黒河内真衣子が手掛ける「マメ クロゴウチ(MAME KUROGOUCHI以下、マメ)」が、22-23年秋冬コレクションをパリ・ファッション・ウイーク(PFW)の公式スケジュールで発表した。3月1日にPFWのプラットフォームで配信したのは、2月21日に東京で実施したランウエイショーだ。テーマは“Land”。前シーズンに続き、黒河内の出身地である長野の自然や文化に思いをはせている。「ブランドは私にとって私小説のようなもの。故郷はいつか取り上げようと思っていたが、設立12年を迎え、今作っておく必要があると思った」と黒河内は話す。
ショー会場は、キリリと冷えた静謐な空気が漂う東京・上野の法隆寺宝物館屋外。ショーの前に、まずは今季の着想源を紹介する展示へと通された。そこに並んでいたのは、長野で出土したという縄文土器の破片や美しい自然のスケッチと、それをレースや織り、編みなどで繊細に表現したピースだ。
「自分がもし縄文時代に生きていたら」
いにしえの文化と大いなる自然。それを直球で服に落とし込むのではなく、モダンな感覚と組み合わせていく。苔のような深いグリーンのセットアップと、はっと目が覚めるネオンオレンジの掛け合わせ。黒曜石の断面のようにつやつや光るベルベットのドレス。スポーティーなミニドレスには、山肌のように複雑に色が混じり合う生地を使った。モッズコートはジャカードの膨れ織りが有機的な文様を描き、ロングドレスはコード刺しゅうが植物のように体に巻きついて、生命のパワーがみなぎる。白馬五竜の絵織作家と組んで、雪山や紅葉した山肌を表現したというバルキーセーターも注目だ。
「ここ数カ月間、考古学者や山の研究者にしか会っていない」と、ショー後に笑いながら話した黒河内。リサーチを重ねた内容をもとに、土器についてすらすら説明する姿は、まるで彼女自身も学者のよう。「縄文土器の文様や形は、当時の人が自身の信仰や、見てきた自然を投影したものだと私は感じた。私が表現するものは服。自分が縄文時代に暮らしていたら、どんな表現をしただろうと考えた」。その結果、幼いころに見た景色の中のチューリップや、自分の心にいた「ヘビの神さま」などを有機的な文様として取り入れたという。「何百年後かに私の服を見た人にも、どんな人がどんな思いで作っていたのか想像してほしい」。
「自然の景色にはどうやってもかなわない」
前シーズンと同じく故郷・長野をテーマにしていても、はかなさを感じる表現だった前回に対し、自然の雄大さ、生命力が根底にあるのが今シーズンの特徴だ。「自然の作り出す景色のすばらしさには、どうやってもかなわない。モノ作りをする人間だからこそそう感じるし、少しでも自然が作り出すものに近づきたい」と話す。絵織作家と組んだバルキーセーターも、まさにそうした思いの延長上にある。「白馬の美しい景色を残したいという、作家の方の純粋な気持ちに心を動かされた。私以外が描いた柄を取り入れるのはブランドとして初めて。(名の知られた作家の作品というわけではないが)そういう作品にも美しさがある」。
コロナによって、21年春夏シーズン以降は、国内の産地を訪ね歩いたり、発表のためにパリに渡航したりといった以前の“当たり前”は一切できなくなった。しかし、「過去数年間は非常に忙しく、ここまで制作に時間をかけることができなかった。この半年間は本当に幸せな時間だった。モノ作りはこうでないといけない」と、今シーズンも黒河内は繰り返す。東京でショーをしたのは、18年3月以来の2回目。常に私小説のようだと語るコレクションは、今季は故郷というテーマもあいまって、いっそうパーソナルな思いにあふれている。