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ファストリのサステナビリティ目標をどう読み解く? WWDJAPANサステナディレクターが解説【前編】

 決算発表とは別にサステナビリティに関する方針を定期的に公表する企業が増えています。その企業の戦略がよく分かる重要な情報です。とはいえ、サステナビリティ関連の事柄をしっかり読み解き、その背景を理解することは難しいと感じている人も少なくないのではないでしょうか。私もその一人です。そこで、ファーストリテイリングの2030年度に向けたサステナビリティ目標とそのためのアクションプランを例に、その読みどころを「WWDJAPAN」サステナビリティ・ディレクターの向千鶴と深掘りします。


ファーストリテイリングの2030年度
サステナビリティ目標&アクションプラン
環境領域 要旨

【温室効果ガス】
30年度までに自社のオフィスや店舗で温室効果ガス排出量を19年度比で90%削減
縫製工場などのサプライチェーン領域では、30年度までに同20%削減
店舗設計の段階からエネルギー効率の高い新店舗フォーマットを開発し、23年中にプロトタイプ店舗を出店
30年度までに全世界店舗と主要オフィスで使用する電力を100%再生可能エネルギーに切り替え

【商品】
30年度までに全使用素材の約50%をリサイクル素材などに切り替え

【廃棄物】
物流資材の削減、切り替え、再利用、リサイクルを通し、早期に廃棄物ゼロを実現


 
――本題に入る前に、そもそも「アクションプラン」とはどういうものでしょうか。

向千鶴「WWDJAPAN」編集統括兼サステナビリティ・ディレクター(以下、向):文字通り、「目標達成のための具体的計画」です。サステナビリティにおいては未来へ自らの「あるべき姿を」投げかける「バックキャスティング」という考え方が重要です。あるべき姿から逆算して今何をすべきかを考え、行動に移す手法です。特に日本ではこれまで、企業の目標は現状から積み上げて堅実な短・中期目標を掲げる「フォアキャスティング」方式が主流だったので、大きく違います。今回のファストリのアクションプランはまさにバックキャスティング。ちなみに日本の企業でバックキャスティング手法をいち早く取り入れたのはトヨタ自動車で、15年に「トヨタ環境チャレンジ2050」を発表しています。

――30年度に向けた目標&アクションプランになっているのはなぜでしょうか。

向:15年に国連サミットで採択された世界の共通目標「30年までにSDGs達成」からきています。

――温室効果ガスの削減目標を、店舗やオフィス、そしてサプライチェーン領域それぞれで設定しています。

向:50年のカーボンニュートラル実現という未来の起点に向けた具体的なアクションプランですね。店舗やオフィスで19年度比90%削減、サプライチェーン領域で20%削減を掲げていますが、ポイントは、削減目標の数値に第3者からの科学的なお墨付きを取得しようとした点です。科学的な根拠に基づくものの証明となる、国際機関SBT(Science-Based Targets)の認定を取得することで、目標とする数値の信頼度が増します。風呂敷を広げるだけなら誰でもできますからね。

――オフィスや店舗の排出量はファストリの努力で削減できますが、サプライチェーン領域での排出量については、取引先工場と連携して減らしていく必要があるので、より複雑です。

向:ここは非常に重要。サプライチェーン全体の排出量のことを「スコープ3」と呼びます。スコープ3の削減は大変難しく、投資を必要とします。それでも行うのは、温室効果ガス排出量の全体の90%が工場などから排出されているからです。結局そこに踏み込まないと、目標は成し遂げられないのです。ファストリでは生産部とサステナビリティ部の総勢150人体制で、スコープ3削減目標のモニタリングと進捗管理を行うそうです。150人ですよ!大きな投資ですよね。そこまでする背景には、「現場に通って人が目で見て確認しないとわからない」という現実があります。サステナビリティはきれいごとではなく地味なアクションの積み重ね。先ほどの外部機関のお墨付きと同じで、「言うだけじゃダメ」なんです。

ファストリ流の循環型ビジョンに注目

――エネルギー効率の高い新店舗フォーマットとして、23年中にプロトタイプ店舗の出店を目指すという目標も掲げています。

向:プロトタイプ店舗はぜひ見てみたい!現状から全てを丸っと変えるのは非常に大変。ならばプロトタイプという小さな実験の場を設けて、徹底的にやってみる。これもサステナビリティにおいて大事な視点だと思います。30年度までに全世界の店舗と主要オフィスで再エネに100%切り替えるという目標もあります。国内はロードサイドの独立型店舗はファストリの判断で再エネへの切り替えが可能なので先行していますが、商業施設内の店舗の切り替えはデベロッパー側の判断になります。今後全国の商業施設が、ファストリから再エネへの切り替えを迫られるのでしょう。正しい影響力の使い方だと思います。ちなみに、欧州9ヵ国では切り替えが全64店舗で完了したそうです。

――商品そのものについては、30年度までに全使用素材の約50%をリサイクル素材などに切り替えると発表しました。このサステナビリティ目標とアクションプランを発表した会見では、「競合他社に比べて控えめな目標だ」といった声も記者からあがっていましたが。

向:ここは、「サステナブル素材」ではなく「リサイクル素材」という表現を採用した点が大切です。同社に限らずグローバル企業は、サステナブル素材ではなくリサイクル素材という言葉を使うケースが増えています。サステナブル素材は幅が広く定義が不明瞭です。ファストリはリサイクル素材を、ポリエステルに始まり、レーヨン、ナイロンに広げていくとしています。化繊のインナーやフリース、ダウンといったアイテムに強い同社の商品特性や、東レなど最新素材開発のパートナーを持つ点から考えると自然なことです。同時に、課題は山積みです。複合素材の分解やリサイクルはどうするの?回収課題は?など。サステナビリティ目標を発表した会見でも「複合素材のリサイクルはイノベーションが必要」と語られていました。課題は多いが目指す、その背景には世界的な潮流である循環型のビジョンがあると思います。

――循環型のビジョンというのは、会見で示された後、1月に発表されたファストリの22年版サステナビリティレポートにも掲載されたイラスト(※1)のことですね。

向:そう、このイラストがあの会見の全てだったと言っても過言ではありません。作って売って終わりのリニア(直線)型から循環型へ。言葉ではよく聞きますが、このように分かりやすいイラストに落とし込んだことで、同社が掲げる「LifeWear」「新しい服のビジネスモデル」と、サステナビリティが結びつきました。循環型の図は一つの円で表現したものをよく見ますが、肌の色が異なる3人の顧客を中央に据えて、8の字型にしているところがファストリらしいし、世界のスタンダードでもあります。前出の「リサイクル素材」は図の1と4の間の「リサイクル」にあたります。服から服への水平リサイクル、これをケミカルリサイクルと呼びます。

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