YKKのファスナー事業が急回復している。同社の2022年3月期の売上高は前年比39%増の3430億円、営業利益は約7.3倍の441億円、ファスナー販売本数は102.9億本になりそうだと発表した。いずれも期初の見通しを大きく上回っており、売上高とファスナー販売本数は過去最高になる。YKKはファスナーで世界的に高いシェアを有しているが、コロナ前の20年3月期には2年連続の暖冬に伴う世界的なアパレル市況の落ち込みで苦戦を強いられていた。20年3月以降にコロナ禍で世界経済が停滞する一方、流通在庫が一巡したことで、世界のアパレル産業は急回復していると言えそうだ。
営業利益は19年3月期の542億円が過去最高だが、YKKは昨年4月にファスナー機の開発・生産を行う工機部門を統合するなど大掛かりな組織変更を行っており、「営業利益も(実質的には)過去最高の水準。期初には想定していなかったが、年間を通じて欧米の大手アパレル・小売り企業からアパレル市況の回復を見込んでアジア・中国のサプライヤーに大量の発注を行った」(大谷裕明社長)という。23年3月期も回復基調は継続する見込みで、売上高は同2.8%増の3527億円、営業利益は同13.6%増の501億円、ファスナー販売本数は107.3億本を計画する。22年度の見通しについて大谷社長は、「コロナ禍で不透明な部分も多い。22〜23年の秋冬物までは旺盛な需要が続き、22年度の上期までは好調が続くと見ているが、下期はコンサバティブに見ている」という。
また、世界的にアパレル市況が急回復する中でも、日本は回復が遅れている。「足元の日本経済は回復が遅れ、事業環境は不透明だ」という。
高騰を続ける原燃料価格の高止まりについては、21年度に関しては「金属ファスナーの材料の銅が高騰したものの転嫁を行わず、こちらで吸収した。ただ多くの合繊原料が高止まりしており、樹脂ファスナーに関しては自助努力だけでは吸収しきれず、価格調整をお願いする可能性がある」という。
22年度の設備投資は396億円を計画しており、パキスタンではファスナー生産工場の新設を計画している。また、サステナビリティとデジタル分野への投資を本格化し、今年度でそれぞれ67億円、22億円を計画する。
24年度までの中期計画も発表しており、最終年度には売上高3949億円、営業利益640億円、ファスナー販売本数121億本を計画する。いずれも過去最高になる。コロナ禍で加速してきたDXやオートメーション化、革新的な設備導入によるコスト削減などの構造改革を仕上げることで、これまで課題だったファストファッション分野の拡大や新興企業の取り込みを狙う。