藤田哲平デザイナーの手掛ける「サルバム(SULVAM)」はこのほど、フランスで現地法人を立ち上げ、パリ3区にアトリエ兼ショールームを開いた。同ブランドは2019年春夏からパリ・メンズ・ファッション・ウイークでの発表を続けており、1月にはデザイナー自身も渡仏して22-23年秋冬のプレゼンテーションをアトリエで開催。千鳥格子やフラノウールなどのクラシックな生地のテーラリングに、裾やポケットから裏地を見せるシグネチャーディテールを加えて、「サルバム」らしさの新たな表現を探求したコレクションを披露した。
実際、コレクション発表の場としてパリを選ぶ日本のブランドは多いが、現地に拠点を設けるブランドは数少ない。バッカーがいるわけでもない「サルバム」にとっては、リスク覚悟の挑戦と言えるだろう。しかし、藤田デザイナーは「もともと日本でも小さなアトリエしか構えておらず、おかげさまで取引先も全国的に増えたので、東京に直営店を出す意味はないと数年前から思っていた。そこで次のステップを考えたとき、ブランド設立からもう8年目になるのでそろそろかなと感じ、(コレクション発表のために)どちらにしても毎シーズン訪れるこの街にもう一つの拠点を作ることを決めた」と説明する。さらに「近年はどんどんインディペンデントなブランドがコングロマリットに買収されていて、遅くとも10年以内にはコングロマリット同士のマネーゲームになってしまうだろう。でも、自分はそこに所属したいわけでもない。海外でのセールスも順調に伸びてはいるが、これまでと同じことだけをやっていても限界があると思う」と続けた。
また、パンデミック前からパリで仕事をできる環境はほしいと考えていたというが、コロナ禍というタイミングもこの挑戦の追い風となった。「昨年10月にパリに来たとき、以前はほとんどなかった空き物件がたくさん出ていて、この場所を借りることができた」。そして、そのときに「この街の人との距離を縮めたい、こっちでしかできないことをやってみようという気持ちも芽生えた」と明かす。「コレクションはこれまで通り日本で生産するが、これからはここで縫ったり、パターンを引いたりもできる。もともとテーラーで働いていたスタッフも加わり常駐するので、パリではオーダーメードにも取り組んでいきたい。来年にはスペース前方はショップにする計画だが、インラインの商品をただ並べるのではなく、日本とは違った形で展開していく」。今後、年に数カ月はパリを拠点に活動する予定だとし、「“日本のインディペンデントブランド”という認識で終わらず、ゼロからこの街に拠点を構えて、もっと入り込み、ファッションの中心地と言われるこの国でどれだけできるかを勝負したい」と熱い想いを語る。