ハースト婦人画報社の「ハーパーズ バザー(Harper's BAZAAR)」は2月19日、小栗裕子新編集長体制になって初めての2022年4月号を発行、日本人として初めて表紙に起用した小松菜奈のムービーも発表した。小栗新編集長が目指す、新しい「ハーパーズ バザー」とは?
WWDJAPAN(以下、WWD):編集長に就任して、どう感じている?
小栗裕子「ハーパーズ バザー」編集長(以下、小栗):率直に「まだまだ知られていないな」と思っています。「ハーパーズ バザー」の誕生は、1867年。150余年という長い歴史を持ち、グローバルの視点を大事にしながら各国でローカライズも実現している、働く女性を大事にしたメディアです。一般的なファッションメディアは、「ファッション」や「ビューティ」「バッグ&シューズ」「トラベル」という軸の中で“らしさ”を追求しますが、「ハーパーズ バザー」はキャリアやビューティにおけるサイエンス、国によっては政治なども、さまざまな視点から、美しく、まさにバザールのように届けています。隠れた声に光を当て、今で言うSDGsやエンパワーメントにも取り組んできました。読みやすく、入りやすい世界観を持っているのに、「まだまだ伝わっていないな」と思っています。
WWD:「伝わっていない」原因は?
小栗:ローカライズの視点やバランスだと思っています。インターナショナル・メディアは長らく、欧米の価値観をインポートしてきました。それに価値がある時代だったんです。でも今は、リアリティも必要です。リアリティをどう取り入れ、どう発信するか?は、大きな課題であり、ポテンシャルです。具体的には、プリントメディアではデザインやフォント(書体)選び、装飾などで親近感を表現したい。モデルも、「どのページも外国人」ではありません。デジタルは、可能な限りシンプルにして、メッセージを明確に。今はまず「やらないライン」を決め、「社会を動かす女性をもっと美しく」というブランドパーパスを追求したいと思います。
WWD:「やる」だけではなく、「やらない」も考える?
小栗:「やる」「やりたい」は欲求、「やらない」は意志だと思っています。今は、「そのコンテンツは、働く女性のライフスタイルに即しているか?」「彼女たちに、ポジティブな影響を与えることができるか?」をすごく選別しています。プリントもデジタルも、大事なのは「言いたいことが明確」なことです。そこで昨年以降、スタッフ一人ひとりとかなり密に話し合って、みんなの意志を確認しました。私が指揮を執る媒体にロイヤリティを感じてくれるか?は、本人の幸せにも直結します。幸いエディターはみんな、私同様に「ハーパーズ バザー」のパーパスに魅力を感じている、私よりはるかにプロフェッショナルな人たちでした。
WWD:「エル・ガール(ELLEgirl)」では、インフルエンサーコミュニティの「ELLEgirl UNI」やオンラインサロン「ELLEgirl NextLAB」などのコミュニティ作りに尽力した。
小栗:「良いお手本」も「残念なお手本」もありますが(笑)、立ち上げの時はみんなが「へぇ。頑張ってね」くらいのテンションだったからこそ、「絶対成功させたい」と努力してきました。私が着任したとき、「エル・ガール」は立ち上げから15年が経過しており、正直読者像が見えにくくなっていました。彼女たちの最先端を感じて共感を得なくてはと考えた時、「手を借りたかった」というのが本音です。私にとって「エル・ガール」のコミュニティは、“外付けの編集部”です。お互いのクリエイティビティを出し合い、コンテンツを作ってもらったり、教えてくれた言葉をコンテンツにしたりのアイデアボックスでした。「ハーパーズ バザー」でも読者に寄り添い、コミュニティを形作りたいと思っています。
WWD:具体的には?
小栗:昨年はオンラインでSDGsなどを学ぶ「バザー サミット」を立ち上げ、ご好評をいただきました。ロイヤリティや知的欲求が高く、英語のコンテンツもライブで楽しめるような方々が集ってくださり、その可能性を体感しました。視聴者と直接関わりたいし、働く世代とコンテンツを作り続けたい。日本同様「バザー サミット」に取り組む、イギリスや香港ともタッグを組みたいと思っています。
WWD:時に一方通行な「本国」との協業のみならず、「リージョン」と呼ばれる各国のメディアと相互協力するのは、インターナショナル・メディアとしては珍しい。
小栗:確かにこれまで現場レベルでの会話は、多くなかったかもしれません。でもムードは、コロナ禍で確実に変わりました。今は環境が違っても、同じマインドを持つ仲間として、チームになりたい。規模感やクラス感のあるチームを結成できるのは、「ハーパーズ バザー」の強みです。
WWD:新生「ハーパーズ バザー」の表紙は、小松菜奈が務めた。
小栗:インターナショナル・メディアの「ハーパーズ バザー」にとって、いわゆる通常版の表紙で日本人をフィーチャーするのは、はじめてのことです。雑誌のみならず動画にもご出演いただきました。「最初の表紙に誰を?」は、本当に考えました。そんな中で小松さんを選んだのは、彼女にパワーウーマンの全てをのせたかったのではなく、「変わる」「変える」という意志を示したかったからです。カメラマンも、ラグジュアリー・ファッションの撮影は慣れていない若手です。もちろん読者に喜んでいただきたいけれど、メディアは関わる人たちにとってもチャレンジの場であって欲しい。「これから、どうなって行くのか?」を読者とともに楽しみ、皆で一緒に育っていきたいと思います。
WWD:雑誌も、オンラインも、SNSも、コミュニティも変わって行く中で、まずは新生「ハーパーズ バザー」の何を見て欲しい?
小栗:「ちょっと覗きに来ました」で構いません。とにかく一度、見ていただきたいと思います。「ハーパーズ バザー」の日本版は、来年創刊10周年を迎えます。創刊当時の「次世代」が、社会の中核を担うようになりました。彼女たちのライフステージが変わりつつ、世の中のパラダイムシフトも進みました。だからこそ一度固定概念を捨てて、彼女たちを見つめ直さないと思っています。一方で私たちの「顔」も大事ですね。作っている人たちの魅力は、メディアに反映されます。今はモノではなく、人にお金を払う時代。読者は、私たちのステートメントに集まりますから。