エンパワーメントメディア「ブラスト」は女性のライフスタイルをエンパワーすることを目的に2018年にスタートした。石井リナBLAST CEOは世界の中で男女格差の度合いを示す「ジェンダーギャップ指数」が下位である日本の現状を打破するため、女性が連帯し社会に変化をもたらすべく、SNSを活用し理解しやすい言葉や製品を発信し続けている。
WWDJAPAN(以下、WWD):2018年にBLASTを立ち上げたきっかけは。
石井リナBLAST CEO(以下、石井):IT系の広告代理店で3年働き、スタートアップ企業に転職した後フリーランスとしても働いていた。いずれもSNSのマーケティングに携わっていたため、海外のインフルエンサーをリサーチする機会が多かった。16〜17年は米国でダイバーシティやフェミニズムがキーワードとして挙がったが、日本での注目度は低く、欧米との差を強く感じた。男女格差の度合いを示す「ジェンダーギャップ指数」では世界144カ国の中で日本が下位に位置し、男女の間にもギャップがあると知り衝撃を受けた。本来はどんな性別の人も社会、政治、経済的に平等であるべきなのに、私自身もフェミニズムを知るまでは政治家も男性が中心であることが自然に思っていた。それは自然ではないことに気づき、課題意識が芽生えた。欧米にはフェミニズムを伝えるメディアやコミュニティーがあったため、日本でも立ち上げるべきだと感じ「ブラスト」をスタートした。
WWD:BLASTでプロダクト、メディア、コミュニティーと3つの事業を軸に展開する。
石井:欧米の動きをみると気づきや連帯することで社会を変えてきた例が多かった。例えばアイスランドは仕事の有無や年代を問わず女性の9割が1日ストライキを起こし、社会的地位向上や賃金格差を訴えた。その数年後に女性の首相が誕生した。こうした事例のようにメディアを通じて気づきを与え、連帯することで女性のライフスタイルをエンパワーしていく。プロダクトは女性のエンパワーを物理的にサポートし、エンパワーする意味で始めた。女性の9割は生理の悩みを抱えていることを知り、吸水ショーツブランド「ナギ」を手掛けた。コミュニティーは近い将来動き出す予定だ。
WWD:プロダクトの中で吸水ショーツに焦点を当てたきっかけは。
石井:女性がポジティブに選択できないものを、プロダクトを通じて解決したかった。生理に悩みを持つ女性は多く、年齢やライフスタイルによっても悩みが異なり、同じ女性でも想像しえなかった悩みがあることも知った。アンケートをとると7〜8割くらいの人が紙ナプキンを使用していて、環境面を考えた上でも海外で普及しはじめていた吸水ショーツを手がけようと20年5月に「ナギ」を立ち上げた。モノ作りに携わるのは初めてで全ての工程が大変だったが、自分が納得できる製品が完成するまで何度も試作品を作った。こだわったクロッチ部分は防水や防臭、吸収、速乾の機能を持つ生地の5層構造(スタンダードタイプで60mLの吸水性能を持つ)で、世界でも勝負できるクオリティーの高い製品が完成した。
WWD:「ナギ」では学割や選挙割など注目を集める取り組みも行っている。
石井:ジェンダーギャップから生まれたBLASTとしては、社会とつながる企画を推進する。生理の貧困が話題になったタイミングで、アクションを起こす必要性を感じ22才以下には500円を割り引くことにした。そのほか、1枚の生理用ナプキンの素材が分解されるまで800年程度かかるといわれていることから、グリーンアクションを21年6月に実施。期間中は「ナギ」の商品の購入を環境団体への寄付につなげた。21年10月には衆議院議員選挙の投票証明書の送付で割引する選挙割も実施。各政党の主張を分かりやすく表にしてSNSで訴求したが、これはアクションを起こし、周りとの会話につなげられる機会の創出を図ったものだった。著名な政治家からリツイートされるなど、想像を超える反響を得られた。
WWD:現在事業を進める中での課題と、それに向けて取り組むことは。
石井:BLASTはスタートアップの経済圏にいるので成長させること大前提。事業を始めるにあたりベンチャーキャピタル(VC)から資金調達をしたが、そこでもジェンダーギャップを感じた。VCの多くは男性なので当社の取り組みを説明し、共感を得られるまで多くの時間を要したが、現在の出資者は深い理解を示してくれている。女性が資金調達で事業を始めるハードルは高いが、その成功事例として成長を遂げていく。またBLASTはサステナブルであることも必須。大風呂敷を広げることなく、まずはソーシャルキャペーンなどを堅実に行い、口コミで拡散を図る。「ナギ」は現在吸水ショーツのみを扱うが、早い時点でグローバル展開をしたい。さらに女性のライフスタイルに寄り添った商品展開も視野に入れている。
WWD:今後取り組むコミュニティーに関しては。
石井:実際形は変わるかもしれないが、女性の体の悩み別につながれるコミュニティーがあってもいい。妊活用のショーツ“ナギ サイン(NAGI SIGN)”を手掛ける際に、妊活中の女性は生理がくることや、ナプキンを用意すること自体も多くのストレスに感じていることを当事者に聞いて理解した。そこでクロッチ部分をグレーにすることで周期の始まりや体の不調にいち早く気づけるようにした。こうした思いを共感できる場の創出ができたら。また、賢い消費者作りにも貢献したい。商品を販売する企業のミッションや事業内容、経営層の男女比率などを理解することができれば、自分の志向に合わない商品は購入しないという選択ができるが、知らないと指摘することも選ぶこともできない。社会や経済の構造に目を向けるきっかけを作りたい。