オフィススタイルに定評のある月額制レンタルサービスがエアークローゼット(AIRCLOSET)だ。スタイリストがユーザー1人1人に向けて洋服を選び、新たな出合いを提供している。2015年にサービスを開始し、昨年黒字化を達成。会員数も70万人を突破した。しかし、創業者・天沼聰の夢の実現はまだ始まったばかりだ。
WWD:起業した経緯は?
天沼聰エアークローゼット社長兼CEO(以下、天沼):仲間と何かを切り開いていったり、何かを形作ったりすることがすごく好きで、世の中に何らかの価値を提供したいというのが、そもそもの出発点だ。コンサル時代に起業を考え始め、実業を経験した後に、仲間を誘って3人で起業した。
天沼:3人とも「ライフスタイルが豊かになる、人の生活が何か豊かになることをやりたい」が一致していて、「1分でも1秒でもいいから、人々のワクワクする時間を増やそう」というのがスタートだった。そこから「ライフスタイルに一番近くて、かつ、人の心に一番近いものって何だろう」と考えていったときに、ファッションだと。人の肌に触れるもので、長くワクワク感が長く持続する。ファッションの力はすてきだなと。ライフステージも時間の使い方も変わることが多く、忙しい女性たちに、生活リズムを崩さずに新しいファッションにたくさん出合えるサービスができたら、きっとワクワクするんじゃないかと考えた。選ぶのに時間がかかっては本末転倒なので、スタイリストが提案し、実際に着て、外に出ることができるレンタルが良いと思った。さらに返却期限なく、いつでも返せて、また新しいものが届くようにと月額制を採用した。
WWD:スタイリングサービスや物流、クリーニングなどが組み合わさっている。事業化は容易ではなかっただろう。
天沼:ビジネスモデルは定まったものの、3人とも全くファッション業界について知らないし、SNSにさえ業界の知り合いがいなかった(苦笑)。知り合いの知り合いの紹介で何人かに会うことができて、そこからテレフォンショッキング形式で広がっていった。世界的にも前例がなかったので、予測と軌道修正を繰り返しをしてここまできた。常に大変ではあるが、自分たちが作りたい世界観に向けてサービスを構築しているので、とても楽しい。
天沼:サービスを開始して1、2年の時に、返却の洋服と一緒に手紙を受け取った。その方はファッションが大好きで、ファッション業界で働いていたけれど、うつ病になって仕事を辞めて家に引きこもっていた。でも、エアークローゼットを利用するようになって、洋服に出合ったら少しずつ出掛けるようになったという内容で、「今も闘病中だけれど、アパレル業界に復帰して働いています。エアークローゼットを作ってくれてありがとうございました」と。それを泣きながら読んだ。ファッションとの出合い、洋服との出合いという、私たちがコアだと思っている価値を認めてもらえたと感じて、心の底からうれしかった。今でも問い合わせメールなどは全てに目を通しており、お客さまにワクワクしてもらえていると感じている。
WWD:現在注力していることは?
天沼:このコロナ禍で、ウインドーショッピングなど、洋服に出合う機会やきっかけが減っている。より多くの人にワクワクを体験してもらいたいので広報活動を強化している。また、アパレル企業がレンタルやサブスクリプションサービスを始めやすいように、私たちの物流基盤を利用できるようにした。ゼロからエンジニアが作ったシステムや、データサイエンス、人工知能の活用など、私たちの経験やノウハウをシェアすることで業界全体を盛り上げたい。競争が原理原則ではあるが、パイの取り合い以上に、パイを大きくすることを意識している。
WWD:今後は?
天沼:ライフスタイルとして広げたいという最初の思いを考えると、私としては、まだスタートラインに立ったかどうか半信半疑なぐらい。メンズやシニア、マタニティーと領域を広げたり、海外で展開したり、やりたいことがたくさんある。大量生産によって、一人一人が出合うべくして出合う洋服だけではなくなり、廃棄される服が増えている。今後はよりパーソナライズされたファッションが求められるようになっていくと思う。出合うべきアイテムを提案し、「“ワクワク”が空気のようにあたりまえになる世界へ」というビジョンを実現したい。
WWD:最後に受賞の感想を。
天沼:候補に挙がっていると連絡が来て驚いたが、チームとして長く一緒に働いてきたスタイリストの一人が推薦してくれたと聞いて本当にうれしかった。2月3日でサービス開始7周年。仲間と一緒にやれている環境で、最高だと感じている。