「オフ-ホワイト c/o ヴァージル アブロー(OFF-WHITE c/o VIRGIL ABLOH)」はパリ・ファッション・ウイーク初日の2月28日、昨年11月に急逝した故ヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)をたたえるトリビュートショーを開催した。会場は、町の中心部にある旧証券取引所。その周辺には、多くの若者たちが詰めかけた。今回のショーには彼と生前親交のあったゲストが数多く訪れ、その中にはリアーナ (Riahnna)やエイサップ・ロッキー(ASAP Rocky)、ファレル・ウィリアムス(Pharrell Williams)、デザイナーのニゴ(Nigo)やジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)、グラム・ヴァザリア(Guram Gvasalia)、そしてアレクサンドル・アルノー(Alexandre Arnault)「ティファニー(TIFFANY & CO.)」プロダクツ&コミュニケーション エグゼクティブ バイスプレジデントらの姿もあった。
「宇宙船地球号、空想の体験(SPACESHIP EARTH, AN “IMAGINARY EXPERIENCE”)」と名付けられた今回のショーは、25分におよぶ壮大なものだ。まず前半には、ウィメンズ&メンズの2022-23年秋冬コレクションと、新たにローンチするスキーウエア・コレクションを披露した。“セクシー”がキーワードのウィメンズは、マイクロミニ丈や深いスリット、ローウエストのデザインを多用。それらにウエスト部分にひねりを加えて絞ったテーラードジャケットや、パッチポケットが特徴的なコートやカーゴパンツ、シアリングのアウターなどを合わせている。
メンズはスケートカルチャーに紐づくリラックスフィットをミニマルな視点で再解釈した。ラインアップは、ハニカム(蜂の巣)状に大きな穴が空いたニット、穴あきデザインのレザーパッチやクリップをアクセントに添えたスーツ、アイコニックなバーシティージャケット、ボリューミーなパファーや人工ファーのアウターなど。テーラードパンツの上に同素材のプリーツスカートを合わせるスタイルは、「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」のメンズにも通じる提案だ。
男女共通のルックを仕上げるのは、オーバーサイズのベースボールキャップやかっちりとしたワンハンドルバッグ、ふっくらした半月型バッグ、メタリックなボックスクラッチ。スキーウエアラインでは、タイダイ柄をスキャンしたプリントを全面にあしらったパフォーマンスウエアを提案する。
ショー中、2人のモデルが掲げた旗に書かれた“クエスチョン エブリシング(QUESTION EVERYTHING)”の文字は、百貨店の「ギャラリー・ラファイエット」をはじめ、パリ市内の多くの場所に掲げられ、“何でもうのみにせずに、自分の頭でしっかりと考えよう”というヴァージルからのメッセージを受け取る。情報や異なる意見が溢れ、それに惑わされたり、振り回されたりすることが多い今を生きる人々に響く言葉ではないだろうか。
ヴァージルが生み出した「オフ-ホワイト」流クチュール
フィナーレ後に始まったのは、ヴァージルならではの視点で生み出されたハイファッション・ライン“> ザン ア ブライド(> THAN A BRIDE)”のクチュールショー。会場に巨大なシャンデリアが吊るされているのに納得がいく展開だ。ナオミ・キャンベル(Naomi Campbell)やシンディ・クロフォード(Cindy Crawford)から、ジジ・ハディッド(Gigi Hadid)、ベラ・ハディッド(Bella Hadid)、ケンダル・ジェンナー(Kendall Jenner)、カイア・ガーバー(Kaia Gerber)までそうそうたる顔ぶれがまとった28ルックは、まさにストリートの感性を生かして仕立てたオートクチュールだ。
Tシャツやフーディー、バーシティージャケット、ベースボールキャップ、グラフィックなど、カジュアルなアイテムやブランドらしい要素を盛り込み、ティアード状に重ねたチュール、ふくらみをもたせたタフタで作るボリューム感、長いトレーンを引く優雅なシルエット、スパンコールやクリスタルのきらびやかな装飾などと融合させた。ショーのノートを見ると、それぞれのルックには“ザ・ブライド”や“ザ・パーティーガール”“ザ・スケーター”といった名前が付けられている。
ヴァージルは、21年7月に21-22年秋冬メンズ&ウィメンズのコレクションのショーを開いた後、このハイファッション・ラインを制作したという。業界の常識にとらわれず、新しいことに取り組み続けたヴァージルは、真の開拓者だ。彼の功績が忘れられることはないだろう。