ファッション

「ニューバランス」“990”シリーズの名作コラボ10作を振り返る

 2015年頃から熱を帯び始め、同時多発的にさまざまなブームの波が巻き起こったスニーカーシーン。その代表として挙げられるのが、ダッドスニーカーだろう。“休日にお父さんが履くようなスニーカー”を意味するダッドスニーカーは、明確な起源を語るのが難しい。故スティーブ・ジョブズ(Steve Jobs)のようにシンプルなスタイルで、13~14年頃のトレンドだったノームコアから派生したとも言われている。当時、足下で圧倒的な支持を得ていたのが「ニューバランス(NEW BALANCE)」の“900”番台で、ジョブズも“992”を愛用していた。

 「ニューバランス」の“900”番台とは、1982年に発売した“990V1”を皮切りに、現在までに13モデルが登場しているフラッグシップラインのこと。中でも“990”は、スニーカーシーンでは珍しい“モデル名世襲型”を取り入れたシリーズで、82年の“990V1”、98年の“990V2”、2012年の“990V3”、16年の“990V4”、19年の“990V5”と、これまで5モデルを発売してきた。そして“990V5”の発売から3年が経つ22年、最新作となる“990V6”がついに登場するという噂が広まっている。そこで“990V6”発売に備えて、ここ数年の間に登場した“990”シリーズがベースのコラボモデル10作を振り返る。

JJJJOUND × “990V3”(2018年発売)

 カナダ・モントリオールが拠点のクリエイティブ・スタジオ「ジョウンド(JJJJOUND)」との初コラボ作。「ジョウンド」は、過去にカニエ・ウェスト(Kanye West)ことイェ(Ye)が率いるクリエイティブ・エージェンシー「ドンダ(DONDA)」で、アートディレクターとして活躍していたジャスティン・サンダース(Justin Saunders)が主宰。ミニマルでクリーンなデザインが人気のブランドだ。本モデルは「ジョウンド」らしいカラーと巧みな素材使いで、流通量の少なさからリセール市場では100万円の値が付くこともあった。なお、3月には同じく“990V3”をベースとした新色が発売する。価格は税込3万5200円で、4日に東京・日本橋浜町のコンセプトショップ「ティーハウス ニューバランス(T-HOUSE NEW BALANCE)」で先行発売したのち、19日から「ニューバランス」公式サイトで一般販売する。

AIME LEON DORE × “990V5”(2019年発売)

 1990年代のニューヨークを彷ふつとさせる、クラシカルかつプレッピーなストリートスタイルで注目されている「エメ レオン ドレ(AIME LEON DORE、以下ALD)」。2019年から継続的に「ニューバランス」とのコラボモデルを発売している。中でも“990V2”と、同時発売した“990V5”は、“990”シリーズでは珍しいグリーンとネイビーを基調とした上品な佇まい。その完成度の高さが、今日まで続く両者のリレーションを決定付けたと言っても過言ではないだろう。なお「ALD」とのコラボモデルのあまりの反響の高さからか、「ニューバランス」は2021年に“メイド・イン・USA”コレクションのクリエイティブ・ディレクターにテディ・サンティス(Teddy Santis)「ALD」創設者を指名している。

LEVI'S × “990V3”(2021年発売)

 「リーバイス(LEVI'S)」と「ニューバランス」は、共にアメリカの地で100年以上の歴史を刻んできた。両雄はここ数年コラボに積極的で、 “990V3”はその内の一足として登場した。両者のシグネチャーカラーに合わせて、インディゴとグレーの2カラーをラインアップ。アッパーの素材に「リーバイス」のデニムや毛足の長いヘアリースエードを用いることで、履き込むほどに味が出るという玄人好みの仕様だ。また、アッパーサイドのアイコニックな“N”ロゴに、「リーバイス」のタブをあしらっている点も物欲をくすぐるポイントである。

KITH × “990V2”(2020年発売)

 ロニー・ファイグ(Ronnie Fieg)が率いるニューヨーク発のスニーカーショップ「キス(KITH)」は、「ニューバランス」と10年近く協業を続けている。“1300”や“1700”をはじめ、“992”“584”など最も多くのモデルを共作してきたコラボレーターの一つだ。「ニューバランス」のDNAに忠実なグレーやネイビーをメーンカラーにしたものや、「キス」が得意とするやわらかなパステルカラーを取り入れたモデルも数々手掛けてきた。2020年には、ピンクのスエードが新鮮な“990V2”を生み出した(ほかにも複数カラーあり)。そして、同様のカラーリングを踏襲した“990V1”を22年中に発売するというウワサもある。

STRAY RATS × “990V3”(2019年発売)

 “990V3”をベースとした数あるコラボモデルの中で、最も異彩を放つのが「ストレイ ラッツ(STRAY RATS)」との一足だろう。同ブランドは、ジュリアン・コンスエグラ(Julian Consuegra)が主宰するアメリカ・マイアミ発のストリートブランド。スニーカーは、映画「ダークナイト」に登場する、悪役のジョーカーに着想して製作したもの。アッパーのカラーリングに、ジョーカーが着用していたパープルのスーツとグリーンヘアーをイメージしたカラーを取り入れた。とはいえ「ニューバランス」へのリスペクトは忘れず、トゥキャップやシュータンをグレーにすることで、絶妙なカラーリングの一足が誕生した。

STUSSY × “990V4”(2017年発売)

 1980年にショーン・ステューシー(Shawn Stussy)がカリフォルニアで設立し、今年で42年目を迎えたストリートブランドの雄「ステューシー(STUSSY)」。「ナイキ(NIKE)」とのコラボの印象が強い同ブランドだが、実は「ニューバランス」とも何モデルかを製作しており、2017年には“990V4”を発表している。アッパーからソール、シューレース、“N”ロゴまで全てをクリーム色に染め上げたクリーンな仕上がり。一見すると「ステューシー」っぽくないデザインだが、インソールにはコラボを象徴するSSリンクロゴをしっかりとプリントしている。

NO VACANCY INN × “990V3”(2019年発売)

 クリエイティブ・エージェンシー「ノー バカンシー イン(NO VACANCY INN)」は、“990”シリーズ史に残る名作を2019年に生み出している。彼らは「ニューバランス」を代表するグレーとネイビーを組み合わせながら、アクセントとしてシューレースに鮮やかなレッドを採用。そして、Wi-Fiが水と同等に生命活動に必要不可欠なものになっている現代へのアイロニーを込め、左右のヒールに“Water”と“Wi-Fi”の文字を刺しゅうした。また、ブランドのインスタグラムで18歳未満を対象に、イギリスのEU離脱やLGBTQの権利などの小論文を募集し、最優秀作品に同モデルをギフトするユニークな取り組みも行った。なお、「ノー バカンシー イン」創業者のトレマイン・エモリー(Tremaine Emory)は、「シュプリーム(SUPREME)」の新クリエイティブ・ディレクターに就任している。

ENGINEERED GARMENTS × “990V5”(2019年発売)

 「エンジニアド ガーメンツ(ENGINEERED GARMENTS)」デザイナーの鈴木大器は、“『ニューバランス』愛好家”として有名だ。コラボでは“990V5”をグレー、ネイビー、ブラックの3カラーで用意し、一見するとどれもシンプルなモノトーンモデルである。しかしアッパーの素材はなんとスムース、スエード、ヌバック、パイソン、クロコダイルの5種類の型押しレザーで構成。さらに左右のシューズで非対称にするという、「EG」らしいテクニックが光るモデルだ。

SLAM JAM × “990V3”(2019年発売)

 1989年にルカ・ベニーニ(Luca Benini)が創業した「スラムジャム(SLAM JAM)」は、ヨーロッパにおけるストリートシーンの開拓者として名高い。しかし意外にも「ニューバランス」とのコラボは2019年が初めて。記念すべき処女作は、“完成されたデザインの未完成品”をテーマに、色を極力使用しないミニマルな佇まい。「スラムジャム」の創業年にちなんで、89足しか生産しなかった。セール市場でもほとんどお目にかかれない希少モデルとなっている。

ULTRAOLIVE × “990V3”(2019年発売)

 あまり知られていないが、ニューヨークのラゲージ&バッグブランド「ウルトラオリーブ(ULTRA OLIVE)」も“990”シリーズに手を加えることを許されたコラボレーターの1組。日本とフランスの共作アニメ「ガジェット警部(Inspector Gadget)」からインスピレーションを受け、シューレースには小銭や鍵を収納できる取り外し可能なミニウォレットが付くほか、トグル式シューレース、アンダーレイの網目の大きいメッシュ地、オーバーレイのリフレクティブ素材など、他モデルではあまり見られないギミックが満載だ。残念ながら「ウルトラオリーブ」は現在ブランドを休止している。

“990V4 1982”(2018年発売)

 コラボモデルとは別に、最後に紹介したいのが“990V4 1982”だ。世界1500足限定で、日本にはわずか99足しか入ってこなかった。オリジナルの“990V4”を忠実に再現しつつ、ディテールにネイビーをさりげなく差し込み、ヒールサイドには“EST.1982”の刺しゅうを施すことで、より高級感を表現した一足だ。そして、“990V1”が100ドルで販売されていたことにちなんで、同額を100ドル札でのみ購入が可能という斬新な販売方法も話題となった。

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