボーミンCEO:中国が国として経済成長して文化的にも成熟してきたことで、国内のブランドに焦点があたり、誇りが生まれていると感じる。世界で存在感を増すようになるにつれて若い世代のアイデンティティーの形成においても一翼を担い、自己表現の幅を広げた。国家開発計画で「ファッション、ビューティ、繊維、そのほかの消費財の多くでハイエンドのローカルブランド育成に力を入れていく」ことが提案されていることも大きいだろう。
WWD:サステナビリティに配慮したスーツとは?
ボーミンCEO:“カーボンフットプリント・スーツ”と題し、カーボンフットプリント(CO2e・温室効果ガス)の計測に着手した。製品についているQRコードをスキャンすることで、素材の調達から店頭に並ぶまでの排出量が一目でわかるものを、ジャケットとパンツ、コットン製のTシャツで展開。中国では初めての取り組みだ。19年には国内で初めて気候変動枠組条約(United Nations Framework Convention on Climate Change、UNFCCC)に参加し、21年に中国紡織工業連合会(China National Textile And Apparel Council、CNTAC)が提唱するカーボン・ニュートラルを促進するプログラムに加わった。責任ある購買や新しいライフスタイルの後押しになるような提案をし、持っているだけで良い気持ちになるような商品として愛されてほしい。
WWD:中国発のファッションの可能性は?
ボーミンCEO:これからの躍進に非常に自信がある。中国の国としての成熟は、中国のファッションやブランドがグローバルに世界の舞台で輝く可能性を提供する。純粋な「メイド・イン・チャイナ」からより高性能に生産して「スマート・メイド・イン・チャイナ」に、さらにクリエイティブなモノづくり、「クリエイティッド・イン・チャイナ」と成長していくと期待する。中国のように規模の大きい市場においてローカルブランドは、生活者や国の文化をよく理解しているので、迅速かつ的確にビジネスを展開できるという利点がある。文化の盗用のリスクも少なめ。その分ブランドの未来を見据え、長期的な成長戦略とともにサステナブルな製品を作っていくなど、進化を絶え間なく続けている。ますます多様化するライフスタイルと生活者の質の高いニーズに適応する力で、世界的に認知されていくだろう。
WWD:これからの目標は?
ボーミンCEO:現在の「K-ボクシング」を支えているコアな生活者は中国が中心で、今後もそこはブレない。2020〜22年にわたって、ミラノ・ファッション・ウイークでこれまで3回ショーを発表し、アジアの美学とイタリアのエレガンスが融合したコレクションを届けた。インターナショナルなプラットフォームでの露出はこれからも増やしていくつもりだ。今後も社会的に良いインパクトを残しているかを確認しながら、良い未来に向かって生活者と一緒に歩んでいきたい。