東大発ベンチャー・WOTAは、「持ち運べる浄水場」とうたった循環型浄水システムで注目を浴びている。少量の水を浄化処理して何度も再利用できるこのシステムが普及すれば、世界の水問題は大きく前進する。同社を率いる前田瑶介氏はサステナブルの時代を代表する若きリーダーだ。
WWDJAPAN(以下、WWD):商業施設などでドラム缶型の手洗いスタンド「WOSH」を見かける機会が増えた。
前田瑶介CEO(以下、前田):水道設備は不要で、手洗いの排水をドラム缶の中で98%以上浄化して、繰り返し循環させる。WOSHの設備を採用することで、衛生面だけでなく、環境への企業姿勢を示したいという機運もあるようだ。
WWD:WOSHは19年11月に発表した「WOTA BOX」の技術を利用した。
前田:きっかけは18年7月の西日本豪雨。まだ試作段階だったが、岡山県の2カ所の避難所にシャワー設備として持っていった。水道の復旧が遅れ、真夏なのに入浴できない日が何日も続いていた。久しぶりのシャワーに喜ぶ人たちの声を聞き、水が持つ圧倒的な価値を感じた。同時に力不足も思い知らされた。きれいな水が必要な避難所はたくさんあるのに、技術者と設備の問題で限られた貢献しかできなかった。本来はトイレ排水などの生物処理も完成させた上で世に出すつもりだった。でもいま困っている人がいるなら、現時点で最善のことをしたいと考え、翌年の製品化に向けて動いた。
WWD:自然災害が多発する日本でニーズは多い。
前田:(製品化直前の)19年10月の台風19号では長野県が多大な被害を受けた。この時、内閣府の要請を受けて、WOTA BOXを14カ所に設置した。この様子が報じられて、製品が広く知られるきっかけになった。でも、いくら優れた設備でも災害が起きてから出来ることは限られる。平時の備えの重要性も痛感している。
WWD:水問題に関心を持ったのは?
前田:阪神淡路大震災(1995年)で被災した。たまたま泊まりに行っていた神戸の親戚の家で、3歳だったけど長らく水を使えない記憶が強烈だった。上下水道が止まると、避難所では入浴もできない不衛生な環境でたくさんの人が密集し、さらにトイレのがまんを強いられる。赤ちゃんやお年寄り、体に不自由を抱えた人など弱い人を直撃してしまう。
WWD:原体験と水問題が重なると。
前田:でも、それだけはない。私の一番大きなテーマは、自然の中でどうしたら人が持続可能で生きていけるか。徳島県の山深い地域で生まれ育った。四国なのに雪も積もり、時には交通も遮断される。でも地元の人たちは干し芋など昔ながらの保存食を常備したり、薪で暖をとったり、川から水をひいたり、臨機応変に暮らしてきた。逆に高度なインフラが整った都市部のほど自然の変化に脆弱だったりする。テクノロジーによる問題解決は一つの手段に過ぎない。世界の水問題の本質は、そこに暮らす人たち自律的に解決できるようになることだと思う。WOTAがその一助になればいい。