日本のメダル獲得数が冬季五輪として最多記録を更新した北京冬季五輪も、いよいよ20日が閉会式。冬のスポーツの代名詞、スキー競技でも、ジャンプの小林陵侑選手やモーグルの堀島行真選手、ノルディック複合の渡部暁人選手や日本チームがメダルを獲得して話題を呼んだ。ただし、世の中一般に目を向けると、スキーはスノーボードやフィギュアスケートなどに比べると、若い世代での認知度や人気が今ひとつというイメージもある。映画「私をスキーに連れてって」のブームからは35年、日本のスキー人口は1990年代をピークに漸減しているともよく言われる。アウトドアレジャーの人気が高まる中で、スキー市場にも何か変化はないのか。スキー用品を扱う石井スポーツ神田本館の佐藤晶店長に聞いた。
WWD:まずは足元の商況から聞かせてほしい。一昨年は暖冬、昨年はコロナ禍という逆風が続いているが、2021-22年シーズンの販売状況は。
佐藤晶石井スポーツ神田本館店長(以下、佐藤):12月までは前年に対して50%増で推移していたが、年明け以降は同40%増と、感染再拡大もありやや客足は落ち着き傾向だ。ただ、「10年ぶり、15年ぶりにスキーを再開する」というような40代前後の“リターン層“は年明け以降も一定数訪れ続けている。“3密”を避けられるという点などが支持され、かつてスキーを楽しんでいた層が雪山に戻ってきているようだ。また、感染予防の一環で、これまでは用具を全てレンタルしていた人が、ブーツやウエアだけは自分のものを買っていくというケースもある。
WWD:スキーの市場規模は1990年代をピークに縮小してきている。登山やキャンプなどのアウトドアレジャーを楽しむ人は近年増加傾向にあるが、スキーにも良い影響はないのか。
佐藤:アウトドアレジャーの広がりを背景に、スキーの楽しみ方も多様化してきているのが近年の変化だ。かつては整地されたスキー場のゲレンデを滑ることが主だったが、今は山を滑るバックカントリースキー(自然の中を滑走すること)などの楽しみ方もある。バックカントリースキーはここ数年特に盛り上がってきている実感がある。一昨年、昨年はコロナ禍で春スキーが難しかったこともあり、今年こそはと春の山スキーを楽しみにしている人は少なくないだろう。
WWD:楽しみ方の多様化は、スキーギアやウエアなどにも変化をもたらしているか。
佐藤:板やブーツで言えば、各メーカーが乗り味を損なうことなく軽量化を進めている。昔はスキーブーツと言えば硬い、痛いというイメージがあったと思うが、近年のブーツは外側のプラスチックシェルや内側のインナーブーツを、熱成形でお客さまの足に合わせて加工することができる。午前中に店頭に来ていただければ、ランチを食べている間に加工ができてしまうぐらい手軽だ。今まさに規格が切り替わっている最中だが、ブーツのソール形状も従来よりも歩きやすい形に変化してきている。板もブーツも、性能や快適性は昔に比べたらかなり向上してきている。十数年ぶりにスキーを再開するという人は、ギアの進化に驚く部分が多いと思う。
ウエアは、派手なカラーを採用した昔ながらのコテコテなスキーウエアは今もあるが、バックカントリースキーで山を登る際に体温調節がしやすいように、中綿が入っていない、色合いも比較的落ち着いたシェルジャケットやシェルパンツなどの提案が増えている。「ミレー(MILLET)」などの山ブランドが企画しているのはもちろん、「ゴールドウイン(GOLDWIN)」など、国内のスキーウエアメーカーを含め各社提案している。
WWD:スキーの楽しみ方が多様化する中で、バックカントリースキーでの遭難事故がニュースサイトなどで取り上げられ、批判を集めるケースも増えている。バックカントリースキーを楽しんでいる人と世の中の認識との間に、残念ながらまだまだギャップを感じる部分がある。
佐藤:バックカントリースキー人気の高まりを受けて、近年は整備されたゲレンデではない、スキー場内の非圧雪ゾーンの滑走を自己責任のもとで認めるスキー場が実は増えている。入山届を出してガイドと共に山に入るツアーや、雪崩に関する講習会などもある。リスクを減らして真摯にバックカントリースキーに向き合っている人は多く、ニュースになるような事故が常に起きているというわけではない。ただ、ひとたび事故が起きてしまうとどうしても世間を驚かせてしまうということだろう。(批判を集めるのは)世の中の人にとってなじみのないものだから、という面も大きいのだと思う。スキーをする人自体が世の中では少数で、バックカントリースキーはそこからさらに枝分かれしたもの。バックカントリースキーの大会も開かれているが、メディアなどで取り上げられる機会は少なく、普通に生活している人はバックカントリースキーを見ることはない。「ならず者がすること」といったイメージが先行している。分からないものだから批判を集めやすいと感じるが、逆に言えば、そこに世間との認識のギャップを埋めていくヒントがあるのではないかと思う。
WWD:認識の溝を埋めていくためにも、スキーを楽しむ層自体を広げていく必要があるということか。
佐藤:神田本館はコアなスキー好きのお客さまが多く、エントリー層向けのスキー板、ブーツ、ビンディングの3点セット売りなども行っていない。ただ、より幅広いお客さまに来ていただくことは重要だと思っている。6月に“カスタムフェア”という次シーズンのギアを紹介するイベントを毎年行っているが、そこにももっとエントリー層の方に来ていただきたい。コアな層に次シーズンの商品を紹介して買っていただくだけではなく、スキーに思いをはせ、スキーの楽しみ方を知る場にできればと思っている。