ファッション

コペンハーゲンはこの3人のデザイナーが面白い 「ここのがっこう」卒業生や「セシル バンセン」出身者ら

 2月1〜3日に開催された2022-23年秋冬シーズンのコペンハーゲン・ファッション・ウイーク(Copenhagen Fashion Week、以下CPHFW)に参加してきました。デンマークは2月1日から感染対策に関する規制が全面解除。24ブランドがリアルのショーを行い、ディナーや上映会などさまざまなイベントが開催されました。デンマークを代表する「セシル バンセン(CECILIE BAHNSEN)」は2シーズン前からパリに発表の場を移しており、コペンハーゲンではジュエリーブランド「ソフィ ビレ ブラーエ(SOPHIE BILLE BRAHE)」と共にディナー会を実施。市場規模を広げている「ガニー(GANNI)」はデジタル発表で、最終日に上映会を兼ねたディナーを開きました。目玉となるブランドのショーはなかったものの、欧州とアメリカから多くのインフルエンサーとジャーナリストが現地入りしていました。

 参加ブランドでは、「サックス ポッツ(SAKES POTTS)」「スティーヌ ゴヤ(STINE GOYA)」「マーク ケンリー ドミノ タン(MARK KENLY DOMINO TAN)」などのベテラン勢が安定のクリエーションを披露。しかしCPHFWが今後さらに発展していくためには「セシル バンセン」のような、個性の強い新進ブランドが出てきてほしかったというのが本音です。そこで今回は、若手デザイナーの取材に奔走してきました!CPHFWが次なる「セシル バンセン」と期待を寄せるデンマーク人や、革新的な生地開発に取り組むウクライナ発のブランド、若手支援を目的としたコンペティションで受賞した日本人ら、現地で見つけた注目のデザイナー3人を紹介します。

注目度はナンバーワン
ROEGE HOVE

 まずは、2019年創設のウィメンズ・リブリットウエアブランド「エ ローエ ホーベ(A. ROEGE HOVE)」。デンマーク人デザイナーのアマリー・ ローエ・ホーベ(Amalie Roge Hove)は、デンマーク王立美術アカデミーでニットデザインを学び、「マーク ケンリー ドミノ タン」と「セシル バンセン」でテキスタイルデザイナーを経験しました。CPHFWに参加するのは昨シーズンに続いて2回目。昨年11月にはデンマーク最大のファッション・デザイン賞“デンマークズ・マガザン・デュ・ノード・ファッション・プライズ(Denmark’s Magasin du Nord Fashion Prize)”でグランプリに輝き、賞金約620万円(35万クローネ)を獲得しました。イタリア綿を使った高品質な素材を、デンマークの伝統的なニットウエア技術を用いて製作。伸縮性のあるリブニットが着る人の体のラインを称えるように、ボディーコンシャスなシルエットを生み出します。各国のジャーナリストと話していると、同ブランドが今季最も評価され、多くのメディアに取り上げられていました。

 ほぼ全ての製品が家庭用洗濯機で洗えるのも、評価すべきポイントです。日本が最大のマーケットだといい、伊勢丹やコンセプトストアと取り引きがあるそうです。今季のショーでは、昨シーズンからの新たなデザインの提案は見られなかったものの、賞金を使って来シーズンにはアクセサリーやアウターなどバラエティを増やして、クリエーションに磨きがかかっていくことを期待しています。

ボタニカル・ラグジュアリー
TG BOTANICAL

 2つ目は、CPHFWに初参加したウクライナ発のウィメンズウエア「TG ボタニカル(TG BOTANICAL)」です。デザイナーのタチアナ・チュマック(Tatyana Chumak)は、「タゴ(TAGO)」というブランドを17年前に立ち上げました。同ブランドのリブランディングにより、「TGボタニカル」として再スタートして2シーズン目となります。タチアナは、各アイテムを“生きた服”と表現し、自然由来の原料を使って生分解性テキスタイルで作っています。オーガニックコットンやリネンといった生地に加え、雑草のイラクサや、大麻草100%でファーに見立てたアウターなど、ウクライナで収穫される植物や薬草を、革新的な技術を用いて独自素材を開発しています。染色は茜の根っこ、どんぐり、玉ねぎの皮による草木染めで、テラコッタ、ピンク、ライラック、ブラウンの優しいカラーパレット。「時間の経過と日光を浴びることで色あせていく、自然な色彩を楽しんでほしい」という思いを教えてくれました。

 タチアナの実家は農家で、自然の中で生まれ育ちました。成人してからは都心での生活を続けていたものの、ロックダウンが転機となりました。地元の農家のコミュニティをサポートすることと地球の自然を守っていくために、持続可能なファッションブランドへとリブランディングする決心をしました。「最新テクノロジーと自然の調和で、環境負荷の少ない洋服の製造に注力していく」と話してくれました。

彫刻のように美しいニット
飯野 麟太郎

 若手支援を目的としたコンペティション、デザイナーズ・ネスト(Designer’s Nest)では、日本人デザイナーの飯野麟太郎さんがインターンシップ賞を獲得しました。飯野さんは1994年東京生まれで、「リトゥンアフターワーズ(WRITTENAFTERWARDS)」の山縣良和デザイナーが主宰するデザインスクール、ここのがっこうで学び、法政大学で学士号を修め、イギリス・ロンドンにある名門セント・マーチン美術大学(Central Saint Martins)を卒業しました。「ウェールズ・ボナー(WALES BONNER)」でインターンシップを経験し、ノルウェーの首都にあるオスロ国立芸術アカデミー(Oslo National Academy of the Arts) を昨年卒業したばかりです。今回のコンペでは、審査委員を務めた「トラサルディー(TRUSSARDI)」のクリエイティブ・ディレクター兼ベルリン発「ゲーエムベーハー(GMBH)」の共同創設者である、ベンジャミン・アレクサンダー・ヒュズビー(Benjamin Alexander Huseby)とセルハト・イシック(Serhat Isik)の二人に高く評価されました。飯野さんにはベルリンでのインターンシップの機会が与えられます。

 独りを意味する“Solitude”と題したコレクションは、縫製を一切していない、異なるニット技術で構成した彫刻のようなニットウエアです。体を包み込む優しさと同時に、外敵から守る鎧のような、コンセプチュアルな作品がランウエイに5体登場しました。パンデミックの最中に、オスロでコレクションを制作した飯野さんは、「孤立感・疎外感と、逆に一人になることで得られた居心地の良さのジレンマがとても人間的で、それをそのまま愛おしいと思い、制作を始めました」と教えてくれました。在学中にウールのリサーチをしていた際、牧場から脱走したまま洞窟に6年間住んでいた、ニュージーランドの“脱走羊”として知られる“シュレック”の話に感銘を受けたことがコレクション制作の出発点になったといいます。「服は“個”を定義するのに欠かせない要素。共有や共感が是とされる現代において、確固とした“個”を貫くことは同じくらい尊いこと。それ表現するために、このコレクションを制作をしました」と語る飯野さん。イギリスとノルウェー、そしてドイツに渡り、仕事と人生経験を重ねて彼自身の“個”を磨いていくのでしょう。それを今後クリエイションにどのように反映させ、私たちに見せてくれるのか。無限の可能性に満ちた日本人デザイナーに注目していきたいです。

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