岡﨑龍之祐は、彗星のごとく現れた異色のファッションデザイナーだ。高校卒業後に東京藝術大学大学院を経て「楽天 ファッション ウィーク東京」でコレクションを披露し、大きな話題を集めた。アートの視点で生み出す服は、まるでオートクチュールのようにグラフィカルで、造形美にあふれている。ファッションとアートの境界線を超える26歳が、世界を驚かせるのは目前だ。
ファッションの道に進んだ理由
WWD:ファッションに目覚めたきっかけは?
岡﨑龍之祐「リュウノスケオカザキ」デザイナー(以下、岡﨑):理由は自分でも分からないけれど、中学生のころからとにかく好きだった。最初は小遣いを貯めて古着を買い、次第にいろいろなブランドのショー映像やルックを見るようになっていた。
WWD:ファッションの道を志し、東京藝術大学に進学した理由は?
岡﨑:絵を描くのがもともと好きで藝大に憧れていたし、まずはアートを通した幅広い表現方法を勉強したかったから。だから、ファッションデザイナーになりたいという気持ちは早い段階で漠然とはあったものの、専門学校へ進学する考えはなかった。
WWD:デザイナーになると決めたのはいつ?
岡﨑:ハッキリと意識したのは、1年生のとき。デザインやアートに触れて、自分が何を感じてどういった方向に進みたいかを考えるようになった。デザイナーという職業にはいろいろなジャンルがあり、プロダクトやグラフィックの仕事内容は想像できたのに、ファッションだけは全然分からなかった。学校で学び続けても答えは出ず、だったら自分がデザイナーになってみればいいと考え、そこから身にまとうもので表現したいという気持ちが強くなった。
WWD:藝大では何を学んだ?
岡﨑:デザインを広い解釈で学びつつ、何かしらの作品を常に作っていた。デザインといってもいろいろで、問題解決や機能的なものは感覚的に理解できたけれど、ファッションだけはやっぱり分からなかった。でも分からないからこそ興味がそそられるし、自分で何かいい作品を完成させたときの喜びも大きい。
WWD:デザインのこだわりは?
岡﨑:とにかく、好きなものを作り続けること。ファッションは着るという“機能”に加え、一見無駄に見える装飾に価値があったり、人の心を豊かにしてくれたりする。この装飾については、藝大で学んだデザインとは違うけれど、人間の暮らしや営みには大切なもの。それを受け取り手に大事だと気付かせるためには自分の作品に説得力がないといけない。
WWD:初めての作品は?
岡﨑:2年生のときに作ったドレス“祈纏 -Wearing Prayer-”だ。広島に贈られた折り鶴の再生紙を細かく裁断した紙糸を織ったもので、1年生のときに故・高田賢三氏が行っていた平和活動に参加したことがきっかけで製作した。
いつかはパリの舞台で
WWD:大学院に進学してグラフィックを学んだ理由は?
岡﨑:グラフィックデザインを服作りに生かしたら面白いのではと思いつき、研究室で学ぶことにした。グラフィックは一見表面的だが、実は奥深い意匠が詰まっている。ビジュアルで語る点に、ファッションとの親和性もある。このアプローチを体現したのが、「第69回 東京藝術大学卒業・修了作品展」のために製作したドレス“JOMONJOMON”だ。神道的な左右対称のグラフィカルなビジュアルにし、実際に服を見た瞬間に飛び込んでくる視覚的な情報を大切にしている。この面白さは、グラフィックデザインを学んで気付いたこと。 “祈纏”のようにストーリーを想起させるようなものづくりを意識しながら、いかにグラフィカルに表現できるかを大切にしている。
WWD:デザインのインスピレーションは?
岡﨑:日常的な気付きや、不思議に思ったこと。例えば“JOMONJOMON”は、縄文土器の形について調べたことが出発点。自然の造形から着想することが多いのは、昔から何ごとも答えが分かっているのが嫌で、謎めいたものや不思議なものに引かれるからかもしれない。
WWD:作品は完成をイメージして組み立てる?
岡﨑:デザインは、抽象画家が筆を当ててストロークで描き続けるように、謎に向かって探る感覚に近い。だから終わりがなく、ずっと続けてしまうので自分で終着点を決めるのが大変(笑)。それに組み立て方まで考えているわけではないので、完成品をどこかに発送すると受け取り手がうまく組み立てられず、壊れて戻ってくることがある。今後はそういった点も考える必要があるかもしれない。
WWD:2021年8月に「楽天 ファッション ウィーク東京」への参加が決まった際の気持ちは?
岡﨑:とにかくうれしくて、大学院を卒業した半年後にコレクションを発表するというタイミングも良かった。作品がどう思われるか不安な気持ちもあったけれど、自分が作った作品を愛しているので、いい形で見せたいと一心で走り続けた。「何だアレは?」という反響も、「分からない」を探るのは自分のものづくりの原点だから、ポジティブに受け取っている。「分からない」って面白いし、かっこいいから。
WWD:これまで販売したヘッドピース以外にも、売れる商品の制作は考えている?
岡﨑:将来的に考えてはいるけれど、今はそれよりも作りたいものを高いクオリティーで作り続けてブランドの価値を高めることが大事。「リュウノスケオカザキ」は同じものを2つ作れないブランドだからこそ、一点一点に価値が生まれ、ブランドの価値も自然と高まっていくはず。売ることを考えて日常に無理に落とし込むよりは、作りたいものを作って発表する方が今の自分には合っている。
WWD:今後の目標は?
岡﨑:老若男女を問わずたくさんの人に見てもらい、例えポジティブじゃなくても何かを感じ取れるものづくりを続けること。チャンスがあれば、パリでファッションショーをやりたい。