ファーストリテイリングの2030年度に向けたサステナビリティ目標とアクションプランを、「WWDJAPAN」サステナビリティ・ディレクターの向千鶴と共に詳しく見ていきます。前編では、目標の中の環境領域にフォーカスしました。後編となる今回は、人と社会領域に対して同社がどんな目標を掲げ、実行していくのかを見ていきます。
ファーストリテイリングの2030年度
サステナビリティ目標&アクションプラン
人&社会領域 要旨
【サプライチェーンの透明性】
サプライチェーンの透明性を向上させ、原材料レベルまでのトレーサビリティーを確立
17年から順次、主要縫製工場、素材工場を開示してきたが、22年3月をめどに全縫製工場を開示予定
素材の最上流までを含むサプライチェーン全体で人権デューデリジェンスを実施し、人権リスクを早期把握するため、21年7月にグローバルで100人規模のプロジェクトチームを立ち上げ済み
【社会貢献活動】
ファーストリテイリング、ファーストリテイリング財団、柳井正財団との協働で、社会貢献活動をグローバル規模で拡大
25年度までに100億円規模で社会貢献活動に投資。難民、社会的弱者、次世代、文化芸術、スポーツなどの領域で1000万人支援。衣料支援も年間1000万着に拡充
【ダイバーシティー&インクルージョン】
30年までにグローバルで全管理職の女性比率を50%に引き上げ
LGBTQ+の従業員や客に配慮した事業環境の実現
――人&社会領域では、サプライチェーンの透明性向上とトレーサビリティーの確立について改めて表明しています。21年春以降、中国の新疆綿を巡ってウイグル人の強制労働が世界的に問題になり、ファストリにも批判の声が集まったことは記憶に新しいです。それを受けて、再度透明性を強調している印象を受けます。
向千鶴「WWDJAPAN」編集統括兼サステナビリティ・ディレクター(以下、向):21年12月にファーストリテイリングが行なった、30年度に向けたサステナビリティ目標の発表会見では、「これまでありとあらゆる地域で、第三者機関による工場監査も交えながら、サプライチェーンに問題がないことを実証してきている」「監査の結果、20年度は“極めて悪質”とされる工場は0件だった」というコメントも出ましたね。素材の最上流までを含めた人権デューデリジェンスのために、21年7月に100人規模のプロジェクトチームを立ち上げたとも公表しています。この人海戦術がポイント。「その目で現場を見たのか」という問いに対して「見た」と言える体制をとったわけです。もう一つ注目したいのが、“トレーサビリティー”という言葉。“追跡可能性”というふわっとした意味ですが、“透明性”とならび、サステナビリティを語るときの最重要ワードです。アクションプランとは、現実をつまびらかにすることから始まり、つまびらかにし続けることで継続する。明言はされていませんが、ここには人海戦術のマンパワーと合わせて、ブロックチェーンなどのデジタルの最新技術も投資されているはずです。
――社会貢献活動についての目標もあります。ファーストリテイリングや柳井正会長兼社長個人、関連する財団として、20年には京都大学にがん免疫研究などの支援として100億円を寄付、21年夏の東京パラリンピックで金メダルを獲得した車イステニスの国枝慎吾選手に褒賞金を1億円、21年秋に竣工した早稲田大学の「村上春樹ライブラリー」の建築費用12億円を同大学に寄付といったように、既に動き出しています。
向:もう完璧ですね。アクションプラン全般がそうですが、突っ込まれどころがない優等生な内容です。……なんて、やや意地悪な表現をしましたが、先日、ファーストリテイリング財団が明治学院大学で開いた、「難民子女のための学習支援教室」を取材して実に地道で意義のある活動だと思いました。財団の理事長である柳井会長兼社長は「難民の方は好んで母国を出たわけではない。難民問題は全世界で取り組むべきだ」と発言しています。いろいろな国籍、年齢の子どもが支援を受けて学んでいて、実際に彼らと会って言葉を交わすと“アクションプラン”“LifeWear”という言葉が体温を帯びてきます。
記者側も常にアップデートが必要
――前編と合わせて、ファストリの30年度に向けたサステナビリティ目標とアクションプランをどう受け止めていますか。
向:全体として、世界のサステナビリティの潮流を非常にしっかりつかんでいると感じました。ここまでで既に語ってきましたが、そもそもアクションプランというものを発表したこと、“サステナブル素材”ではなく“リサイクル素材”で目標を設定したこと、循環型のビジョンの図を公開したことが私はポイントだったなと思っています。
――サステナビリティ目標を発表するために行われた会見が、普段の記者会見とはやや違う形を取っていたのも特徴的でした。既に発表していた内容が多かったので、「この会見で伝えたいことは何なのか?」とやや混乱してしまった部分もありましたが、改めて目標がまとまって見えたことに意義がありますね。
向:“対話”を目指して記者が車座になる配置の記者会見でしたが、実際にはバンバン対話するムードではなく、記者は演出の一部になっていたな、というのが本音。終わった後、登壇者の前にはいつものように名刺交換&個別質問の長い列ができていました。オープンな対話を重視することには大賛成ですし、サステナビリティはそうあるものだと思うので、次回は是非、公開された場での対話時間を3倍くらいに増やしてほしいですね。同時に、参加する記者側もその場で質問をするにはサステナビリティに関する世界の最新情報や視点のアップデートが常に必要です。