「ボッテガ・ヴェネタ(BOTTEGA VENETA)」は2月26日、マチュー・ブレイジー(Matthieu Blazy)新クリエイティブ・ディレクターによるデビューコレクションを発表した。同ブランドがミラノ・ファッション・ウイークに参加するのは、2年ぶりとなる。会場は、歴史的建造物のパラッツォ・サン・フェデーレ。ミラノを象徴するドゥオモ(大聖堂)やスカラ座から程近いこの場所は2023年末までにはブランドの新たな本社になる予定で、現在は改装真っ最中だ。円形の会場内には、廃棄される金属を再利用した椅子が並ぶ。
ファーストルックは、フレッシュな白のタンクトップとジーンズのようなストレートパンツ。よく見ても見分けがつかないほどリアルに再現されているが、パンツは実はヌバックレザーにデニム風のトロンプルイユ(だまし絵)・プリントから発展させた精巧な加工を施したものだ。これからも分かるように、カギとなるのはブランドが誇る上質なレザーとクラフツマンシップだ。
「『ボッテガ・ヴェネタ』にイタリアの要素を取り戻したかった」とショー後のバックステージで話すマチューが提案したのは、スーツやコートなどのテーラリングを軸にした現代的なワードローブだ。テーラリングにこだわったのは、「イタリアでは、実際にストリートで着る服という意味で“ストリートウエア”だから」。そして、「時に伝統を受け継ぎ、異なる視点から見ることで、時代にふさわしいもの見い出すことも大切だ」と話す。
そこに、未来派の芸術家ウンベルト・ボッチョーニ(Umberto Boccioni)が100年以上前に制作した彫刻から着想を得た曲線的なフォームを取り入れることで、躍動感をもたらしているのがポイント。例えば、ピーコートの背中や袖は大きなカーブを描き、クロップド丈のフレアパンツは前に向かって少し長くなっている。その背景には「ボッテガ・ヴェネタは、ハンドバッグがルーツの会社。バッグを持つのは、どこかに出掛けるときだから」という考えがあったという。
技巧を駆使したドラマチックなアイテムも
全体的にクリーンなシルエットをベースにしながらも、巧みな技術を駆使してドラマチックに仕上げたアイテムも多い。象徴的なのは、裾から極細のレザーフリンジが覗くフレアスカートとドレス、そしてレースにスパンコールを重ねたスリップドレス。メンズは、レザーコードを編んだセーターやパッチワークのようにさまざまな編み地を組み合わせたジップアップニットでクラフト感を取り入れた。
アクセサリーでも、シグニチャーの編み込み“イントレチャート”を生かしたクラフト感あふれるデザインが目立つ。バッグは、ロープ状のストラップを肩から背負うように持つバケットバッグや、座席に置かれたクッションを縮小したようなクラッチ、鈍い輝きを放つメタルパーツを施したフラップバッグやボックスクラッチなど。ウィメンズのシューズは大胆なスーパープラットフォームヒールのスタイルから、ヒールが踵より前に入ったパンプスやニーハイブーツまでをそろえ、メンズではオーバーサイズのラグソールをポイントにしたショートブーツや金具付きのローファー、スリッパなどをそろえる。前任のダニエル・リー(Daniel Lee)はアクセサリーで高い支持を得ていただけに、新たなラインアップを市場がどのように受け止めるか気になるところだ。
イメージ的にもビジネス的にもブランドに大きな成功をもたらしたダニエルが突如退任した後、20年から同ブランドのデザイン・ディレクターを務めていたものの無名だったマチューが、クリエイティブ・ディレクターを任されることにはプレッシャーや不安もあったかもしれない。しかし、デビューコレクションは、これまで「メゾン マルタン マルジェラ(MAISON MARTIN MARGIELA/現メゾン マルジェラ)」のアーティザナル・コレクションや、フィービー・ファイロ(Phoebe Philo)による「セリーヌ(CELINE)」、そしてラフ・シモンズ(Raf Simons)による「カルバン クライン(CALVIN KLEIN)」などで培ってきた実力とブランドへの理解を感じさせる、美しく完成度の高いものだった。
また、何度も「we(私たち)」という言葉を使い、「自分だけでなくチームで作り上げたものだから」と話す彼の姿からは、モノづくりに欠かすことのできないチームワークを大切にしていることが伺える。マチュー、そして彼と一緒にコレクションを作り上げるデザインチームや職人たちによって、新生「ボッテガ・ヴェネタ」は力強い一歩を踏み出した。